第34話 試作
寺門が対魔人兵器を開発すると宣言した翌日。
魔術学校にある知らせが入ってくる。
『魔人の巣窟、帝国中部の山岳地帯で発見。軍は警戒態勢に入る』
ついに、魔人の巣窟を発見したとの情報だった。
これは吉報であると同時に凶報でもある。なぜなら、これ以上の魔人の被害を防げるが、山岳地帯が最前線となってしまうからだ。
「ついに見つかりましたね」
「軍隊の人たち大丈夫かなぁ」
「騎士団もいることですし、何とかなるんじゃないですか?」
そんなことを寺門たちは話す。
寺門は対魔人兵器を作るために、設計の元となるポンチ絵を書いていた。
イメージはタガーのような、小型で携行可能な、なおかつ一撃で魔力流出刻印を刻めるようなものである。
そのため、ベースは刃を十字に二つつけたようなものを採用しようとしたが、それにしては大きすぎるし、邪魔になりやすい。
ならば刃を展開式にするのはどうだろうか。刃をワイヤーのようなものにして、高速で傷をつけるのなら大型にならずに済むだろう。
しかしそれをすると、機構部が大きくなってしまう可能性がある。
結局の所、機構部分が拡大してしまう上、動作不良に陥ってしまっては作る意味がない。
その時、寺門の頭をある考えがよぎる。
「体の表面に模様がつけばいいんだ……」
それは、皮膚になんでもいいから模様を描けばいいことを意味する。
例えば、インクで書き込むのもよし。なんなら火傷させて模様を書き込むのもよし。
寺門は魔術による火傷を利用して、体に魔術流出刻印を刻み込むことを考えた。
手元は短剣のようにして、そこにスイッチを設置する。肝心の体に触れる部分は二股のようにして、その先端から十字の超高温のガスのようなものを噴射させることにした。
こうすることで、スタンガンのように相手に押しつけてスイッチを入れることで、相手に魔力流出刻印を刻み込める。
「これにしよう」
こうして対魔人兵器のスペックは決まった。
寺門はこれの試作品を作ってみることにする。
材料はそこらへんの武器屋で調達することにした。
武器屋の商人に話をして、なまくらの短剣を数本、格安で譲ってもらう。
そしてこの短剣を元に改造することにした。
まずは刀剣の部分は不必要であるから、まずはこれを切り落とす。
そして魔法を使って、この刀剣部分を二股の金属片にする。
火属性と土属性を使って、うまく金属を成形した。
それをもう一度、短剣に装着する。
こうして二股に分かれた謎の短剣が出来上がった。
あとはこの短剣にスイッチを取り付け、スイッチを押したときに動作する魔法陣を書き込んでいく。
初めての作業が多いものの、なんだかんだうまく形になっていく。
こうして作業すること1週間。
「出来た……」
対魔人兵器、魔力流出刻印焼き付け装置の完成である。
「リョウ君、出来た?」
「えぇ、試作品の完成です。早速試してみましょう」
そういって寺門は革袋を用意する。人間の肉体に近いものを使おうと思ったら、真っ先に思いついたからだ。
「それじゃあ行きますよ」
そういって革に焼き付け装置を押し付ける。
そしてスイッチを押す。
すると、魔力が焼き付け装置に吸われるのを感じる。
次の瞬間、二股の先端からそれぞれ十字に、光の剣にも似た超高温の炎が吹き出す。
スイッチから指を離し、焼き付け装置を革からはがす。
革には、魔力流出刻印がくっきりとつけられていた。
「なるほど、1秒程度スイッチを押し続ければ、いい感じに魔力流出刻印を刻み込めそうですね」
「それじゃあ、実験成功?」
「はい、そうなります」
これで魔人に対抗できる手段を作ることが出来た。
あとはこれを前線にいる軍に配備するだけだ。
そのために必要な人脈を頼る必要がある。
「そういうわけで、エボルトさん。どうにか出来ませんか?」
魔術学校で馬車を借りて、スカーレット家にやってきた寺門。
エボルトは渋い顔で寺門のことを見る。
「まさか私が軍部と顔見知りであるって思ってきたのか?」
「違うんですか?」
「いや、違わないが……」
「ならいいじゃないですか」
「しかしだな、リョウ。これは重大な問題に発展する可能性もあるんだぞ?」
「理由を聞いてもいいでしょうか」
「本来、兵器開発は軍部が主導で専門の工廠が行うものだ。それがどこぞの素人が作ったものを使ってくれって言っても、誰も信用できないのだよ」
「そうですか。なら僕が軍部に突撃して直接交渉してきます」
「それだけは勘弁してくれ。私の顔に泥を塗る気か」
「なら軍部と交渉してくれますよね?」
「……ふー。君が厄介事をこれ以上持ち込んでこないと約束するなら、私から軍部に話をしてやる」
「ありがとうございます」
こうして、寺門の作った魔力流出刻印焼き付け装置は軍部に持っていくことになった。
そのために、まずは試作品を数本作る必要がある。
寺門は早速準備をして、それらをエボルトに渡すのだった。
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