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第72話 ジャルカム事件

 今から約120年ほど前。

 当時は帝国、共和国、連邦のある大陸は未知の場所が多かった頃である。

 そのため、帝国は冒険者や軍を使って、連邦は測量専門の部隊を配備して、この大陸の調査を行っていた。共和国はこの事にあまり積極的ではなかったものの、当時3ヶ国が交わした条約には、大陸測量計画も盛り込まれていたため、共和国も微力ながらに測量調査をしていたのだ。

 そんな中、当時3ヶ国が存在する大陸以外には海しかなく、その果てはガラスで出来た壁が存在すると考えられていた。いわゆる惑星平面説である。そしてこの星は、ガラスドームに覆われたスノードームの中にあると考えた、ガラスドーム的宇宙観が一般に知れ渡っていた頃だった。

 当時の常識がこのようなものだったがために、特に大陸外への関心は薄い時代だったとも言えよう。

 そんな時に、帝国、連邦両国は、海の果てには何があるのかを調査する、初の海洋遠征航海を実施する事を計画する。

 その際、両国から1隻ずつ、2隻の帆船が用意される。

 2隻は当時、帝国領の一つであったジャルカム島の沖合で合流することになっていた。

 このジャルカム島での出来事が、後にジャルカム事件として有名になっていく。

 当時は天気は良好であったが、波は高く、風も相当に強かった。

 しかしこの機会を逃すとなると、次いつ出発出来るか分からない状態。

 ならば調査を強行するしかないと彼らは考えたのだろう。

 そしてジャルカム島へ合流を急ぐ。

 帝国帆船が、先に合流地点へと来ていた。


「……天気はいいが、波が高すぎる。それに風も吹き荒れているな」

「船長、このままでは流されてしまいます」

「分かっている。艦を風上50度、帆と錨を降ろせ」

「了解」


 そういって帝国帆船は、どうにかしてその場に留まろうと努力する。

 そんな時だった。


「船長、連邦の調査艦がやってきました」

「ようやくお出ましか。ずいぶんと時間がかかったんじゃないのか?」


 そんな他愛もない話をする。

 しかし、観測員は何かの違和感を感じた。

 連邦艦船はかなりのスピードを出して帝国帆船に近づいてきたのだ。


「船長。連邦の艦、ちょっと速すぎやしませんかね?」

「うん?どれ?」


 そういって船長が連邦艦船を見る。

 確かに、艦首の波しぶきが大きいのが分かる。


「確かに少し速い気もするが……」


 そんな事を言っている内にどんどん船同士の距離は縮んでいく。


「せ、船長!回避行動を!」

「う、うむ!錨上げろ!面舵一杯!」


 甲板上で船員たちが必死に帆を降ろし、錨を上げて回避行動を取ろうとする。

 しかし不運な事に、船が動き出したと同時に、連邦艦船が帝国帆船の横っ腹に衝突したのだ。

 そこからは、阿鼻叫喚の光景である。

 特に被害の大きかった帝国帆船は舷側に大きな穴が開いた。それによって、帝国帆船はものの1時間もしないうちに沈んでしまったのだ。

 それだけなら、まだ事故として処理することが出来ただろうが、問題はその後にも発生した。

 それは、連邦艦船が帝国の乗組員たちを助けなかったことにある。

 衝突の後、連邦艦船は艦首にダメージが入っていたが、自力で航行出来る状態にあった。

 それなのに、一切帝国の乗組員を助けなかったのだ。

 この時、連邦艦船は混乱していたのだろう。しかしそれが選択を間違えることになる。

 そして連邦艦船は、そのまま母港へと帰還してしまう。

 連邦艦船内では、あの状況で助かった人間はいないという暗黙の了解を全船員に通達した。連邦艦船はこの事故を隠匿しようと考えたのだ。

 しかし、帝国帆船沈没直前に通信士が帝国に救難要請を発しており、それを受信してから72時間後には帝国の軍艦が救助にやってきたのだ。

 そして奇跡的に数名、生き残った船員がいた。

 その後の事情調査によって、連邦艦船が行った行為は人道に反する行為だとして弾劾したのである。

 それに関しての連邦はこう返した。


「当時、帝国帆船がいた海域は潮の流れがひどく、コントロールが上手く行かなかった。そのため、今回の衝突は偶発的に発生してしまったものであると判断する。その後も現場の潮の流れは収まらず、この状態での帝国帆船と船員は完全に海の底に沈んでしまったと解釈した。仮にその状態で救助活動を行った場合、連邦艦船にも影響が発生する可能性があったため、救助活動は行わず帰港した」


 このように釈明したのである。

 そしてこの説明に、帝国は簡単にいうと、ブチ切れた。

 帝国の調査および聞き取りでは、当時の海の様子は波や風は強かったものの、十分に制御可能な範囲であった事を証明している。


「これは連邦の怠慢が引き起こした人災である」


 これが帝国の主張である。

 それに対して連邦の主張はこうだった。


「当時の気象条件では事故を防ぐことや救助活動は困難だった。人間は自然の前では無力である」


 この事がきっかけとなって、帝国と連邦の対立は大きくなっていく。

 帝国では反連邦感情が、連邦では反帝国感情が強く出るようになった。

 これが今日言われているジャルカム事件である。

本日も読んでいただき、ありがとうございます。

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次回もまた読んで行ってください。

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