第19話 処置
魔人の遺体を見たモニカや学者の先生は大層驚いていた。
「リョウ君初級冒険者なのに魔人やっつけちゃったの!?」
「まだ息絶えてからそんなに時間が経っていない!これはとんでもない研究材料だ!」
馬車に魔人の遺体を放り込むと、寺門はニーナに話しかける。
「アーネットさん、この遺体の劣化を防ぐような魔法はありますか?」
「えっと……、そういうのは分からないけど、回復魔法をかければ、良い状態は保てるはずです」
「そうですか。ここは実験を兼ねて、この遺体に回復魔法をかけてみてください」
「は、はい……」
そういってニーナは、遺体に対して、回復魔法をかける。
すると、魔人の体にあった傷が修復されていくのが分かるだろう。ただ、寺門が斬った切断面は、特にこれといった変化は見られなかった。
このことから、仮に遺体に回復魔法をかけたとしても、人間や魔人に関わらず死者が復活することはないと言えるだろう。
「ここまでしかできませんでした。ごめんなさい」
「謝る必要はありませんよ。これで分かったこともありますし」
そういってニーナに感謝の意を伝える。
ニーナはなんだか恥ずかしそうに、モジモジとしているだけだった。
寺門一行は思わぬ収穫を得て、冒険者ギルドへと戻っていく。
冒険者ギルドに到着すると、まずは報酬を受け取る。
「……はい、報酬は冒険者カードに支払いました」
「ありがとうございます」
「またのご利用をお待ちしてます」
「あ、ちょっとその前に、お聞きしたいことがあるんですが」
「はい、なんでしょう?」
「実は、今回の依頼の途中で魔人に遭遇しまして、それを討伐したんです」
その瞬間、寺門の周囲にいた人間は、一様に寺門のほうを見る。
「あいつ、今なんて言った?」
「魔人を討伐したとか……」
「上級冒険者でも難しい魔人だぞ?」
「本当なのか?」
そんな声がヒソヒソと聞こえてくる。
それを聞いた受付の人は困惑していた。
「えぇと、実際に魔人の討伐依頼を受けていた場合、報酬が上乗せされますが……」
「いえ。受けてないんですが、その遺体をどうしようか考えてまして」
「遺体?」
「これなんですが」
そういって寺門は学者の先生が用意したズダ袋の中身を見せる。
中には新鮮な魔人の遺体が入っていた。
その様子を見て、受付の人は小さく悲鳴を上げる。
「と、とにかく、そういうことはギルドのほうでは扱っていないので、しかるべき場所に持って行ってください」
「しかるべき場所ってどこですか?」
「こちらで紹介できる場所としては、魔術学校の魔人研究を専門に行っている学術チームですかね。そちらに行ってもらえればこちらとしてもありがたいんですけど」
「分かりました。ちょっと行ってきます」
そういって寺門はモニカとニーナを連れて、魔術学校へと向かう。
学校関係者から、魔人研究を行っている学術チームの居場所について聞き、その部屋へとたどり着いた。
「ここに魔人を研究している人たちがいるんですね……」
「ていうかここ、旧校舎だよね?こんな所に人がいるとは思えないんだけど……」
「こ、怖い……」
寺門は意を決して、ドアを叩く。
すると、中で何かをひっくり返したような音がした後、ドアが開いた。
「どちらさん?」
「僕たち、そこの冒険者ギルドで冒険者をやっているものなんですが、少しお話がしたくて来ました」
「……君たち、この部屋で何の研究をしているのか分かって来てるの?」
「えぇ、まぁ。その証拠みたいなものもありますし」
そういって寺門は、ズダ袋の中身を見せる。
「これは?」
「僕が討伐した魔人です」
「……それ本気で言ってる?」
「というと?」
「こういうイタズラはよして欲しいんだよねぇ。みんなが幸せになれないからさ」
「イタズラじゃないんです。本当です!」
そんな押し問答が続くと、中から別の人が出てきた。
「おい、誰だ?大量の魔力を放出しているやつは?せっかくの精密機器がお釈迦になっちまうだろうが」
その人は、何か測定器のようなものを持ってやってきた。
「んー?この近くに高魔力量の反応が出ているんだがなぁ?」
「それってもしかして、これの事ですか?」
そういって、寺門は袋の中身を見せる。
「うわ、死体じゃん。……でも待て?死体なのにこんなに高い魔力を発することなんてあるのか?」
「はい?死体から高魔力が発せられている?」
その事実を確認した二人は、ズイッと寺門に近寄る。
「さっき魔人を討伐したとか言っていたよな?」
「え、えぇ」
「こいつは本当に魔人かもしれない。とりあえず中に入って詳しく話を聞かせてくれ」
そういって寺門一行を部屋の中に入れる。
中は整理のなされていない、ゴチャゴチャした感じで、いろんな本や資料、機械類が転がっていた。
「何かお茶でも出せれば良かったんだが、あいにくこの研究室は来客を想定してなくてな」
「お構いなく」
「では早速だが、その袋の中身を見せてもらおう」
そういって机の上を雑に隅のほうに寄せる研究者。
そこに、寺門は袋の中身を出した。
「これは……ひどい損傷を受けているようだが……?」
「実際の戦闘で受けた損傷です。僕のせいでもあります」
「断面がきれいに修復されているようだな。死後に回復魔法でもかけたか?」
「はい、その通りです」
「魔力測定値は?」
「……驚いた。こいつは魔人に間違いねぇ」
どうやら魔人というものは、死んだ後でも強大な魔力を有しているらしい。
「これだけの魔人のサンプルがあれば、滞っている研究もはかどるかもしれない……!」
「魔人のサンプルの提供、非常にありがたい!」
勝手に研究者にあげるという雰囲気になっているが、別にこれに異論はないため寺門は了承することにした。
こうして魔人の遺体は研究者たちの手に渡ることになり、寺門たちは感謝されることとなった。
本日も読んでいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ、下の評価を押していただくと幸いです。またブックマーク、感想も大歓迎です。
次回もまた読んで行ってください。