第120話 帰還
ワープを抜けた先には、青く輝く美しい惑星があった。
3番惑星である。
「やっと、帰ってきたんですね」
「そうですね。ここが私たちの魂の場所ですから」
そうアバターが言う。
「……アバターに魂ってあるんですか?」
「それは定義にもよります」
「そうですか……」
これ以上聞くことは止めようと思った寺門であった。
ホッフヌングは十分に減速し、大気圏に再突入する。とはいっても、スペースシャトルやカプセルのように、断熱圧縮による熱は発生しない程の速度で突入する。これは、ホッフヌングの重力操作によって出来る技だ。
そしてだんだんと帝国に近づいていく。
それに合わせるように、寺門は艦内放送をする。
「皆さん。僕たちはようやく、アルファとの戦いを終え、帝国に帰ってくることが出来ました。殉職した方々に冥福を祈りながら、この惑星を守り切った事実を噛みしめましょう」
ホッフヌングは帝国の帝都上空に降りる。
そして、帝都にほど近い軍の駐屯地に搭乗員を降ろしていく。
そこには、帝都に置いていった通信機によって、帰還日を知らされていた首脳陣が待ち構えていた。
「よく戻ってきた。君たちは我々の誇りだ」
そんな事を言う首相のジャスラ。
その他大臣も出てきて、それぞれお褒めの言葉を述べる。
「君たちは英雄だ。惑星規模での救済を行ったのだから。よってここに、褒賞として勲章を与えたいと思う」
そういって、数千人分の勲章を渡していく。
「なんとも準備がいいですね」
寺門は訝しんだ。
「別にいいんじゃないの?だってあの勲章、私たちのために作った勲章らしいし」
そうモニカが言う。
「ボクも、勲章って滅多に貰えるものじゃないから、貰っておきたいです」
ニーナも言う。
「まぁ、確かに減るものではないですね。貰っときますか」
寺門は、勲章を貰う列に並ぶ。
次々に勲章と、それに準ずる報奨金が渡される。
寺門の出番になったとき、係員は少し動揺した。
「艦長のリョウさんですよね?」
「えぇ」
「首相から特別なものを渡したいそうです」
「首相から?」
「はい。今日の午後、首相官邸にいらしてください。パーティーメンバーのお二人とホッフヌングの管理者も」
「はぁ……」
何か特別な事をされるのだろうか。
少し不安が募る寺門であった。
勲章と報奨金を貰った寺門は、その足で首相官邸へと向かう。
その中にはアバターもいた。
「私も必要ということは、何か重要な話があるということなのでしょう」
「ホントですよ。一体何があるんですかね」
久々に寺門は車に乗って首相官邸に向かう。
首相官邸の正面入口で軽く検査を受けて、官邸内に入っていく。
建物の入口では、SPのような人が立っていた。
そこで車を降り、SPについていくように言われる。
言われた通りにすると、とある応接間に通された。
「ここでしばらく待っていなさい」
そういってSPは応接間を出る。
しばらく待つと、そこに首相のジャスラが入ってきた。
「君たちがホッフヌングで艦長と副艦長をしていた三人だね?」
「あ、はい」
「それと、そちらの女性がホッフヌングの管理者かい?」
「管理者というのは正しくないですが、代表者であることには間違いありません」
「なら良し。君たちには本当に助けられた」
そういって首相のジャスラは、寺門たちの対面に座る。
「君たちには個人的に称賛をしたいと思っていてね」
「それはそれは……。ありがとうございます?」
「それでなんだが、何か欲しいものとかないか?」
「欲しいもの……ですか?」
「そうだ。君たちは特に英雄なんだ。欲しいものの一つや二つ、あるんじゃないのか?」
そう言われて、寺門は考える。
欲しいもの。
まず単純に考えるのはお金だ。しかし寺門たちは既に上級冒険者。お金には困っていない。
地位なんかはどうだ。これも上級冒険者という肩書の上に、寺門は国家の守り人という称号も持っている。これ以上地位を増やしても、何の意味もないだろう。
そんな感じで考え抜いた結果、寺門は答えを出す。
「何もないです」
「何もない……?本当にか?」
「えぇ。僕にはもう十分にいろんなものを貰っています。これ以上は何もいりません」
「……そ、そうか。君は無欲なんだな」
「無欲ではないですよ。今欲しいものがなかっただけです」
「分かった。そういうことなら、無理に与えることもないな」
そういって首相のジャスラは立ち上がる。
「しかし英雄の帰還は盛大にさせてもらうぞ」
「というと?」
「既に外では、英雄帰還のパレードが執り行われる予定だ。君たちが帝都を出るまでは、強制参加してもらうぞ」
「まさか首相……、謀りましたね?」
「何、これくらいはやらないと、我々首脳陣もメンツが保てないというものだよ」
そういって高らかに笑う。
寺門は仕方ないというような表情をする。
そして、寺門たちは車に乗り込み、首相官邸前から帝都の外に向けて移動するのだった。
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