第121話 それから
それから数年の月日が経った。
あの宇宙戦争直後、ホッフヌングは3番惑星防衛のために、向こう100年程度の防衛を行うべく、山岳地帯にあるドッグに入って修理を行った。今は帝国上空を中心に、惑星大気圏を航行している。
ゲデヒトニスは相変わらず、帝国南部の海上に浮かんでおり、観光資源として活躍していた。
そんな中、肝心の帝国はこの数年で、高度な文明を築き上げる。
それは、山岳地帯に残されていた技術の一部を使うことで、文明を押し進める要因となった。
これに関しては、アバターが積極的に技術を開放していったことが一番大きいだろう。
そして、帝国内ではアバターが人間と共に暮らしている光景が見られるようになった。
超古代文明の技術を使用した文明ブーストは、帝国内部の社会を大きく変貌させることになる。
街中には自動車黎明期に登場するような車が走り、動力は魔力と電気を組み合わせたものに取って代わられるようになった。
そして現在では航空機まで開発されているのだ。
そんな社会が変貌をしても、変わらないものもある。
寺門たちだ。
この数年、変わらず冒険者を続けていた。
寺門にとってみれば、社会の適応力が高いというか、現代地球の状況に近づいているだけで、得している状態である。
この日も、依頼を受けて達成した帰りだ。
寺門も、この数年間でずいぶん成長した。経験は勿論、見た目もずいぶん変わっている。
「これを届ければ依頼達成ですね」
「そうだねー」
「今回も全員無事で良かったです」
車に乗って、寺門たちがそんな話をする。
今回の依頼主は貴族相手だったが、最近は帝国からの依頼も多い。
というのも、寺門は国家の守り人という称号通り、帝国お抱えの専門家となっていた。準武力組織である冒険者ギルドの現役冒険者として、はたまた技術屋としても活躍している。
その甲斐あって、現在は帝都にも拠点を構えることになった。
この日の依頼を終えると、帝都の拠点に戻る。
「今日もお疲れ様でした。しばらくは依頼がないのでのんびりしましょう」
「はーい」
「お疲れ様でした」
そういって、寺門は車の点検に入る。
ここ数ヶ月ほど、車を使いっぱなしだったので、なんとなくメンテナンスしておこうと考えたのだ。
「まずはタイヤ周りから見ていこうかな」
タイヤの状態を確認するため、一度車から取り外す。
そして摩耗具合を確認して、また車に取り付ける。
それを4本ともすると、今度はエンジン周りの確認だ。
破損しているパーツはないか、損傷している場所はないか、隅々まで確認する。
そんな作業を数時間程行う。
「リョウくーん!ごはんだよー!」
切りのいい所で、モニカが寺門の事を呼ぶ。
寺門は簡単に片づけをすると、キッチンへと向かった。
「今日はカレーです」
「おぉ、いいにおいですね」
「それじゃ食べよっ」
そういって夕食を食べる。
寺門たちは有名人ではあるが、特段警備員などは置いていない。
それは、ある程度のことは自分たちで何とかしてしまうからだ。
それに、帝国内はある程度治安が良いことから、泥棒などの心配もない。
そんな感じで、夕食を取り、就寝する。
眠りについた寺門。ここで何者かが寺門の事を呼んでいるような声が聞こえる。
「なんですか……」
寺門は寝ぼけながら、起き上がる。
すると部屋の入口の所に、女性が立っていた。
「お久しぶりですね、寺門陵介さん」
「……あの、どちら様ですか?」
「覚えてませんか?この世界に来た時の事を……」
「この世界……?もしかして……」
寺門はおぼろげながら思い出す。
この世界に来た時、最初に会った人物。
「あの時の女神……?」
「はい。その通りです」
女神は二コリと笑う。
「その女神が僕に一体何のようですか?」
「一つお願いがあって来ました」
「お願い、ですか?」
「はい。どうか、私たちの天界をお救いください」
そういって女神は頭を下げる。
「そんな、頭を下げないでください。リビングで詳しい話を聞きますから」
モニカとニーナも起こし、女神と対話する。
「この人が女神様?」
「そう言われれば、そんな感じはしますけど……」
テーブルを囲んで、女神は話し始める。
「実は、天界で封印されていた邪神が復活しました。この邪神は、強大な力を持っていて、神々の力では抑え込むことが出来ませんでした。そこで、この世界で英雄と言われている寺門陵介さんに協力をお願いしたいのです」
「それなら適任者がいるんじゃないですか?」
「適任者とは?」
「あれです……、一ですよ」
「あぁ、彼ですか。彼は転生してこの世界に来たわけではないので、無理ですね。彼は召喚されて来たのでしょう?その場合転移になります。天界に行ける条件として、一度死んでいることが条件なんです」
「そんな条件があるんですか……」
なんとも言い難い気持ちになった寺門。
「でも、神様が束になっても勝てないんだよね?それだったらリョウ君が天界に行く理由がなくなっちゃうよ?」
モニカが指摘する。
「その点に関しては問題ありません。寺門陵介さんは以前、魔人の親玉を倒している経歴があります。それに天界では能力が総合的に上昇するので、問題はないかと思います」
そういって、女神は再度、頭を下げる。
「お願いします。もう貴方にしか頼れる人がいないんです。お願いします」
そう言われて、寺門は少し悩む。
寺門に利点はないかもしれない。しかし、一応命を救ってくれた、ある意味恩人でもある。
そんな神の頼みを無下にすることは出来ない。
「分かりました。行きます」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
そう言って女神は立ち上がる。
「では早速行きましょう!」
「ゑ、今ですか?」
「そうです!すぐ行きましょう!」
「あの、関係各所に不在になる事を通達しないといけないんですが……」
「そうなんですか?まぁ、天界は時間の流れがこの世界とは異なるので、急ぐ必要もないのですが」
「じゃあなんで急いだんですか?」
そんな事を言いつつ、寺門は関係各所に充てた手紙を書くのだった。
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