第18話 対峙
なし崩し的だが、戦闘が開始された。
寺門は、まず魔人の能力を確かめるため、通常攻撃を行ってその能力を確認する。
寺門の通常攻撃と言えば、火属性の弾丸であろう。
指先程度の弾丸を生成して、それを魔人の体にぶち込む。
弾丸は見事、右の脇腹に命中したものの、これといったダメージが入っているようには見えない。
それどころか、寺門のことをより敵対視するようになっている。
「こりゃ相当厄介なやつだな……!」
そういって寺門は魔人から距離をとろうとする。
しかしそれを魔人は許さなかった。寺門に対する執着がものすごい。
「くそっ!」
寺門にとって、魔人は未知なる存在。魔術学校や冒険者育成コースでは魔人に関する脅威について講義を受けていたが、想像のはるか上を行っていた。
寺門の持っている魔人に関する情報は、高い魔力を保持していることと、知能が著しく低下していることだけである。その他個体差にもよるが、魔力の集まっている所に行く傾向があるらしいことを学んでいた。
だが、実際に体験してみないことには分からないこともある。
寺門はまさにそれを実感しているところだ。
寺門は身体強化の魔法を使って、とにかく魔人から逃げる。しかし、魔人はそんな寺門を全力で追ってくる。
「このままじゃジリ貧だ……。攻撃主体のほうがいいのか?」
そう考えた寺門は、逃走から攻撃に切り替える。
逃げる速度を落としつつ、寺門は魔法を発動した。
それは、魔術学校卒業時の実技試験の時に使ったプラズマショックカノンである。
一定時間を経過してしまうと勝手に蒸発してしまう代物だが、相手を容赦なく燃えつかせることができる。
寺門はそれを使って、何とか魔人の動きを止められないものかと考えたのだ。
「せっかくだから本気で行かせてもらう……!」
手のひらの中で魔力を溜め、それを高温高圧の火属性に変換する。
こうして発生したプラズマを手のひらの中で保持したまま、魔人の体に直接ぶつけようとする。
その時だった。
魔人はそのプラズマに向けて、まっすぐ手を伸ばしてきたのである。
そしてそのまま、プラズマの熱によって、魔人の手は蒸発していく。
突っ込んできた魔人を回避するべく、プラズマを持った手で魔人の体を押し流すように、寺門の体を横にスライドさせていく。
これで、どうにか魔人の突進を回避することに成功した。
魔人は、体のバランスを崩して草原を転がる。
そして、体を器用に使いながら、再び寺門に向かってまっすぐ走ってくるのだった。
寺門は手に持っていたプラズマを、魔人に向けて思い切り投射する。
意外にもプラズマで消費する魔力は多い。このままプラズマを保持し続けるようであれば、寺門自身が魔力欠乏症になってしまうだろう。
そのため、次の攻撃に備えるために、プラズマを魔人に向けて投げたのだ。
しかし、プラズマは特殊な環境で生成されるもの。高温高圧のものが、急に常温常圧の環境に曝されれば、ほんの数瞬もしないうちに完全に蒸発してしまうだろう。
寺門の考えでは、魔人はこのプラズマを回避するものだと思っていた。
しかし現実は異なる。
なんと魔人は、一目散にプラズマの玉に突っ込んでいったのだ。
しかし完全に消失したプラズマは、人体には危険な影響が出るであろう温度と紫外線を発していた。
しかしそれを浴びてもなお、魔人はプラズマの飛んで行った方向に向かって突進をする。
「変な言動をするものだな……」
そんなことを思った寺門は、魔人の対処方法について思い出す。
魔術学校時代に学んだ事、魔人は頭部を破壊する、もしくは首の切断によって、活動を停止するということだ。
これは、今まで魔人と対峙してきた上級冒険者の経験から言えることであり、確実性は高い。
それに倣い、寺門も頭部に向けて攻撃を仕掛けようとしていた。
寺門は光の剣を顕現させ、魔人と対峙する。
光の剣を出現させた瞬間、魔人は寺門に対して突っ込んできた。
それを見切った寺門は、姿勢を低くした状態で魔人の足を切断する。
動きが鈍重な魔人は、あっさり両足を斬られた。
しかし残った左手を使って、もがくように寺門の方向にやってくる。
「頭部の破壊をもって、魔人は活動を停止する……」
そういって、光の剣を使って首を斬る。
すると、魔人の体は電源の切れた電子機器のように、パッタリと動きを止めるのだった。
その様子を見た寺門は、こう思った。
「……まるでゾンビだな」
体に損傷を受けても痛みを感じず、頭部を破壊されるまで活動を続ける姿。それを見て、寺門は魔人をゾンビにそっくりだと発言したのだ。
寺門は、今後の研究や注意喚起の意味を込めて、魔人の体を回収した。回収には、魔力で作った袋を使用した。
そしてそのまま、モニカやニーナが待っている馬車の元まで戻っていった。
本日も読んでいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ、下の評価を押していただくと幸いです。またブックマーク、感想も大歓迎です。
次回もまた読んで行ってください。