第110話 外
それから数日ほど、ホッフヌングの修理に時間を費やした。
その間にも弾薬の補給も終わらせ、万全の状態になる。
「艦長、最後の修復箇所も終了です」
「了解しました。それでは、外惑星領域に出発しましょう」
そういうと、艦橋は慌ただしくなる。
「戦術長より各部署へ。これよりホッフヌングは外惑星領域に出発する。各自、兵装の確認を行うように」
「羅針盤情報更新、現在の空間座標位置を210修正」
「機関始動準備、各員チェックリストを確認せよ」
「現在の作業は10分後を目安に切り上げ。船外活動中のアバターは直ちに艦内に撤収」
「全艦に通達。まもなく外惑星領域に進出します。総員第2種戦闘配置についてください」
「ホッフヌング各種装置群、自動チェックスキャンによれば、正常に作動しています」
こうして外惑星領域に出発する準備が進んでいく。
「リョウ君、総員第2種戦闘配置についたよ」
「機関も始動準備問題なし。いつでも出発出来ます」
モニカとニーナから報告を受けている。
「分かりました。デニー航海長、第二星間航法」
「第二星間航法、起動」
「機関出力上昇、推力200万トン」
「時速1200万kmまで上昇。デニー航海長、デブリキャンセラー起動」
「デブリキャンセラーの起動を確認」
「時速1200万kmまで加速後、慣性航法に移行」
「了解」
こうして、外惑星領域に向かって飛翔するホッフヌング。
到着予定は24時間後である。
その間、第2種戦闘配置のままである。
しかし、警戒体制のまま時間を過ごすのは、人間の集中力が足りない。
そのため、適宜アバターと人員を交代し、警戒を解く時間を減らす。
交代した後の搭乗者は、各々自由な時間を過ごしていく。
もちろん、自由な時間には限りがある。
寺門もその一人だ。
この時間に食事を取ろうと、食堂に向かう。
同じような考えをしているのか、食堂には人がいっぱいだった。
寺門は栄養食を注文して、席に座ろうとする。
「しかし、人がいっぱいだな。どうしようか……」
正直、乾パン状のクッキーであるため、艦長室に持ち帰って食べてもいい。
その時、ある人が寺門のことを呼ぶ。
「艦長。こっちの席空いてます」
そういって呼んだのは、技術長のクララであった。
寺門は呼ばれた方に向かう。
「意外ですね、クララ技術長。貴女がこんな所にいるなんて」
「そうも珍しいことじゃないです。私だって人間ですよ」
そういって、寺門はクッキーを食べる。
「艦長、それだけですか?」
「えぇ、それが?」
「いろいろと足りません?」
「僕は満足しているので問題ありません」
「まぁ、人のあれこれに口出す趣味はありませんが」
そういって技術長のクララも、自分の食事を続ける。クララは肉のスープを食べているようだ。
「そういえば、艦長。聞きたいことがあったんですが」
「何でしょう」
「アバターの数、少し増やせませんか?」
「そこはアバターの皆さんの相談次第ですが、それがどうかしたんですか?」
「今回の損傷の復旧で、数が少し足りないと感じたので」
「そうですか?アバターの数はこれまでにないほど増やしていると言われていますけどね」
「やはり人手が必要なのを強く感じます。どうかそこを」
「うーん……。分かりました。とりあえず相談してみますね」
「お願いします」
そう言って寺門は残りのクッキーを口に運び、席を立つ。
「結果が出たときは、追って連絡します」
「了解」
そういって寺門は食堂を去る。
そのまま艦長室にワープして、簡単な情報の整理をした。艦の状態、現在の位置、その後の艦の動き等々。
外惑星領域に進出すれば、敵との遭遇も増えることだろう。今のうちに、準備出来ることはしておきたい。
そして艦橋に戻り、アバターに対して数を増やせないか、相談しに行く。
「増産に関しては問題ありませんが、少し数が増えていると思います。これ以上の増産は中央制御コンピュータとアバターとの接続を増やすことになり、結果的に中央制御コンピュータの性能を下げることになります」
「そうですよね……」
「現在でも、中央制御コンピュータの性能は本来の99.8%しか発揮出来ていません」
「それ十分に性能発揮されてません?」
そんなこんなで、アバターの増産については、若干数増やすということで承認を得ることが出来た。
そして時間は過ぎ去って、外惑星領域進入前。
「艦長、まもなく小惑星帯を突破します。デブリキャンセラーは正常に作動中」
「総員第2種戦闘配置についてるよ」
「了解。デニー航海長、トール機関長、減速開始」
「減速開始。艦首180°回頭。……回頭確認よし」
「機関出力60%。減速を確認。減速終了予定まで、あと35分」
こうして減速が行われる。
「……減速終了。ホッフヌング、予定の軌道に乗りました」
「機関出力停止」
「艦首回頭180°」
こうして寺門たちは、より敵がいると推測される外惑星領域に足を踏み入れた。
「……ここが外惑星領域ですか」
「なんか代わり映えしないですね」
そんなことを寺門とニーナがこぼす。
すると、通信長のジェニファーが声を上げる。
「艦長。5番惑星付近に、巨大な影が見えます」
「光学で捉えられますか?」
「やってみます……。出ました」
そういってモニターに映像が映し出される。
その影は木星型惑星の輪のように、惑星に対して輪を形成していた。
「……中央制御コンピュータによる解析結果出ました。間違いなくアルファ艦隊です」
そうアバターが言う。
「……まずは降伏するように伝えてみましょう。その後の対応はそれからにします」
そう決断する寺門。
若干の緊張が、艦橋に走った。
本日も読んでいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ、下の評価を押していただくと幸いです。またブックマーク、感想も大歓迎です。
次回もまた読んで行ってください。