第42話 休息
式典から数日が経った。
式典が終了してから、寺門はモニカとニーナと相談し、ある決断を下すことにした。
それは、寺門たちのパーティーの活動を休止するという決断だ。
今回の魔人騒動において、主に寺門が活躍したことで、寺門には精神的な休養が必要であるという判断がされた。
また、上級冒険者は冒険者ギルドが認定する有事以外では、滅多に冒険者ギルドに顔を出さない。それほどまでに上級冒険者は重宝される存在なのである。
その他、今回の魔人騒動の立役者として、かなりの金銭を貰ったことも、パーティー休止の決断の要因にもなった。
とにかく、寺門には休息が必要なのだ。
どこか帝国内のリゾート地でも訪れればとも考えたが、寺門としては希望する場所があった。
その場所こそ、スカーレット家の屋敷である。
「そういうわけで、しばらくの間、エボルトさんにお世話になろうと思います」
「まったく、急な話だな」
エボルトは頭を抱える。
その横で、アキナは目をキラキラとさせていた。
「リョウ、ずっと家にいるの!?」
「ずっと、というわけではないですが、しばらくの間いようと思います」
「わーい!やったー!」
喜んでいるアキナの様子を見ていると、拒否することも憚られるエボルトであった。
エボルトは一つ溜息をつく。
「分かった。君たちの居住を許可しよう。部屋はこちらで用意する」
「ありがとうございます」
こうして、寺門たちは休養というか、半分隠居に近い生活をすることになった。
そんな隠居まがいの生活を見てみよう。
まず部屋であるが、寺門は以前使っていた部屋を、モニカとニーナは別の部屋が充てられた。
寺門たちにとっては、久々の安息の場所であり、ベッドに潜り込めばすぐに眠りについてしまうことだろう。
モニカやニーナは一日程度眠り続け、寺門に至っては数日にわたってベッドで眠りについていた。それだけ、寺門にかかっていた身体的、精神的重圧は大きかったのだろう。
その後、目を覚ました寺門は復興の真っ最中である街の様子を歩いて見て回った。
スカーレット家の街は、幸い魔人一人による攻撃だったため、北にある街のように街ごとなくなっているような状態ではなかった。
しかし、建物自体が損傷し、建て替えなど余儀なくされている建物もあり、復興にはまだまだ時間がかかることだろう。
何もしないでスカーレット家に閉じこもっている現状で、何かできることはないかと寺門は考える。そしてそれをエボルトに相談した。
その答えはこうだった。
「確かに、君ならわが街の復興に役に立ってくれるだろう。しかし、それは不必要とも言える」
「どうしてですか?」
「君は仮にも休養に来ているんだ。ここでまた仕事をして倒れても困るのはこっちだ。それに、君がやるのなら冒険者ギルドを通じて冒険者を呼び寄せたほうが何倍もいい」
「僕は上級冒険者ですよ」
「上級だからだ。こういう単調で力のいる仕事は初級か、せいぜい中級になりたての冒険者がやるのが定石だ。上級は国家存亡の危機に瀕した時に活躍することを期待されて任命されるものなのだよ」
そういわれて、寺門は黙ってしまった。
つまり、寺門はある程度の身分を持った人間。それ相応の行動を要求される。
すなわち、寺門には役不足であるということだ。
「……分かりました。おとなしくしています」
「それで頼む。あと、これを渡しておこう」
そういってエボルトは、かなりの金銭を渡してくる。
「これは?」
「魔人の謎を明かしてくれと依頼しただろう?それを達成した報酬だ」
「あぁ、そんな依頼もありましたね」
「ずいぶん前のことだからな」
そういって寺門は報酬を受け取った。
それから寺門は自室に戻って、何かやるべきことがあるか考える。
しかし、そう簡単には思いつかなかった。
「やるべきことって意外に思いつかないものだなぁ……」
ならばと思考を変えて、やりたいことがないか考える。
「やりたいこと……。そういえば車がほしいって思ってたな」
馬車の代わりとなる足。車の存在はとても大きいものになるだろう。
「善は急げ、だな」
そう考えた寺門は、すぐに紙とペンを用意し、簡単な設計図を書き始める。ポンチ絵だが、頭の中で想像しているよりかは、こうして出力している方がいいだろう。
こうして、簡単な設計図が出来上がった。
「まずは作ってみないと分からないこともあるからな」
そのまま寺門は、執事に許可を取って、馬車を置いているガレージのような建物の一部を借りることになった。
そして寺門はそのまま、車作りに没頭することになる。
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