第87話 経過
冬が来て、春が過ぎ、そして夏が巡ってきた。
帝国内では、結核による感染者は見られず、安寧の日々を送っている。
一方王国では、芥川による治療が施され、現在風土病に苦しめられている人々を救っていた。
しかし、根本的な解決には至ってないのが現状だ。寺門と芥川が交わした言葉の通り、一生をかけて根絶に動いていくことだろう。
そんな中、寺門たちはいつものように、冒険者稼業を続けていた。受ける仕事は中級でもこなせそうな内容だ。しかし、寺門たちは初心を忘れないように、定期的に中級や、初級の依頼をこなしている。
この日は、採取系の依頼を受けていた。
「ふぅ、こんな所ですかね。さ、早いうちに撤収しましょう」
「そうだね」
そういって、採取したものを車に積み込み、冒険者ギルドに戻る。
寺門がこの世界に来て早5年が過ぎようとしていた。その間にも、いくつか変わったことがある。
まず、寺門たちは共同の家を買うことになった。場所はスカーレット家のある街の郊外だ。この場所なら、すぐに冒険者ギルドにも向かえる他、私物が多くなってきているため、倉庫としての役割も果たしてくれる。
そのほか、車に目をつけた馬車の製造工房が、寺門に接触したことくらいだろう。馬車の車体にバネを使用することによって、車輪からの揺れを抑えたいということらしい。もちろん、技術を提供するのは必要なことなので、料金をしっかり貰った上で、技術を教えることにした。
そんな感じで、寺門たちは上級冒険者でありながら、活発的な活動を行っているのだ。
閑話休題。
冒険者ギルドに戻ってきた寺門たちは、採取したものを預けに行く。
「ヤツカラヨモギですね。採取お疲れ様でした」
そして依頼達成の報酬を受け取る。
「さて、今日はこれで終了ですね」
「この報酬でパーッとやっちゃおう!」
「いいですね」
そんな話をしながら、受付を離れようとした時だった。
「あ、リョウ様。少しお待ちください」
「はい、なんでしょうか?」
「実は、リョウ様宛てに依頼書が届いていまして」
「僕宛てにですか?」
「はい。一度目を通してもらえないでしょうか?」
「分かりました」
そういって、受付の人が持ってきたのは、機密性の高いファイルであった。
寺門はそれを受け取ると、中身を確認する。
依頼主は帝国南部の領主であった。
その依頼内容は、次の通りであった。
「現在帝国南部の海上にて、猛烈な嵐が発生している。発生していること自体は問題はないのだが、この嵐が海上の同じ位置に2ヶ月も居座っているのだ。これは気象学的にはありえない現象である。調査に行きたいのは山々だが、船を嵐の中に突っ込ませるのは気が引ける。そこで、空を飛ぶことができるという上級冒険者がいる噂を聞きつけ、これを依頼している。嵐の原因を突き止めてくれないだろうか?」
こう依頼書には書かれていた。
「そう来ましたか……」
寺門自身、動翼付きジェットパックは定期的に使用している。感覚を忘れないようにするためだ。
それが、このような形で活かされるとは思いもよらなかったが、それはそれで置いておくことにした。
今回の依頼は、ジェットパックを使った偵察飛行といったところだろう。
「この情報は、港に隣接する冒険者ギルドにも行き届いているはずなので、船の手配などはそちらで行ってください」
「分かりました。早速向かいます」
「南の街って行ったことないから興味あるなぁ」
「ボクも初めてです」
「それじゃ、少し準備したら行きましょうか」
そういって、寺門たちは一度家に戻り、準備を済ませる。
寺門は、ジェットパックを倉庫から取り出すと、整備を始めた。
「断線とかは……してない。エンジンも……問題なし」
各種点検をして、それを車に積み込む。
「準備できたー?」
「ボクは大丈夫です」
「こっちも問題なしです」
「それじゃあ、南の街に出発!」
そうモニカが言って、寺門が車を走らせる。
主幹道路を利用し、2日ほどで目的地である南の街に到着した。
そして到着と同時に、あるものが目に飛び込んでくる。
「あれが……今回の依頼ですか」
そう。海の向こう側、距離的にはそう離れていない海上に、渦を巻いて鎮座する巨大な雲。
寺門としては、超巨大積乱雲が思い起こされる。
「あれだけの巨大な嵐……。空を飛ぶにしては極限の状態ですね」
「じゃあ依頼受けるのやめる?」
「そんなわけには行きません。依頼主は僕たちを信頼して依頼を出したんですから」
「なんかリョウさんっぽくない発言ですね」
「そうですか?とにかく、この街の冒険者ギルドに向かいましょう。何か情報が入っているかもしれませんし」
そういって寺門は車を出す。
何かわからない、一抹の不安とともに。
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