第126話 居場所
寺門は手の治療を行う。これにより、いつもの神秘十字だけの手相になる。
そして、女神のもとへと駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫です……。ところで、どうして私は攻撃を受けているんですか?」
「え?」
寺門は耳を疑った。先ほどまで邪神の概念に憑りつかれていたのか、前後の記憶が曖昧になっているのかもしれない。
そう思って、寺門は邪神の説明をする。
「先ほどまで、邪神の概念に取りつかれていたんですよ?覚えてませんか?」
「邪神……?」
女神がそのことを思い出そうとすると、女神の体から、再び黒い煙のようなオーラが立ち込める。
その感覚は邪神そのものであった。
「邪神……!?倒したはずでは!?」
そう言って寺門は、武神の神器を呼び寄せた。ほんの一瞬で飛んできた武神の神器は寺門の手に納められる。武神の神器は、いまだ光り輝いていた。
「この光を当てれば、邪神に効果はあるはず……」
そういって、寺門は武神の神器を女神に近づける。
すると、その光に当てられ、邪神の概念である黒いオーラは消え去っていった。
寺門は一安心する。だがその時、寺門は一つの疑問にぶち当たった。
「どうして邪神の概念を斬ったのに、女神の中に再び現れたんだ?」
女神に話を聞こうとしたが、それどころではない。実際女神は、邪神の概念が入り込んでいたため、かなり疲れている。
そのため、他の神々に事情を聞こうと辺りを見渡した時に、あることに気が付く。
そこにいる神々が、誰も今の状況を理解出来ていないのだ。
「どういうことだ……?」
寺門の疑問に誰も答えてくれない。
しかしこの状況を鑑みるに、邪神のことを聞いても、誰も覚えてなさそうだ。
「ん?どうして覚えてないって考えたんだ?」
その時、寺門にある仮説が生まれる。
それは、邪神という概念を斬ったことにより、概念そのものが神々の中からすっぽりと抜け落ちたということだ。
概念というのは、知らなければ存在しないも同然である。
仮に、自分が「女神」という概念を消されてしまったら、女神そのものを忘れてしまうことだろう。
そして、「女神」の概念そのものを知らなかったら、女神に関することについては何も分からなくなるだろう。
つまり今の寺門に求められることは、邪神について何も話さず、ただ寺門の記憶の中で死んでもらうことである。
それは、寺門の中で真実が閉じ込められることになるが、この際は致し方ないだろう。
寺門は女神に手を差し出す。
「大丈夫ですか?」
「少し気分は悪いですが、大丈夫です」
「それはなりよりです」
女神は手を差し出し、寺門の手を握る。
「ところで私、何をしていたんでしたっけ?」
「あー、それは……。地上で英雄になった僕の事を天界に案内するって話じゃありませんでした?」
「そんな感じもしますけど……」
「ですよね、武神様?」
寺門は考える隙を与えず、武神に答えを求める。
「え?ん、あぁ、そんな感じだったような……?」
武神も邪神の概念が抜け落ちているのか、曖昧な回答をする。
「まぁ、それだったら案内を再開しますけど……」
そういって女神は、少し疑問に思いながらも、天界の案内を始めるのだった。
寺門は、このゴリ押しが効いて若干安心する。
その後、天界の案内を終了した女神は、寺門に次の選択肢を与えた。
「さて、お話したと思いますけど、寺門陵介さんには二つの選択肢があります。一つは神となって天界で生きるか。人間として生きていくか。今はこの二つがあります」
「そんな選択肢が……」
「どうします?どちらの選択肢を選んでも構いません。私は本人の意見を尊重しますから」
この世界に来た時と同じような質問。
その答えは必然と決まっていた。
「僕は、人間として生きていきます。それが僕だから」
「分かりました。では貴方をあの世界に戻しましょう」
そういって、女神は寺門を帝都の、寺門たちの拠点に移動させる。
「あ、リョウ君!」
「帰ってきたんですね!」
「えぇ。帰ってきましたよ」
モニカとニーナが出迎える。時間的にはあまり経過していないのだろう。
ここで寺門は邪神のことについて聞こうと思ったのだが、ここで邪神が降臨してしまったら面倒であることに気が付いた。
やはり、邪神の事は墓場まで持っていこうと考える。
「良かった……。あのまま神様になるって言ったらどうしようかと思ったよぉ!」
「でもボクたちの事を選んでくれたんですね……」
モニカとニーナは今にも泣き出しそうになっている。
「女泣かせですね」
そう女神は煽ってくる。
「そんなんじゃないでしょうよ……」
寺門は頭を抱える。
「とにかく、私はここでお暇させてもらいましょう」
「はい。お世話になりました」
「えぇ、ではまたどこかで」
そう言って女神は天界へと帰っていく。
それを見送った寺門の背中は少し寂しそうでもあった。
「リョウ君……」
その事に気が付いたモニカは、何か声をかけようとするも、それをやめる。
「大丈夫、僕は大丈夫ですよ」
そういってモニカとニーナに向き直る。
「さて、次はどこに行きましょうか」
そういって二人に笑いかける。
寺門ならどこにも行けるだろう。宇宙にも、天界にも行ったのだ。
そして、寺門の功績を称えて小さな博物館が開かれるのは、もう少し先の話である。
本日も読んでいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ、下の評価を押していただくと幸いです。またブックマーク、感想も大歓迎です。
最終話までありがとうございました。