第26話 依頼
エボルトは寺門の対面にあるソファに座ると、やさしく語りかけてくる。
「この街はたった一人の魔人の襲撃によって、壊滅的な被害を被った。しかし別の街では、複数の魔人に襲撃された所もある」
「帝国の北のほうですね」
「そうだ。いまだ魔人について知っていることは数少ない。帝国はこの状況を良しとしていないのは分かるね?」
「えぇ」
「帝国は、国内外から魔人の襲撃に屈しているのではないか、という疑念に晒されることを相当毛嫌っている。その証拠に、先月は帝国の軍隊のみならず、騎士団までも動かして魔人の討伐に全力を注いでいる」
帝国の軍隊は文字通り陸海軍からなるものだが、その上層組織として騎士団がある。騎士団は国の主賓が来た時など、重要な外交戦略として活用されることが多い。
そんな騎士団までも動かしているのを見るに、帝国は相当魔人の脅威に怯えているようだ。
「しかし軍隊では魔人の討伐は厳しいだろう。せめて実力ある騎士団の面々なら倒せるのだろうが……」
「確かに、そんな感じはしますね」
「うん?その言い方では、まるで魔人と戦ったことがあるような感じだな?」
「えぇ、実際に魔人と戦いましたし」
「それは本当か?」
そういってエボルトの体は前のめりになる。
「はい。厄介な相手だなと思いましたよ」
「そうかそうか。それなら、君に頼みたいことは余計重要性を増すぞ」
「その頼みたいことって、一体なんですか?」
寺門が聞くと、エボルトはゆっくりと背もたれにもたれかかる。
「それは、我々共通の脅威である魔人の謎を解き明かして欲しいのだ」
「僕が……ですか?」
「あぁ。もちろん専門家の意見も参照したい。そのためには、まず君にパイプの役割を持ってもらいたいのだ」
「パイプと言いますと?」
「魔術学校には魔人専門の研究室があると聞く。その研究室の研究者とともに、魔人の効率的な討伐方法を編み出してほしい」
「それなら簡単ですね。その研究室には一度行ったことがあります」
「本当かね!?なら話は早い。早速現場に向かってもらおう」
「現場と言いますと?」
「帝国の北にある街が魔人によって壊滅したという話はもちろん聞いているね?」
「はい、聞いています」
「実際にその街に行って、実況見分を行ってもらいたい。もちろん、研究者も一緒に連れてね」
「なるほど。ですがどうして僕なんでしょうか?上級冒険者がいるでしょうに」
「それはだね、リョウ。君だからやってほしいのだよ。これは信頼ある人間にやってもらいたかったんだ」
「そうですか……。分かりました。エボルトさんの頼み事、引き受けましょう」
「ありがたい」
「ただし、これは依頼として引き受けます。よって報酬なども用意していただけたら幸いなのですが……」
「もちろん、構わないさ。では、先ほどもらったお金から、前金として少々出させてもらおう」
そういって、エボルトは先ほど寺門からもらった袋を取り出し、前金としていくらかを支払う。
「成功したら、入学金程度は支払うよ」
「ありがとうございます。では、パーティーメンバーと相談して依頼を進めます」
「よろしく頼む」
そういって寺門は部屋から出る。
客人用の寝室に戻った寺門は、エボルトからの依頼について、モニカとニーナに話をする。
「……ということで、僕たちは魔術学校に戻り、研究者とともに魔人の襲撃を受けた北の街に向かい、調査をすることになりました」
寺門は、勝手に依頼を受けてしまい、申し訳なさそうにしていた。
しかし、帰ってきた返事は違うものだった。
「分かったわ。明日は朝一番に魔術学校に戻りましょ」
「北の街に向かうなら、足が必要ですね。魔術学校で馬車でも借りましょうか?」
「二人は勝手に依頼を受けたことに反対しないんですか?」
「反対はしないわ。私たちはリーダーであるリョウ君についていくだけだもの」
「そうですよ。ボクなんかよりずっと強いリョウさんに反対なんかしません」
「二人とも……。ありがとうございます」
こうして、寺門一行は北の街を目指すことになった。
翌朝、寺門たちはエボルトたちに見送られることになる。
「リョウ、本当に行っちゃうの?」
アキナが悲しそうにいう。
「えぇ、これもエボルトさんとの約束ですから」
「お父様との……」
「それに心配しなくても大丈夫ですよ。僕はなんだって強いんですから」
自分で自負するのはなんだか恥ずかしかったが、そうでも言わないと、アキナは納得しないだろう。
「うん、分かった。リョウ、気を付けてね」
そういって、アキナは寺門に近づく。
そして背伸びして、寺門の頬にキスをするのだった。
「なっ……!」
「えへへ、無事でいられるようにっていうおまじないっ」
その姿を見て、エボルトとモニカとニーナが固まってしまう。
しかし、エボルトは気を取り直して、寺門にあるものを渡す。
「これは領主権限を行使できる公式文書だ。研究者を頼る時や、北の街に向かうときにはこの文書を使うといい」
「ありがとうございます」
文書を丁寧に受け取ると、それを鞄の中にしまう。
「それでは行ってきます」
「うむ。検討を祈る」
こうして、魔人の追及を始める寺門たちであった。
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