プロローグ
――と縺る縺?&縺弱?の独逋ス――
ぼくはずっと覚えてる。ぼくはずっと探してる。
いなくなってしまったキミ。
会いたい、会いたい、キミに会いたい。
どうしたらまたキミに会える?
寂しい、寂しい、寂しいな。
嗚呼、そっか、いないなら連れてくればいい。
ねぇ、※※※。
―暗転―
夏の終わりの夕暮れに相応しいひぐらしの声、夕焼け小焼けのメロディーが開いた窓から聞こえてくる。
突っ伏していた顔を上げると、見慣れた講義室は無人。窓際でカーテンがそよそよと泳ぎ、部屋がオレンジ色に照らされていた。どうやら講義中に寝こけて置き去りをくらったらしい。
「終わったなら誰か起こしてくれればいいのに」
今が何時か確認しようと時計を見る。が、講義室の時計は3時で針が止まってしまっていた。
「電池くらい替えとけよ」
小声で文句をたれながら、スマホで時刻を見ようとポケットを探る。あれ、スマホが何処にもない。
はて、家に忘れたんだったろうか。現代っ子には痛すぎるミス。
「うーん、とりあえず帰るか」
なんだか考えるのが億劫だったので、さっさと席を立って隣に置いた荷物を手に取る。しかし、手は虚しいかな、空を切った。
「あれ……あっれぇ? 荷物が無い」
机下の荷物置き、隣の席まで見たが教科書も文房具も見当たらない。今日は大学に手ぶらで来たんだっけ? 大学に何しに来たんだ私。講義の冷やかし? 教諭に喧嘩でも売りに来たんだろうか。
疲れてたのかな。講義中寝ちゃうくらいだし……早急に帰宅してゲームでもして寝よう。
今日ぐらい、ご飯はコンビニで済ませてしまおうか。そんな事をぼんやりと考える。それにしても、なぜ放置したんだ学友共……周りが薄情すぎて心が寒くなりそうだ。
「はぁ。コンビニで何買って帰ろうか、な……?」
背伸びをし、講義室から出ようとしたとき、中央の壇上に青いものを捉えた。
白い毛。長い耳、真っ赤な目。ひげを揺らしながらヒクヒクと動く鼻は可愛らしい。
それは、見まがう事無きうさぎさんであった。なぜ大学にいるかは置いておいて、たいへん和む光景だ。
二足歩行で服を着ていなければ。
うさぎが二足歩行で、青い風船片手に立ってる……。
「――でかい」
本当はもっと言うことがあるんだろう。
目の前の光景に現実味が無いのと、ビジュアルがキュートなのに背景が薄暗い夕闇で不気味だというギャップ。高低差に頭が処理落ちを起こしていた。はわわ。
ホラーは好きだ。でも、こんなホラーあるあるな状況で「うさぎさんカワイ〜」なんて言うほどのイカれた神経はさすがに私にはなかった。なぁにあれ、普通にこわい。
うさぎを認識して間もなく、真っ青なベストのポケットから何かを取り出した。あれは、スマホ?
「!!」
そのスマホは正真正銘、私のスマホであった。
うさぎは見せつけるかのようにスマホをひらひら動かしたあと、視界から脱兎のごとくフェードアウトしていった。読んで字のごとく、正しく脱兎であった。
「あっちょ、まって! 置いてって、私のスマホ!!」
あのスマホ、実は4代目なのである。あいつまでなくしたら待っているのは確実に地獄。
親になんて言い訳するんだ。「うさぎさんにスマホパクられました」なんて言ってみろ。確実に庭の木に吊るし上げられる! スマホに対する私への信用は底地を這っていた。
私は大慌てで講義室から飛び出る。目を皿にして周囲を見まわすと、視界の端で青い風船が角を曲がるのをみた。すぐさま後を追いかけると今度は階段の踊り場に風船をみつける。
追いつきそうで追いつけない。
うさぎは天敵から逃げるとき、確か時速60キロから80キロ出すはずだ。やろうと思えば車と並走できる速度。本気で逃げれば人間なぞ秒で撒ける。
そう、わざとあの速度で逃げているのだ。つまり、私は煽り運転をされている。
おのれホワイト毛玉、私はお前を許さないぞ!
ぜえはあ言いながら登りきった5階、屋上だ。ここには外に出るための扉に鍵がついてるために行き止まりになっている。しかし、うさぎは見当たらない。
一応外に出てないか小窓を覗いていると、背後でカタン、と音がした。振り返ると、足元にスマホが落ちていた。
「ハッ!! 私のスマホ!!」
すぐさま飛びつき手に取る。傷がないかひっくり返してハッとした。これ、私のスマホじゃない……。
スマホの裏には見たことないマークがついていた。てかどこの会社のやつ?
「あれ、今更だけどこのスマホ何処から落ちてきた?」
――ドンッ。
「あっ」
腰辺りが何者かに押された。
体がぐらり、前に倒れる。周りの様子が全てスローモーションで流れていく。
階下には踊り場があるはずが、いつの間にか水没し、深い深い深淵を作っていた。
私は体を空中で捻り、後ろをみる。
そこには、短い両手を前に突き出したうさぎが、無感情な瞳でこちらを見ていた。まって、どうやって私の腰押した?
「お前それ、手届かないだろ」という思考を最後に、私の意識はブラックアウトした。
――ざぶん。
よろしくお願いします!