第17話 草原
冒険者ギルドに戻ってきて、報酬を受け取る寺門。
これによって、ニーナを加入させた状態での依頼を達成させることに成功した。
「とりあえず、何とかなりましたね」
「そうだね。ニーナもお疲れ様」
「あ、はい……」
寺門一行は、そのまま大衆食堂へと向かい、食事を取ることにした。
「今後の活動は、討伐系の依頼を中心にやっていこうかなと思うんですけど、どうですか?」
寺門は、二人に今後の活動方針を確認する。
「それでいいんじゃない?私はリョウ君の行くところについていくだけだから」
「アーネットさんもそれでいいですか?」
「ボ、ボクも異論はないです……」
「それじゃあごはん食べたら、新しい依頼でも探しに行きましょうか」
こうして、寺門たちの忙しい日々が始まった。
この日に受けたのは、草原地帯に住む「オウムリンオオトカゲ」という爬虫類の生態調査の手伝いだった。このオウムリンオオトカゲ、その生態や情報から、地球でいうコモドドラゴンに似ている。この生物は足の速さで有名だ。
もちろん、オウムリンオオトカゲも例にもれず足が速いそうだ。
また、今回の依頼は魔術学校にいる魔法生物学の学者が主体となって調査する。寺門たちがするのは、その護衛と手伝いということになるのだ。
早速その学者の先生に会いに行く。
「やぁ、君たちが今回の冒険者かい?よろしく頼むよ」
研究室の中はホルマリン漬けされている標本でいっぱいだった。
「今回の詳しい依頼内容を伝えておくよ。今回はここから北東に位置する草原に生息しているオウムリンオオトカゲの生態調査だ。期間は明後日から目的のデータが取れるまで。その間は、私の食料の確保や護衛をよろしく頼むよ」
「分かりました。では、明日は準備をするための時間をとってもいいでしょうか?」
「もちろんだとも。準備は万全ではなくてはいけないからね」
そういうことで、この日と翌日は食料を買い込むなど、準備の時間に充てる。
そして当日。学者の先生が用意した馬車によって、目的の草原まで移動した。
歩きなら目的地まで1日以上かかる所を、馬車なら半日程度で到着する。この辺が乗り物の利便性を物語っているだろう。
目的の草原に到着すると、学者の先生はオウムリンオオトカゲの痕跡を探すべく、草原を駆け巡る。
寺門一行は二手に別れ、学者の先生の護衛をする寺門と、馬車の護衛をするモニカとニーナに別れた。
そして日が落ちるまで学者の先生は草原を駆け巡って、馬車へと戻ってくるのである。
基本的にこのような役回りで、学者の先生の手伝いを行う。時折、毒蛇に遭遇したり、体の大きな水牛の仲間が群れが突進してくる場面も会ったりした。そういった時に、寺門は学者の先生を守るために戦ったり、回避行動を取ったりする。
こうしてじっくりと1週間以上かけて生態調査を行った。
「いやー、ここまでデータが簡単に取れるなんて、珍しいことはないよ」
学者の先生はニコニコしながら、これまで入手したデータやサンプルを見直す。
「この調子なら、2、3日で学校に戻れるかもしれないぞ」
「それはよかったです」
そんな話に相槌を打つ寺門。寺門は興味ありげに聞くが、女子二人にはそんなに興味のない話なのか、そっけない反応を示している。
そして予告通り、二日後には調査は終了し、学校へと帰ろうとしていた。
その時である。
寺門は背筋が凍るような、おぞましい何かを感じ取った。
それは、モニカやニーナも感じ取ったようである。
「どうかしたんですか?」
異変に気が付いたのか、学者の先生が聞いてくる。
「何かものすごく嫌な予感がします……!」
その一言で、学者の先生は恐怖の顔になる。
寺門は、その恐怖の対象が一体どこにいるのか、探りをいれるため、馬車の上に立つ。
そして精神を集中させ、魔力探知を行う。これは魔力の流れを検知し、魔力がどれだけあるのか、その対象がどのようなものなのかを感じ取る。つまりは魔法におけるパッシブソナーに近い。
両手を左右に最大まで広げ、その手の先で魔力を検知する。
距離は1km弱。見える範囲にいることが分かった。
「ちょっと行ってきます。二人は馬車と学者先生を護衛して」
そういって、寺門はその対象に向かって走っていく。
そこには、人がいた。
しかし寺門は直感で理解する。
「これ」は人理を超えた存在であると。
そして、最近人理を超えた存在として有名なのは……。
「魔人……!」
かろうじて人の形を保っている獣のような姿。服装は一般的な成人男性が着るようなものだったが、破れているのが分かる。
そして、なんといっても禍々しい魔力をダダ漏れさせているこの状況。
おそらく理性なんてものは残っていないだろう。
魔人は寺門のことを感知すると、視線を外しているにも関わらず、こちらに飛んできた。
思わず寺門は回避する。おそらく戦闘は避けられないだろう。
寺門は覚悟を決める。魔人と対峙する覚悟を。
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