第122話 天界
結局、関係各所への根回しがおわったのは翌日の昼であった。
ほとんどは手紙を出すだけで十分であり、確認作業で時間を取られた感じである。
「準備は出来ましたか?」
「えぇ。問題ありません」
寺門は、いつもの冒険者の服装で天界に向かおうとする。
見送りはモニカとニーナだけだ。
「リョウ君、本当に大丈夫?」
「大丈夫ですって。モニカさんは本当に心配性ですね」
「でも、ボクだって心配です……」
「ニーナさんまで……。心配してくれるのはありがたいのですが、心配のしすぎも良くないですよ」
そういって、寺門は二人を慰める。
「いい仲間を持ちましたね」
その様子を見て、女神がそんな事を言う。
「そうですね。ありがたい限りです」
寺門は、女神の横につく。
「準備も覚悟も出来ました。行きますか」
「分かりました」
そういって、女神が手をかざすと、目の前に異空間へ通ずる穴が生成される。
「さぁ、行きましょう」
女神は寺門の手を引いて、その異空間の穴に入っていく。
しばらくまぶしい空間を通ると、急に目の前が開ける。
そこは空の上に浮いている島々で構成されている、まさに天空の島である。
「ここが天国ですか」
「いえ、天国ではありません。ここは神々が暮らしている、神の世界です」
「なんか僕なんかがいて大丈夫なんですか?」
「問題ありませんよ。通常の人間であっても、神の祝福を受けていれば来ることは可能です」
そういって女神は、寺門の前に出て天界を案内する。
「ここには様々な神々がいます。武神様は勿論、コンデンサの神様、惑星の神様、可視光線の神様だっています」
「それは必要な情報なんですか?」
「と言いますと?」
「今は邪神が復活して大変なのでしょう?のんびり観光をやっている暇はありませんよね?」
「……神々は半分諦めているのです。邪神は相当な力を持っています。その圧倒的な力の前に、神々は屈してしまいました」
「もし神々が負けてしまったら?」
女神は目を伏せて、ぽつりと呟く。
「おそらく、天界は邪神によって占領され、崩壊することでしょう。もしもこうなった場合、この天界に繋がっている世界はすべからく不幸の連鎖が続き、世界そのものが消滅する可能性があります」
「崩壊……」
寺門には想像することすら出来ない事だ。しかし、それでも世界が消滅することは許されないと感じた。
「それなら、なんで対抗しようとしないんですか!?」
寺門は責めるように、女神に聞く。
「私たちは何度も邪神に対して攻撃を仕掛けました。しかし、そのたびに邪神は私たちの戦力を上回り、そして私たちは敗走してきました。それに邪神は少し厄介な性質を持っているのです」
「厄介な性質?」
「邪神は、いわゆる概念そのものです。神々の力を持っても、概念そのものに攻撃をすることは出来ません。そして、邪神は私たち神の身体に憑依して攻撃するのです」
「概念……。そうなると、普通に攻撃することは出来ない……」
「そうです。私たちに出来ることは、邪神が神の誰かに憑依したのをいち早く感知して、攻撃を仕掛けるだけです。しかも憑依は突発的。いつ誰に憑依するのか分からない状態です」
「普通に戦うことも困難、ということですか」
寺門は冷静になる。厄介な性質な上、突発的に発生する。戦いたくない相手としてはこれ以上ないものだ。
「しかしそんな邪神を、どうやって僕が倒すんですか?そもそも僕は人間ですし、邪神の力の前にひれ伏すんじゃないですか?」
「その辺りは問題ありません。貴方には、私の加護がついていますので、対抗は出来るはずです。しかし、それ以上のことは貴方次第になります」
「なんとも無責任な……」
しかし、実際神々の力では押し切ることは出来なかった。
そうなると、邪神を倒すことが出来るのは寺門自身なのかもしれない
「とにかく、他に邪神の情報ってないんですか?」
「そうですね……。邪神自身は概念であるため、普通に攻撃することは出来ません。誰かに憑依していないと攻撃が通りませんから。それに天界では、神が神を殺すことは許されざる行為となっています。なので神殺しが出来る人間が必要です」
「今さらっと重要な話しましたよね?」
神殺しが出来る人間が必要。そうなると、余計に寺門の責任が重大になってくる。
「とにかく、邪神は厄介な存在であり、それを倒す事が出来るのは、寺門陵介ただ一人という事になります」
「そんな責任重大なこと、簡単に個人にぶん投げます?」
寺門は突っ込む。
しかし、これ以上突っ込んでも意味がない。
とにかく行動しないといけないだろう。
「邪神を倒すとなると、僕一人の力ではなんにもなりません。神々の力を使わないと行けないでしょう。なので、武神辺りに協力を要請できないか、交渉をしたいのですが」
「そのくらいなら問題ないでしょう。では早速武神様の所に参りましょうか」
そういって女神が先頭に、武神の所に案内される。
邪神との戦いに、寺門は少し緊張しているのだった。
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