第25話 凶報
中級冒険者パーティーとしてしばらく活動していた時。とんでもない話が飛び込んできた。
なんとスカーレット家のある隣街が、魔人の手によって壊滅的な被害を被っているという情報が入ってきたのだ。
「こんな所まで魔人がやってくるのかよ」
「帝国内には、もう安全な場所なんてないのかねぇ」
「俺たちも真面目に魔人対策を講じる必要があるみたいだな」
しかし、冒険者ギルドの空気は至って平凡であり、これと言った緊張感のようなものはない。
だが、焦っている人間が一人いるのは確かだ。
「スカーレット家が危ない……!」
スカーレット家に拾われた寺門である。この日はたまたま休息日で、冒険者ギルドに併設されている大衆食堂で食事をしている時にこの話が飛び込んできた。
寺門は、スカーレット家の様子がどうなっているのか、確認したくて仕方なくなっている。
その様子を見たモニカとニーナは、視線を合わせると、寺門に一つ提案する。
「リョウ君。もし良かったら隣街まで行かない?」
「え、いいんですか?」
「ボクたちも隣街の様子を確認しておきたいですし」
そう言われた寺門は残っていたスープを口の中に掻っ込んで、立ち上がる。
「そういうことなら、早速行きましょう!」
「おぉ、リョウ君珍しくやる気だね」
「それだけ心配しているんでしょうね」
このようなことがあって、寺門一行はスカーレット家のある隣街まで行くことにした。
馬車を使えば半日程度で行けるものの、あいにく今は馬車を持っていない。そのため、移動は歩きだ。道中で一回野営を挟み、街まで向かっていく。
街が見えてくると、その惨劇の一片が垣間見えることだろう。街から複数の煙が上がっている。
「まさか火災が起きているのでは……!」
もし火災が起きていた場合、飛び火によってスカーレット家が燃えている可能性がある。
それだけはないように、寺門は願っていた。
そして街に到着する。
街に入って周辺の様子を見てみると、建物の壁がえぐれていたり、全半壊している建物もあった。
道なりには被災した人々が、絶望の表情でこれからの生活を案じるように、片づけ作業に追われている。
「スカーレット家は無事なんだろうか……」
そんな言葉がポロッと出てくる。
そのまま街中を進んで、スカーレット家を目指す。
そしてスカーレット家の屋敷が見えてくる。
屋敷の外見からは無事であるような感じに見える。
すぐさま正面へと向かった。
そこには、スカーレット家の世話をしている執事の姿がある。それにその人には見覚えがあった。
「じいやさん!」
「おや、あなたはリョウ様ですね。本日は何用で?」
「この街が魔人に襲撃されたと聞きまして。エボルトさんとアキナは無事ですか?」
「えぇ、当家での被災者は誰もおりません」
「よかった……」
そこに、アキナとエボルトがやってくる。
「あ、リョウ!」
「アキナ、無事だったんですね」
「そういう君も元気そうでなりよりだ」
「エボルトさんも元気そうでなりよりです」
そういって握手を交わす。
「後ろにいる二人は、君の冒険者仲間かね?」
「えぇ、モニカ・クルーガーとニーナ・アーネットです」
「初めまして、モニカです」
「ニ、ニーアです……」
「私はここの領主をやっているエボルト・スカーレットだ」
この会話を聞いて、寺門は驚いた。
「エボルトさん領主だったんですか?」
「あぁ、そういえばリョウには言ってなかったね。この辺は私の領地とも言えるんだよ」
「はぁ」
「そんなことよりも、リョウも無事に戻ってきて何よりだ。しばらくゆっくりしていくといい」
「しかし街があのような状況では、ゆっくりもしていられません」
「確かにそうだ。しかし今現在は魔人の脅威はないんだ。今は市民の力を信じて、ゆっくり復興していくのを眺めよう。もちろん、領主として支援できることは最大限していくがね」
そういって、執事に部屋に案内するように言い残していった。
寺門が今度案内されたのは、客人用の部屋だ。
「以前の部屋で十分ですけど」
「しかし、そちらの二人は客人です。ならばこの部屋を使うのが道理というわけです」
「それはそうですが……」
「リョウ様、あなたは本日は客人なのです。それ以上でもそれ以下でもありません」
「……分かりました」
そういって、寺門一行は客人用の部屋に通されたのだった。
その日の夜。
寺門はエボルトのいる部屋を尋ねていた。
「どうかしたのかね?」
「約束を果たしにきただけです」
「約束と言うと……魔術学校の入学金と授業料のやつか」
「はい。念のため、不足がないように多めに持ってきてはいますが」
「どれ、確認しよう」
そういって、寺門はエボルトに金の入った袋を渡す。
そして中身の確認をして、それを自分の懐へと入れる。
「うむ、きっちりとある。ずいぶんと活躍しているな、リョウよ」
「えぇ。この日のために、冒険者として頑張ってきた次第です」
「それで、今後も冒険者を続けていくつもりかい?」
「そうですね。それもありかと思います」
「異世界人なら、それなりに注目を集める存在。冒険者などやらなくても国の機関で働ける可能性だってあるんだぞ?」
「そうなんですか?」
そういって寺門は少し考える。
しかし、冒険者以外の自分の姿を想像することが出来なかった。
「僕はこのまま冒険者をやろうと思います。例えそれが茨の道だったとしても」
「そうか。その覚悟、しかと受け止めたぞ」
そういってエボルトが執務用のデスクから立ち上がる。
「実は、君に頼みたいことがある」
「頼みたいこと、ですか?」
寺門は、空気が変わったような感じを受けた。
本日も読んでいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ、下の評価を押していただくと幸いです。またブックマーク、感想も大歓迎です。
次回もまた読んで行ってください。