第30話 実験
一言でいうと、難解な文書の羅列であった。
それは、論文という一つの形式に当てはまったもの特有の現象なのかもしれない。
しかし、これを読み進めなければ、魔人につながる情報は出てこないだろう。
「んー……!読みにくい!」
それはモニカやニーナも同じようで、何度読み返しても分かりずらい表現が繰り返されていた。
「モニカさん、ここ図書館ですよ?静かにしないと……」
「分かってるわよ、そんなこと。けどさ、文章全体が回りくどい書き方されてるから、もうわかんない。その上、単語も難しく書かれているから、ほんと何書いてるか分かんない……」
モニカは机に突っ伏した。
ニーナも苦戦しているようで、必死に論文を読み進めている。
寺門にとってみれば、この世界で使われている言語を読み解くのに苦労していた。その上、翻訳できない固有名詞が存在しているため、余計に読み進めるのが困難になっている。
まるで、日本語で書かれている論文の中に英文が混じっているような、そんな難しさを感じているのだった。
「まぁ、研究者ではない人間からしたら、こんなもんだよな」
そう研究者が言う。
その言い方には、寺門たちに期待していないような雰囲気を感じ取れるが、実際その通りなので、何も言い返せない。
その言葉を意に介さず、寺門たちは論文を読み進める。
「体内魔力量……、自然魔力……、魔力量2乗の法則……」
どれも難解な論文だ。しかも論文には、引用元の論文も掲載されていたりする。すべてを理解するためには、その引用元となる論文も見る必要があるだろう。
そんなことをしていたら、いつまで経っても前に進むことができない。
そのため、寺門はある程度重要な単語と思われるものをリストアップしていく。
「ん?なんだろう、この文字……」
寺門は読み込んでいた論文の中に、読めない文字を確認した。日本でもそうだったが、難読漢字が存在する以上、異世界にも専門用語のようなものがあり、それに意味が付随しているはずだ。
簡単に言えば、読めない文字を発見したということだ。
寺門はその文字を研究者に尋ねることにした。
「すいません。これってなんて読むんですか?」
「えーと?魔力圧均衡術式?なんだこれ」
研究者は、その論文を自分の手元に手繰り寄せて、論文の中身を見る。
「もしかしたら正解を発見したかもしれないぞ」
そういって、研究者はその論文の中身を熟読する。
「何か見つけたっぽい?」
モニカが聞く。
「みたいですけど、何を発見したのか分からないですね」
寺門は苦笑する。
その後、日が完全に暮れるまでその論文を読み漁った研究者であった。
そして研究室に戻ると、成果を発表する。
「約50年前の論文だ。動物実験にて魔力を意図的に制御する方法が書かれたものだ」
「50年前……。それだったら簡単には見つからないだろうな」
そんなことを研究者が言う。
「肝心の内容なのだが、魔力の体内流入や放出が手相によって起きているとするならば、体のどこかに意図的に模様をつけることで魔力を制御できるのではないかという仮説が立てられている。この仮説が正しいなら、それは単純な形状でできているとも推察されている」
「それで、結果はどうなっているんだ?」
「仮説は正しいことが判明した。動物実験によって、実験対象の魔力を外部から制御することに成功している」
「しかし、その論文が正しいとは限らないぞ。50年も前のものなんだろ?だったら今とは実験できる環境が異なるかもしれん」
「そうだな。そこで再現実験を行いたいと思うのだが、いかがだろうか?」
「それは賛成だ。魔人の研究にも役に立つかもしれない」
「そういうことなら、早速実験しよう。……と、その前に」
そういって研究者は寺門たちに目を配る。
「まずは実験材料を捕ってくる所から始めないとな」
「ゑっ?」
思わず寺門は声をあげる。
そして寺門たちの姿は、討伐祭りが開催される森にあった。
「いきなり実験材料として魔物を捕ってくるっていうのはどうなんでしょう?」
「仕方ないと思いますよ。ボクたち一応冒険者ですし」
「さっさと魔物捕まえて、学校に戻りましょ」
そういってサクッと魔物数体を捕獲する。
学校に戻り、動物実験を開始した。
「まずは体内に流入する自然魔力を抑制するものだな」
そういって、研究者は魔物の体に傷をつけていく。この方法は50年前の論文にも書かれている通りである。
研究者は三角形を上下対称にした、いわば砂時計を図形化したようなものを書き込む。
その直後、魔物の様子がおかしくなる。
「魔力数値はどうだ?」
「驚いた。魔力が同じ値で固定されている……!」
ここまでは実験成功のようだ。
次に、別の魔物を使って実験を行う。
「今度は魔力を強制放出する図形だ。これで一体どうなるか……」
今度はバツ印を少しずらして重ねたような書き方だ。
これで魔力が強制流出するのか。
「さぁ、書いたぞ。魔力は?」
「な、なんてことだ。体内魔力がどんどん低下していくぞ!」
魔力量を計測する装置に記された数値は、どんどん値が小さくなっていく。
そして完全に0になった時、魔物は苦しむ様子を見せ、そしてピクリとも動かなくなった。
それと同時に、魔物特有の禍々しさを感じなくなる。
「し、死んだのか?」
「いや、まだ息はある。死んではいないようだ」
「これは無力化したということか?」
「まだ分からない。これからの様子見といったところだろう」
「ひとまずは実験成功ということで」
この言葉に研究室の空気は安堵に包まれる。
図書館で見つけ出した論文は、現在の所正しいということが証明されたからだ。
あとは実験を繰り返していけば、限りなく正解に近づくことができるだろう。
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