第118話 被弾
要塞化された惑星と闘うには、分が悪すぎた。
惑星上では圧倒的な大きさを誇るホッフヌングでも、惑星そのものと闘うのは前代未聞。
その上、敵は圧倒的な戦力を誇っている。
「主翼右上部で破損確認!」
「アルファ艦艇さらに増大!惑星要塞からどんどん出てきます!」
「ミサイル残弾、残り僅か!主砲も冷却が必要だ!」
「敵が多すぎて回避可能な空間ありません!」
「機関もオーバーワーク気味だ!これ以上は負荷がかかりすぎる!」
「これ以上の戦闘は、ホッフヌングの撃沈に繋がりかねません。直ちに撤退を」
聞こえてくるのは、ホッフヌングが不利な状況に陥っている報告ばかり。
これには流石の寺門でも焦り始める。
「ミサイルの代わりに爆雷投射!アルファ艦隊を防ぐようにばらまいてください!機関停止!しばらくは慣性航法で回避してください!技術科は損傷箇所に急いでください!」
艦橋内は警報音と赤色のランプで危険を示している。
それに、何度回避してもアルファの艦艇が全方向から襲い掛かってきていた。
「本格的に不味い状況になってきましたね……」
寺門は呟くように言う。
その呟きにアバターが答える。
「そうですね。連日に次ぐ戦闘、それによる艦の損傷、弾薬の欠乏、そして何より士気の低下。これらの要因が重なって、現在の状況を作り出しているとも言えますね」
「そういう指摘は十分分かっているつもりなので、何か打開策はありませんか?」
「ないわけではないですが、おすすめはしません」
「その方法は?」
「惑星要塞に突撃して自爆です。キングストン弁を抜き、機関を暴走状態にすれば、惑星要塞を破壊するだけのエネルギーを得ることが出来るでしょう」
「それだけは絶対に駄目です!」
「なら、この状況を打開出来る方法を考えましょう」
しかし、この状況を打開出来る策などあるのだろうか。
アルファはそんな答えを出す暇も与えてくれない。
「艦首に被弾!」
「前方ミサイルサイロ破損!」
「スラスターに破損確認!機動力低下!」
時間が経つにつれて、劣勢になっていくホッフヌング。被害報告も次第に多くなっていく。
「艦長。このままでは、技術科のダメコンが追いつきません。少し損傷が激しくなりますが、いいですか?」
「くっ……。この際は仕方ありません。重要区画を中心にダメコンを行ってください」
「了解」
技術科のクララが次々に指示を出す。
それぞれが自分の仕事をしている中、寺門はこの状況をどのように切り抜けるか考える。
「ワープで切り抜けるというのはどうですか?」
「ワープを起動させるには、それなりに時間がかかります。この状況で、ワープをするには危険です」
「そうですよね……」
他に手はないのか考える。
その時、寺門にある考えがよぎった。
「敵の正体は、人工知能集合体何ですよね?ならばどこかで制御をしているコンピュータがあることは考えられませんか?」
「その可能性はありえますが、おそらく外からハッキングを受けるのを嫌って、ローカルで動いていることも考えられます。ローカルで動いていると、高確率でハッキングは失敗するでしょう」
「しかし命令の受け渡しはあるんじゃないですか?そのチャンスを狙って、ハッキングが出来るんじゃないかと」
「……可能性はないわけではないんですが、厳しいでしょう」
「可能性があるなら、試さない手はないはずです」
「……分かりました。ハッキングを試みます」
「お願いします」
そういってアバターは中央制御コンピュータを使って、極めて高度なハッキングを試す。
現在攻撃を行っているアルファ艦隊や惑星要塞の通信を傍受、そしてハッキングが入る余地を探す。
1秒間に9900垓回計算出来るスパコンをふんだんに使い、全力でハッキングを仕掛ける。
すると、ほんの一瞬だけ、アルファ艦隊のネットワークがクローズからオープンに変わった。
その瞬間、アバターは毎秒自分自身を再定義するコンピュータウイルスを流し込んだ。
「相手のコンピュータ内部に、自己再定義プログラムを仕込むことに成功しました。すぐに効果が出ることでしょう」
そういった直後、アルファ艦艇の一部がその動作を止め、電源が落ちる。
「艦前方中央の艦隊が動作を停止しました。今ならそちらに逃げる事をお勧めします」
「デニー航海長!」
「了解!」
ホッフヌングはそちらの方向に全力で逃げ込む。
全力で走っていくと、そちらは惑星要塞の目前であった。
「この状況で敵陣に突っ込みますか……」
「不味いんじゃないですか?この状況」
「えぇ、かなり不味いです」
すると、惑星要塞の方から無数の砲撃が飛んでくる。
「艦長!こんなの回避できません!」
「弱音は無しです!機関全力運転!多少の被弾は覚悟してください!」
ここで寺門は腹をくくった。
全力で前進する。その目的はただ一つ、惑星要塞を攻略するため。
それでも惑星要塞からの攻撃は激しさを増す。
重要ではない区画は、攻撃によってボロボロ。攻撃性能はだいぶ落ちてしまった。
「惑星要塞までの距離、約30万km!」
だいぶ近い所までやってくるものの、既に艦はボロボロである。
その時、通信長のジェニファーが叫ぶ。
「惑星要塞表面が変化しています!」
「光学で出してください」
映像が主モニターに映し出される。
それはまるで、惑星そのものが砲塔のようになっていた。
「あれは?」
「通信を傍受中……。あれは惑星全体を砲台として、惑星そのものを破壊するという超兵器です」
「回避は可能ですか?」
「口径は約100km。今から回避行動を取れば問題ありませんが、間に合うかは分かりません」
「デニー航海長、直ちに回避行動!」
「了解!」
「機関全力!」
機関長のトールが機関の出力を上げる。
しかし簡単には艦は動かない。艦が巨大すぎたのだ。
砲口から光のようなものがあふれ出す。
「まもなく砲撃来ます」
アバターがそう言う。
寺門は悟る。ここで終わりだと。
その瞬間、どこからともなく巨大な砲撃が飛んでくる。
そしてそれは、惑星要塞をいとも簡単に撃ちぬいた。
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