第123話 邪神
女神に案内されて、天界の島々を移動する。
その間にも、様々な神とすれ違う。
背格好も性別もバラバラな神であるが、寺門はあることに気が付いた。
すれ違う神、全員が暗い顔をしているのだ。
しかし、そんなことを寺門は言わない。いや、言ってはダメなような気がするとも感じる。暗黙のタブーのようなものを寺門は感じ取っていた。
「どうかしましたか?」
そんな気配を、女神に察知される。
「あぁ、いえ。なんでもありません」
「?そうですか……」
そういって、女神は案内を続ける。
寺門はしばらく、その後ろをついていくだけであった。
そして島々を6個ほど通り越した所で、女神が歩みを止める。
「着きました。ここが武神様のいる島です」
他の島と代り映えのない島ではあるが、それでも戦闘に特化している神であるため、島のあちこちで剣術を嗜む者もいた。
その中でも、中央に鎮座する筋肉が隆々とした人物がいる。
「あの中央にいる方が、武神の中でも最高位の方です」
「その方にいるような普通の人間が話しかけてもいいんでしょうか……」
「大丈夫ですよ。あの方は優しい方ですから」
そういって女神は武神の方へ歩いていく。
「武神様」
「おぉ、確か転生の女神だったな。我に何用か?」
「邪神退治にご協力をお願いしに来ました」
「ということは、例の青年も来ているのかね?」
「はい。寺門陵介です」
そういって武神に紹介される。
「は、初めまして。寺門陵介です」
「ふむ。かなかなの好青年ではないか」
「そ、そうですか?」
「うむ。気に入った。快く協力させてもらおう」
そういって豪快に笑う。
寺門としては、何が評価されたのかさっぱり分からないが、とりあえず協力を得ることは出来た。
「しかし協力ってどうするんです?武神様は邪神と戦ったんですか?」
「勿論、我も戦いに参加した。しかし奴は我以上の力を持っていた」
「つまり負けたんですね」
「お主、人が口に出さなかった事をあっさりと……」
武神は少し複雑な顔をする。
「とにかくだ。我と邪神の間には、力の差はそこまであるとは思えない。そこで考えがある」
「考えですか?」
「邪神に対抗出来るのは、我の実力もさることながら、この神器が強く影響していると考えられる。そこでこの神器をお主に貸したいと思う」
「そんなのいいんですか?」
寺門は女神に問う。
「多分大丈夫だと思いますよ。しかし、神々の武器を人間が使うんですから、相応の反動は戻ってくるかもしれません」
「だが、転生の女神の祝福を受けているお主なら、ある程度は問題ないだろう。どうだ?使うか?」
「そうですね、使ってみましょう。反動は怖いですが、それを超えるほどの攻撃力を発揮できるなら、それに賭けましょう」
「よし、ならば早速剣術の特訓だ。お主、まともに剣を使ったことはないだろう?」
「剣は使ってましたけど……」
「習ったことはないはずだ。なら、我が教えてやろう」
そういって寺門の襟袖を掴んで引きずっていく。
「ちょまっ、グエ……」
そのまま寺門は広場の方へと引きずられる。
その様子を見ていた女神は、少しだけ笑った。
その瞬間である。
彼女の中から、どす黒い名状しがたいものが湧き上がってくる感覚がした。
「うっ……」
そしてそれは、周りの神々に嫌な気配をもたらす。
「この気配……!邪神だ!」
「邪神ですって?一体どこに?」
「……転生の女神だ」
女神の方を見てみると、そこには黒いオーラのようなものをまとった女神が立っていた。おそらく、女神の祝福を受けているから、このように見えるのだろう。
「だ、大丈夫ですか!?」
寺門は慌てて駆け寄ろうとする。
しかし、それを武神が止める。
「待て!」
「どうしてです!?」
「あれは紛れもなく邪神だ。まさか女神を依り代にするとは思わなかったな」
女神、いや邪神は、ゆらりと揺れると、武神のほうを見る。
「すまない、寺門よ。剣を貸すのは後にしてくれないか?」
「は、はい」
そう言って、武神は神器である剣を持って、邪神と対峙する。
「邪神よ。今度こそは負けん!」
「うぁぁぁ……」
もはや言葉にならない言葉で話す邪神。
そこに、先制攻撃と言わんばかりに武神が突っ込む。
「でぇぇぇい!」
剣を振りかざし、邪神に攻撃を加える。
しかし邪神は、それを手をかざすだけで防いでしまう。
「そんなのは織り込み済みだ!」
武神によるボディーブロー。それは確実に邪神の脇腹を捉えた。
メコッと脇腹がへこむ。しかしそれでは終わらない。
邪神はニヤァと笑うと、右手で武神の拳を掴む。
そしてそのまま握りつぶそうとした。
「グッ……!オォォォ……!」
武神は、邪神の握りつぶしをなんとかしようと、拳に目一杯力を入れる。
しかし、邪神の力の方が強かったのか、武神の手は嫌な音を立てて潰れた。
「グァァァ!」
武神はどうにかして拳を引っこ抜こうとする。
しかし先に邪神が、力を緩めた。
その瞬間、武神は後退し、寺門の元に戻る。
「だ、大丈夫ですか!?」
「拳一つ握りつぶされた所でやられるようなら、武神などやってないわ」
その時、騒ぎを聞きつけた他の神々が、邪神に向かって一斉に攻撃を開始した。
「どうしましょう?このままではジリ貧ですよ」
「そのためのお主だろう?我の剣を預ける。これで奴を何とかしてくれ」
「かなり無茶を言いますね」
しかし、それが最善手なのかもしれない。
寺門は武神から剣を受け取り、邪神に憑りつかれた女神と対峙する。
身体強化魔法を自分自身にかけ、そして覚悟を決めた。
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