第102話 データ
アバターがコネクタに合ったコードを挿す。
すると、アバターが驚いた様子を見せる。
「これは……。アルファの部隊や数、展開している場所などが記されています」
「かなり有益そうな情報ですね」
寺門は感心する。
「コンピュータウイルスの類いも感知されません。問題はないかと」
「この情報、どうしましょう?」
「こちらからホッフヌングに情報をアップロードします。情報が膨大なため、少々時間がかかります」
「問題ありません。時間はいくらでもあるので」
そういうと、アバターはホッフヌングに接続し、情報のアップロードを開始する。
「現在までに確認されている情報は540EBです。全ての情報をアップロードするまで、後6分46秒」
「エクサってペタの上でしたっけ?」
「そうです」
相当量のデータがあるのだろうが、それを数分程度で送れるアバターの性能もかなり高い。
「この情報は貴重です。これまでのアルファの行動記録や行動規則なども書かれています」
「その情報を取得すると、今後のアルファとの戦いも有利に進めたり、戦闘を回避することが可能になるってことですか?」
「おそらくは」
専守防衛を掲げる寺門にとっては、とてもありがたい話である。
そんな事を考えていると、突然エラー音が鳴り響く。
「何事ですか!?」
「申し訳ありません。私の手違いで、アルファ側のセキュリティに接触してしまったようです」
「ジェニファー通信長!周囲の警戒を厳にしてください!アルファ艦隊が襲ってくる可能性があります!」
「いえ、その必要はありません」
「どういうことですか?」
「先ほどから、データの解析を一緒に行っているのですが、この前線基地は廃棄された模様です。そのため、簡単な暗号やセキュリティしかかかってなかったのでしょう」
「しかし警戒するには越したことはありません」
「……そうですね。その考えは否定しません。しかし、他の心配をするほうがよさそうです」
「別の心配……?」
寺門は疑問を呈する。
「データの解析によると、この前線基地はセキュリティに感知されると、自爆するという機能を持ち合わせているようです」
「自爆……ですか?」
「その爆発の程度は、TNT換算で約100メガトンとのことです」
「な……!?」
この爆薬量は、かつてソ連が開発したツァーリ・ボンバの出力と同程度である。ソ連が実験を行った時は、約半分の50メガトンであるが、その衝撃はすさまじいものであった。
そんなものが、衛星上に存在するのである。下手すれば、衛星の一部を吹き飛ばす事も可能だろう。
最悪、ホッフヌングも爆発の影響を受ける可能性が高い。
「緊急退避!デニー航海長、直ちにこの場から離れてください!」
「りょ、了解!」
「ライアン航空班長!前線基地のアバターを今すぐにでも回収してください!」
「その必要はありません」
そう艦橋にいるアバターが言う。
「しかし……!」
「私たちは、常に代わりが存在するロボットです。彼女を回収する必要性はどこにもありません」
「そんな……」
「艦長、もうすぐデータの転送が終わります。おそらく、それと同時に自爆することでしょう。被害は最小限に抑えたいのではないですか?」
「ぐ……」
寺門は、思わずこぶしを握りしめる。
損得を考えるならば、答えは明白だろう。しかし、寺門は判断に困ってしまう。
その間にも、ホッフヌングは衛星から離れていく。
「リョウ君……、もう時間が……」
データ転送終了時間まで、あと1分を切った。
これ以上迷っている暇はないだろう。
「……分かりました。彼女の事は諦めます。総員、衝撃に備えてください」
そう言って、寺門は艦長席に戻る。
やれることはない。その喪失感がなんとなく寺門を襲っていた。
「艦長、爆薬から想定される衝撃範囲から脱出しました」
そう航海長のデニーが報告する。
「後は見守るしか出来ないのか……」
「これは仕方のない犠牲です」
そうアバターが言う。
寺門はそれを黙って受け入れるしかなかった。
カウントダウンは進んでいく。
そしてカウントダウンが0になった瞬間。
衛星の表面が大爆発を起こす。
それはまるで、地平線から恒星が現れたかのような輝きのようだった。
「データの転送終了。これから解析に入ります」
「了解です……。僕は艦長室で少し休みます……」
そういって艦長室にワープする。
そしてベッドに寝転がった。
「……僕は、まだ甘いのか?」
少しだけ、自己嫌悪に陥りそうになっていた。
自分の理想と現実の乖離が引き起こされ、気分が悪くなる。
「……僕の認識が甘いのか?」
しかし今回の対応は、誰がどうやってもあの結末に行き着くだろう。寺門ばかりが悪いわけではない。
その時、艦長室の電話が鳴る。
寺門は、なんとなく受話器を取るのをためらったが、最終的に取った。
「はい」
「あ、リョウ君。さっきの事なんだけど……」
モニカが言いにくそうにする。
数秒の沈黙。しかしモニカは話し始めた。
「リョウ君はしっかりやってるよ。大丈夫。何も心配はないよ」
「……ありがとうございます。それに関しては、僕の認識が甘かっただけですから」
「そんなことないよ!リョウ君はちゃんと艦長やれてる。それは私たちが見ているよ」
「……そうですね」
「あんまり自分を責めないで。どんな人間も成功ばかりしているわけじゃないから」
そういって電話が切れる。
モニカにも心配をかけていることに、寺門は罪悪感を感じた。
「そうだ。誰だって失敗はある。今回は損害が少なかっただけだ」
今後もこのような決断を強いられることがあるだろう。
寺門は、それに負けないような決意を抱くのだった。
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