第23話 閉幕
ニーナが戦力として参加できるようになったことで、寺門たちの討伐スピードは上がっていく。
しかし、それに比例するように魔物の侵攻速度はどんどん上昇している。
そして、寺門とモニカはここまでほぼ休憩なしに戦闘を続けていた。
「割と、体が持たなくなって来ましたね……!」
「私も結構ヘロヘロだよぉ……」
「私がもっとしっかりしていれば、こんな事態にならなかったんですっ」
「アーネットさんのせいではありませんよ。とにかく今は魔物をどんどん討伐していくしかないんですから」
そういって寺門は魔物の群れに向かって、火炎放射のような攻撃をする。
これにより、魔物の群れは一発で火だるまの状態になるだろう。
そこにモニカの風魔法が加われば、魔物の群れはあっという間にこんがり焼きあがる。
しかし、この攻撃が思わぬ形で、寺門たちに猛威を振るうことになる。
それは、開始から21時間が経過した時のこと。
「せいっ!」
再び火炎放射のような攻撃をする寺門。そこにもはや作業状態と化したモニカの風魔法が発動する。
その時だった。
疲れからか、モニカは風魔法の出力を誤る。その結果、火を伴った風魔法は盛大に木々に命中する。
そして火の粉が舞い、その火の粉が木々を襲う。そこから状況はもう察せるだろう。
火災発生である。
しかし最初は葉っぱの数枚が焼けるだけの小さなものである。この時点では誰も分かっていない。
だが草木にまで舞った火の粉は次第に勢いを増し、誰が見ても火事である程に大きくなっていた。
「ゑっ、なんでこんなところで火災が?」
気の抜けた寺門の言葉。もはや覇気などは感じられず、目の下に小さく隈が出来ていた。
低脅威度ではあるものの、魔物と対峙するという極限状態をぶっ続けで20時間以上もやっていたのなら、正常な判断が出来なくともおかしくはないだろう。
とにかく対応をしなければ。
その判断の元、寺門は魔法を発動する。
「放水!」
手のひらを火のある方へ向け、そのまま放水を開始する。
1秒に何十リットルものの水を放水することで、簡単に火を消し止めることに成功した。
しかし消火に夢中で、寺門は自分自身に向かってくる魔物の接近を許すことになってしまう。
そのことに気が付いた寺門は、放水したまま手を魔物の方に向け、そしてさらに魔法を操作する。
操作した内容は、放出口を狭めることだった。
これにより、高圧で押し出される水はジェット水流になって近くにいた魔物の肉体を切り裂く。
この攻撃で周辺の魔物を一掃した寺門は、その場に座り込んでしまう。
「つ、疲れた……」
その瞬間である。
遠くから号砲が聞こえてきた。
討伐祭り終了の合図だ。
寺門の前に、祭り運営の冒険者が出てくる。
「ご苦労。これで討伐祭りは終了だ。安静にしてくれ」
そういわれた寺門はドッカリと地面に横になる。
同じように、モニカとニーナも地面にへたり込んだ。
想像以上の疲れが寺門たちを襲う。
しかし、それ以上に達成感というものが寺門たちの中を満たしていた。
最後の力をふり絞って、寺門たちは運営本部のある村へと戻る。
結果発表は翌日以降になるということで、参加者一同、泥のように眠るのだった。
そして翌日。集計が完了し、結果が発表される。
「今年の優勝者は……リギルです!」
残念ながら、初出場で初優勝とはならなかった。ちなみに成績では3位と大健闘だ。
それを反映するかのように、寺門たちの心は一致団結していた。
もう二度とこの祭りには参加しないと。
「うーん、疲れるだけだったね」
「でも賞金がもらえただけ良かったじゃないですか」
「それでもいつもの食堂で食事何回かしたら終わりくらいの金額じゃない」
「それでもアーネットさんが精神的に成長できたのは大きいんじゃないですか?」
「それはありますね。ボクもこのパーティーを守れるように頑張ります」
「ヒーラーですから、無理はしなくてもいいんですよ?」
「いえ、それではパーティーに悪いですから。ボクも何か攻撃魔法を出せるようにします」
「しかしどうやって攻撃魔法を覚えるんです?」
「こう、賢者さんに手相の様子を見てもらうとか……?」
そこで寺門は、この世界は手相の状態によって能力が左右されることを思い出す。
今の今まで忘れていた。
「賢者に手相を見せて、そのあとどうするんです?」
「場合によっては手相の矯正を行う必要がありますね。その場合、これまで使えてた魔法が使えなくなる可能性も否定できないですが」
いわば、一長一短ということだろう。今の寺門にはいらないものだ。
「まぁ、その辺は自分との相談ですね」
「僕はそこまでしなくても問題ないとは思いますけど」
そのような相談をしつつ、冒険者ギルドに戻る。
その冒険者ギルドでは、あることで大騒ぎしていた。
「おい、中級冒険者パーティーのコンセンスが一人残して全員死亡って聞いたか?」
「あぁ、聞いた。魔人にやられたらしいじゃん?」
「一人残ったヴィクロってやつ、相当トラウマ残ってそうだし」
「誰か話しかけてこいよ。今も大衆食堂にいるだろ?」
「やだよ、ありゃ何かに取りつかれてるよ」
その話を小耳にはさんだ寺門は、早速ヴィクロの元に行く。
ヴィクロはフードをかぶり、今にも自殺してしまいそうな風貌をしていた。
「どうも、ヴィクロさん」
「お前は……あぁ、この間の……」
「パーティーが魔人によって壊滅させられたんですって?」
それを言われたヴィクロは、小刻みに震える。
「あ、あれは悪夢だ……!もう二度と見たくない……!」
「大丈夫、もう魔人はいませんよ」
そういって、ヴィクロの背中をさする。
これ以上話を聞くことは出来なさそうだ。
そのまま席を立つ。
「リョウ君、彼は?」
「前に魔人について聞いてきた人です。そのパーティーメンバーが魔人に襲われて壊滅したそうです」
「それは、お気の毒にですね……」
そういって、ヴィクロから離れる。
ヴィクロには悪いが、冒険者ギルドの中では魔人の脅威を再確認した者もいることだろう。
今後の注意喚起になってくれればと寺門は願った。
本日も読んでいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ、下の評価を押していただくと幸いです。またブックマーク、感想も大歓迎です。
次回もまた読んで行ってください。