第108話 総力
通信長のジェニファーが現在の状況を次々と報告する。
「艦後方より敵艦1万以上!右前方より5万以上!上方からは3万以上が接近してきています!」
「回避!デニー航海長、回避行動を!」
「りょ、了解!」
航海長のデニーは敵艦のいない、左後方に舵を切る。
その時、アルファ艦隊から、攻撃が飛んできた。
「クララ技術長!艦後方にバリア展開!」
「了解、バリア起動」
そのバリアによってアルファ艦隊からの攻撃は防ぐことが出来たが、いつまでもこの状況が続くのは不味い。
「トール機関長!最大戦速!」
「了っ解!」
機関の出力を上げて回避行動を支援する。
足の速さには定評があるものの、それでも10万近い敵に追いかけられるのはいいものではない。
「ロイ戦術長!主砲発射準備!ありったけのミサイルを発射!」
「了解!ミサイル発射!」
ホッフヌング全体から飛び出るように、ミサイルが発射される。その数1万程度。
ミサイルが命中しても、後方から湧いて出る水のように、うじゃうじゃとアルファ艦隊が接近してくる。
「主砲発射準備完了!」
「撃ち方始め!」
主砲が一斉に射撃を開始する。
各砲塔がそれぞれに目標を定めるが、それがいらないほどアルファ艦隊は密集していた。
その時、通信長のジェニファーがまた声を上げる。
「艦右前方方向から新たな艦隊出現!数は……10万を超えます!距離20光分!」
「クッ!機関停止!慣性航法に切り替え!デニー航海長回避行動!」
すると前方にいるアルファ艦隊からも攻撃が飛んでくる。
「艦長、バリア配分どうしますか?」
技術長のクララが聞いてくる。
「前方に65%、後方に35%!」
「了解」
どうにか回避鼓動が間に合い、ホッフヌングの後方にアルファ艦隊を集めることに成功する。
しかし、攻撃を加えるものの、一向に敵が減る様子もない。
そして気が付けば、全方向から敵艦が迫ってきているのだった。
「艦長!逃げ場がない!」
「艦の損傷9%。戦闘継続は可能です」
「機関もかなり無茶をさせている!本格的に壊れる可能性もあるぞ!」
「ミサイルの製造、追いつかない!現在主砲のみで対応中!」
この切羽詰まった状況で、寺門は冷静な判断を下さなければいけないのだが、そうも言ってられない状況が続く。
「クソ、切り札となる攻撃手段があれば……!」
「ありますよ」
寺門の漏らした言葉に、アバターが反応する。
「あるって一体……」
「二重銃身回転式狙撃銃です」
「それは狙撃に使うものなのでは?」
「敵が密集している状態ならば、簡単に敵を破壊することが可能かと」
「分かりました。……ロイ戦術長!狙撃銃の発射準備!」
「了解!」
ホッフヌングの船体からせり出すように、狙撃銃が現れる。
そして、後方に位置するアルファ艦隊に向けて照準を定めた。
「精密射撃なし!狙撃銃、薙ぎ払え!」
青白い光線が発射される。それは、宇宙空間を飛翔した後、アルファ艦隊に命中する。
アルファ艦隊の数隻に命中したことによって、光線は分裂、拡散され、エネルギーが減衰するまでアルファ艦隊を屠った。
「射撃終了。狙撃銃冷却開始」
「冷却時間を短縮できれば良かったのだが……」
「それでは狙撃銃の性能を発揮することが出来ません。冷却時間は必要です」
「それは分かっています」
寺門は頭では理解しているものの、どうにももどかしい時間を過ごす。
それに、狙撃銃のエネルギー源は機関から直結して得ている。機関のエネルギー供給も考えないと行けないのだ。
そうなると連発して狙撃銃は使えない。結局、逃走しながら攻撃を加えていくほかないのだ。
しかし、悲しいことに、この状況に慣れてしまうのが人間だ。
ホッフヌングは回避を行いながら、湧き出てくるアルファ艦隊に攻撃を加える。
緊迫した状況だが、次第に慣れてしまう。
アルファ艦隊の攻撃も単調であり、ある程度予測がつく。そしてそれに合わせるように回避を行いつつ、その隙に攻撃を行う。
ある意味で流れ作業のようになっているこの状況、最も危険ではある。
それを体現するかのように、通信長のジェニファーが声を上げた。
「か、艦長!前方からアルファ艦隊です!数2000万!」
「2000万……!?」
「これだけの数を相手にするのは無理がある!」
「機関も狙撃銃に供給しているのでいっぱいいっぱいだ。急な回避行動は不可能だぞ」
とにかく周辺に何かないか探す寺門。周辺には、撃沈したアルファ艦隊の残骸と、見たことのない惑星。
「あの惑星は?」
「2番惑星ですね」
「……よし、デニー航海長。2番惑星に舵を取ってください」
「まさか、あそこに逃げ込むっていうですか!?」
「そうです。今の我々に必要なのは、逃げ込む場所です」
「……分かりました。2番惑星に退避します」
そういって航海長のデニーは、艦の方向を2番惑星に向けた。
そして2番惑星で攻防が繰り広げられることになる。
しかし、この作戦が功を奏することになった。
攻撃対象であるアルファ艦隊は必ず上方からやってくる。攻撃範囲が限定されることから、効率よく攻撃を加えることに成功した。
さらに、2番惑星は極限状態の環境であるため、アルファ艦隊も簡単にはやってこれない。これがホッフヌング乗組員の休息を与えることになる。
こうして14時間にも及ぶ戦闘は、どうにかして寺門たちに軍配を上げることになった。
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