第81話 懇談
式典は盛大に執り行われる。
なにせ新大陸にいる、新たな文明との交流が始まるからだ。
まずは音楽隊による来訪の演奏である。
それに合わせるように、桟橋の奥の方から帝国の服装とは異なる、質素ながらも高級感あふれる服に身を包んだ人々がやってくる。
その来訪者が所定の場所まで来ると音楽は鳴りやむ。
そしてすぐさま別の音楽が鳴り響く。帝国の国歌である。
帝国の国歌は、勇敢な兵士たちを称えるような曲で、なんとも力強い曲調が特徴的だ。
その演奏が終わると、首相であるジャスラが出てきて、王国の使節団に対して挨拶をする。
「本日は帝国まで来ていただき、誠に感謝する。今日この日は、帝国と王国にとって、とても素晴らしい日になったことだろう。我々は共に手を取り、共に歩むことで、その友好的な姿を世界に知らしめることが出来る。そしてこれは、未来永劫変わらない関係を築くことになるだろう。使節団の諸君、帝国へようこそ」
そういって言葉を締める。
その後は王国の使節団の話だ。
「本日はこのような機会を与えて頂き光栄だ」
寺門にはこのように聞こえたものの、その直後に帝国の人間がもう一度同じ内容を繰り返して言った。
この事に寺門は思わず困惑してしまう
「リョウ君、どうしたの?」
「いえ、王国の使節団が話している内容をもう一度言う必要はあるのかなと思いまして……」
「もしかしてリョウさん、王国の方々の言葉が分かるんですか?」
「……なるほど」
この時、寺門はある事を思い出した。
それは、この世界に転生してくる時、女神に異世界の言語を理解することが出来る魔法をかけてもらっていた。
これは帝国のある大陸のみならず、王国の言語までも翻訳しているということなのだろう。
「僕は異世界人なので、言葉が分かるみたいです」
諸々の説明を省いて、寺門はこのように説明する。
「えー、なんかズルいなぁ」
「そうですよ」
「そうですかね?まぁ確かに、直接コミュニケーションを取れるのは有利ですね」
そんなことを言っている間に、使節団の挨拶は終了したようだ。
そして再び音楽が鳴り響き、王国の使節団が移動を開始する。
こうして、簡単ながらも式典は終了した。
この後は、立食パーティーだ。
その会場へと寺門たち含め、式典参加者全員がパーティー会場へと移動する。
パーティー会場は、徒歩で10分程したところにある、軍施設の一画を使って行われる。
内装も、今回のパーティー用に装飾を施してあるようだ。
「軍の施設とは思えない程きれいな場所ですね」
「もしかしてここ、ダンスホールなんじゃない?」
「ダンスホール……ですか?」
「しかし軍施設なので、女性はいないと思いますが……」
「外から呼んでくるんでしょ?そういうことはよくあることだよ」
そういうものか、と寺門は思うのであった。
ホールにはテーブルがいくつか置かれており、そこには料理の数々がある。
ホールの奥には、先ほどの使節団が座っているテーブル席があり、ここで通訳を介して会話を行うようだ。
「えー、皆さん。お集まり頂きありがとうございます。これより立食パーティーを開始いたします。皆さん、使節団とのお話、また参加者同士のお話しをお楽しみになられてください」
こうしてパーティーは始まった。
それと同時に、使節団の元にパーティーの参加者が殺到する。
皆、異文化に触れてみたい衝動があるのだろう。
「リョウ君は行かなくていいの?」
早速料理に手を付けているモニカが聞く。
「えぇ。今行った所で混雑の元になるだけですし、しばらくは遠巻きに見てる事に徹しますよ」
そう言って、ウェイターが配っていたシャンパンを貰った。
使節団の前に出来た列はかなり出来ていた。処理する速度も遅いことだろう。
そして数十分後。いくらか列が空いてきたタイミングを見計らって、寺門は列に並ぶ。
そのまま十分ほどしただろうか。寺門の番が回ってきた。
「通訳を担当する者です。質問は私を通してくださいませ」
「あ、それには及びません」
そういうと、寺門は使節団の方に直接言葉をかける。
「僕の言葉が分かりますか?」
「あら。貴方は私たちの言葉が分かるのですか?」
「えぇ。特殊な事情がありまして」
「そうなのですか……」
その会話の様子を通訳の方が見て、大層驚いている。
それはそうだろう。今まで接触してこなかった文化の言葉を完璧に話しているのだから。
そんな通訳は無視して、寺門は聞きたいことを聞いていく。
「その長い耳、端麗な容姿。僕の記憶では、あなた方はエルフと呼ばれる方々ですか?」
「その通りよ。私たちは人間とは異なる種族、エルフと自称しているわ」
「では、皆さん弓の使い方が上手ということで?」
「全員が全員そうではないけれど、確かに王国の国旗には弓が描かれているわね」
そういう基本的な情報を仕入れていると、使節団の一人が急にせき込む。
「彼は大丈夫なのですか?」
「本人は大丈夫とは言っているのだけれど、先月からせき込んでいるのを見ているわ」
「そうですか。お大事にしてくださいね」
そう言った所で通訳に止められる。
「そろそろ時間ですので……」
「そうですか。ではまた機会がありましたらお会いしましょう」
「では名前をお聞きしてもよろしいかしら?」
「えぇ。上級冒険者の寺門陵介です。他の方からはリョウと呼ばれています」
「私は王国の使節団の団長、エフリヒカ・ナビードですわ。リョウさん」
「それではナビードさん、ごきげんよう」
そういって寺門は去る。
「あ、リョウ君お帰り。どうだった?」
「彼女とはいい話が出来ました」
「やっぱり言葉は分かるんですか?」
「えぇ。やはり、異世界人の特権なんですかね」
そういって寺門は料理に手を付けるのであった。
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