第104話 接近
目標を1番惑星に向け、ホッフヌングは宇宙を駆けていく。
しかし、目標までの距離は最短でも1億kmはある。
途中の2番惑星は最短距離の線上には入っていないが、重力の影響をどこまで受けるかは未知数だ。
しかし、そんな時のための大出力エンジンである。
「機関長、第二星間航法に移行」
「了解、機関出力を上昇。時速1000万km」
「航海長、デブリキャンセラー起動」
「デブリキャンセラー起動。……起動を確認」
この速度で行けば、約10時間後には、1番惑星に到着するだろう。
そんな中、寺門はアバターにあるお願いをしていた。
「先ほどの前線基地から回収した地図、あれって僕たちの航海図として使えないでしょうか?」
「可能です。しかし、私たちは独自の航海図を持っていますし、地図自体のデータ量が大きすぎてまともに扱うことは困難でしょう」
「となると、余計な部分は削り取ったほうがいいというわけですね?」
「多少編集して航海図に組み込むことは可能です」
「ではそのようにしてください」
「かしこまりました」
そういってアバターは指示を出す。
このデータは有効に使われるだろう。
その間、寺門は食事でも取ろうと考えた。
ホッフヌングはいわゆる無限機関を搭載している。そしてそれを最大限に活用する装置もあるのだ。
核融合転化炉。投入した物質の質量分を、別の物質の質量分だけ変換する夢のような機械である。例えば1kgの鉄を投入したら、1kgの白飯が出てくるなんて事も可能だ。
勿論、最も有効な活用方法があるのだが、それを記すには少しばかり過激な事になるだろう。
そんな核融合転化炉で出来た食事を取る。
「誰かと思えば、艦長じゃないか」
そう言われて後ろを振り返ると、戦術長のロイがトレーを持って立っていた。
「一緒に食事でも、と思ったんだが」
「僕は構いませんよ」
「なら、横に失礼」
そういって戦術長のロイは、寺門の隣に座る。
そのまま、パンを野菜のコンソメスープに浸して食べ始めた。
「なぁ、艦長」
「なんですか?」
「どうして艦長は、あんなに専守防衛や正当防衛を気にするんだ?」
「まぁ、強いこだわりがあるってわけではないんですが……」
寺門は食べる手を止めて、少しうつむく。
「……実は昔、いじめられていたことがあるんです」
「ほぉ?」
「今となってはいい思い出ですが、当時は理不尽だと思っていましたよ」
「それがなんで、あんな考えに至るんだ?」
「ある日、いじめてた子に殴られる前に殴ったんです。それがちょっとした騒ぎになりまして、結局僕が悪いということになったんですよ」
「はーん。それで先に殴るのは気が引けるって訳か」
「当時は僕の事をかばってくれる人も少なかったですからね」
「……理由は分かった。だが、それとこれとは問題が別だ。艦長は、この艦に乗っている冒険者や軍人の命を預かっている。それだけは忘れるな」
そういってコンソメスープを飲み切って、戦術長のロイは席を立つ。
その言葉は重く寺門にのしかかる。
そう、寺門の双肩には何百、何千という人間の命が乗っているのだ。そして寺門はホッフヌングという独立組織の長。寺門の命令一つで、命を失う可能性があるのだ。
そうなってくれば、専守防衛だの正当防衛などと言ってる場合では無くなってくる。
「変わらないといけないのか……」
そんな事をボソッと呟いた。
寺門が艦橋に戻ると、待っていたように航海長のデニーが話しかけてくる。
「艦長、まもなく減速に入ります。指揮の準備をしてください」
「分かりました」
そういって艦長席に座る。
「リョウ君、総員第二種戦闘配置で待機中だよ」
「1番惑星まで、残り2万kmを切りました」
モニカとニーナから報告を受ける。
「了解。デニー航海長、減速行動開始せよ」
「減速行動開始、艦首反転」
ホッフヌングのスラスターが作動し、素早く艦首と艦尾が入れ替わる。
「艦首回頭180°完了」
「トール機関長。機関出力最大、減速開始」
「機関全力運転、減速開始」
機関長のトールが機関の出力を操作する。
ロケットエンジンから、相当量のガスが噴射される。
それと同時に、航海長が空間偏向によって重力を操作し、減速のサポートをする。
このまま時間が経過すること約1時間。
だいぶ速度が落ちてきた。
「現在、対惑星相対速度時速1万km。十分減速したと思われます」
「了解。減速行動終了、機関出力停止」
「機関停止」
そういうと、ロケットエンジンから吐き出されていたガスが停止する。
「艦首回頭180°」
「了解、艦首回頭180°」
そして再びスラスターによって艦首が進行方向を向く。
「さて、これからが本番ですね」
そう寺門が呟く。
「ジェニファー通信長。例の建造物を発見するため、惑星スキャンを行ってください」
「了解。惑星スキャン開始します」
このスキャンで、何か発見出来る事を期待する寺門であった。
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