第116話 ワープ
その後は、アバターの指示によって、ある操作をしていた。
「……機関に流入したエネルギーを、この宇宙空間にて物質に再変換します。そのためにコード『mode 404』を入力してください」
「了解。コードを入力、っと」
そのコードを、機関長のトールが専用のコンソールに入力する。
すると、機関がうなるような音が聞こえてきた。
「今度は、同じ場所に『Fe』を入力してください」
「Feっと」
すると、ホッフヌングから謎の光線が発せられ、何かを生成しているようだった。
「これは何をしているんです?」
寺門が聞く。
「これは先ほど吸収したエネルギーを使って、6番惑星と同じだけの質量の鉄を生成しようとしています。ここに6番惑星がなければ、3番惑星に影響が出かねませんので、それに対する処置というわけです」
「なるほど」
そういった寺門に一つ疑問が生じる。
「単一物質で惑星クラスの物体を生成して大丈夫なんですかね?」
「と言いますと?」
「物質内部が圧縮されて核融合とか起きませんか?」
「6番惑星は、あの恒星より100分の1ほど質量が小さいです。高圧力による状態変化が起こったとしても、核融合には至りません。それに、鉄は核融合の最後の形態。仮に重力に負けたとしても、問題は発生しないと考えられます」
「なるほど……」
なんとなく寺門は納得してしまう。
そして数時間もの時間をかけて、余剰次元に流出した熱エネルギーや重力エネルギーを回収して、それを物質として再変換する。
こうして、超巨大な鉄の塊が生成される事になった。
「これで6番惑星の問題は解決しました。では、さらなる外惑星領域へ進出しましょう」
そういって、指揮権を寺門に戻す。
「では、次の惑星を目指すとしましょう」
「しかし、惑星を目指すのはいいんですが、その間の空白領域は対処しなくていいんですか?」
「その点に関しては問題ありません。惑星間に存在する小惑星帯や何もない空間は、重力の関係で不安定になりやすいとも言えます。逆に重力的に安定しているラグランジュ点も存在しますが、アルファにとっては重要とも言えないでしょう」
「そんなものですかね?」
「少なくとも、私たちはそう判断します。少なくとも、アルファの目的は、3番惑星なのですから」
そういって、ホッフヌングは7番惑星へと向かう。
7番惑星までは、距離にして45億kmほど。
ホッフヌングは、再びワープによって7番惑星を目指す。
「ワープ準備。目標7番惑星」
「目的地、45億300万kmに設定」
「機関、ワープ対応良し」
「ワープ開始」
ホッフヌングはワープに入った。
ワープ中は、ホッフヌングは異空間とも呼べる空間を飛行する。その空間は通常空間となんら変わりはないが、まず光がない。そのためホッフヌングは暗闇を通ることになる。
そして空間を切り取って移動しているため、よほどのことがなければ、ワープ中に敵と遭遇することはない。
「ホッフヌング、ワープ中。周辺に敵影はありません」
「2回目ともなれば、皆慣れますね」
ホッとした時、通信長のジェニファーが叫ぶ。
「ワープ用亜空間内部に何者かが侵入してきます!」
「何だって?」
思わず寺門は聞き返した。
「この反応……!間違いありません!アルファです!」
「数は!?」
「約2000隻!」
「不味い、こんな狭い空間で戦闘はかなり不味い!」
「艦長、どうする?」
戦術長のロイが聞く。
「主砲は準備開始!ミサイルを発射してください!」
「了解」
そういってミサイルが発射される。
一時的ではあるが、アルファ艦隊が下がっていく。
「主砲準備完了」
「よし、はっ――」
「艦長、待ってください」
「な、何ですか?」
「ワープ用の亜空間で主砲を使う場合、砲撃が戻ってくる可能性があります。簡単に使うことは非推奨です」
「ワープが戻ってくる?どういうことですか?」
「空間の形は様々です。単純に球体になっている場合や、ドーナツ状になっているものもあります。ホッフヌングが生成するワープ用亜空間は球体ですが、場合によっては主砲の光線が反射、歪曲して戻ってくる可能性が否定出来ません」
「それ、何とかなりませんか?」
「そもそもワープ中に戦闘を行うこと自体が想定されていません」
そんな状況でも、アルファは攻撃をしてくる。
「艦尾に被弾!損傷軽微!」
「しかし、このままだとジリ貧だぞ!」
なんとかしてこの状況を打破しなければならない。
その時、寺門の中には一つの考えしか思いつかなかった。
「デニー航海長!ワープアウト!」
「ここでですか!?」
「ワープアウトする場所も分からないのに、それは危険すぎます!」
通信長のジェニファーが反対する。
「しかし、そうでもしないと、この状況は打破出来ない。すぐにワープアウトを!」
「グゥ……!……了解!」
そういって航海長のデニーがワープアウトの準備をする。
「トール機関長!ワープアウト後、機関最大戦速!」
「了解!」
「ワープアウトまで3秒!2、1、出ます!」
その瞬間、ホッフヌングに強烈な衝撃が加わる。
まるで、瓶の中に入れられて振り回されたような衝撃だ。
「ジェニファー通信長、場所を確認!」
「げ、現在地……恒星の近くです!」
その瞬間、ホッフヌングの後方を巨大なフレアが発生する。
そして、そこにいたアルファ艦隊を丸ごと飲み込んでしまった。
「艦長、このままでは危険です!」
「機関は!?」
「ワープ推進から通常推進に移行完了!」
「全力で現宙域から離脱!」
「了解!」
そのままホッフヌングは、恒星表面から離脱していく。
そのまま、緊張した時間が過ぎ去っていく。
「艦長、恒星表面から安全な場所まで移動しました……」
「アルファ艦隊は?」
「先ほどのフレア以降、レーダーに捉えられません」
「ひとまず安全を確保したな……」
艦橋に安堵の空気が流れる。
「まさかワープ中に襲ってくるとは思いもしませんでした。今後は注意が必要ですね」
そうアバターが言う。
「最初から想定しておいて欲しかったというのは、わがままですかね?」
「そうですね。難しい問題だと言えます」
そういってホッフヌングは、そのまま7番惑星に向かうのであった。
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