女神様にありったけチート能力を貰ったけど調子にのって神の怒りを買ったりしたら困るので卑屈に生きてたら世界救ってました。
「へへっ、さすが邪神様ともなると靴の舐め心地が違いますね! 高い靴は違うなぁ!」
今、僕は靴を舐めている。
得たいの知れない黒い靄に覆われているので厳密には靴ではないのかもしれないけど、まぁそこは大した問題ではない。
舐めているという事実が大事なのだ。
僕は無害で何もできない人間ですよーってアピールすることが大事なのだ。
だから、僕は邪神様の靴っぽい何かを時おりお世辞を交えながら舐め続ける。
ペロペロ、ペロペロと。
「ひ、ひぃぃっ。悪かった。我が悪かった。だから、許してくれ!」
そんな僕を相手に邪神様は心底怯えたような声をあげてやめるように促す。
でも、そういうわけにはいかない。
だって、邪神様が「人間は増えすぎた」とか言って滅ぼしに来たんだもん。
なんか「邪神なんか俺が倒してやるぜ」って言って立ち向かっていったS級冒険者の方々が秒で皆殺しにされたんだもん。
しがないC級冒険者には靴ペロくらいしかできることはない。
みんな、世界は終わったみたいなお通夜ムードだからせめて俺くらいは頑張らないと。
「なんなんだ。なんなんだお前は……!」
「……? と申されますと? あ、もしかして靴はもういいから肩を揉めということですか?」
「違う! 他は騙せても我は騙せんぞ! 貴様のそのステータスは一体なんなんだ!?」
「……へへっ。そのことはできればご内密にお願いしたいのですが……」
冷静に考えたら知らん奴に靴舐められるとか嫌がらせでしかない。
だから、心なしか引いてたのかなって思ったけど違うらしい。
かなりガチガチにステータスは偽装してたのに、それに気づくなんてさすがは邪神様といったところだろうか。
安○院なじみレベルに数えきれない量のスキルの記載された僕のステータスを覗くとは。
◇◆◇◆◇
特になんの取り柄もないのになぜかトラックに轢かれただけで神様に色んな能力を与えられる主人公。
与えられた力でしかないのにそれを振りかざしてやたらとイキリ倒しなぜかモテる主人公。
大した苦労も努力もしていないのになぜか分かったつもりで偉そうに上から説教を垂れる主人公。
わりとよくある話だとは思うのだけど、これらを見るたびに思うことがある。
これ、主人公に力をあげた神様的には腹が立ったりしないのだろうか?
だから、僕は震えたのだ。
「…………レベルもステータスもカンスト。それにこのめちゃくちゃな数のパッシブスキルとアクティブスキル。……ひぇぇ」
所謂異世界と呼ばれる場所に女神を名乗る不思議パワーを持った女の人に送られる前、教えられた『ステータスオープン』という言葉を口にすると僕の前に様々なステータスが刻まれた半透明の何かが現れた。
レベル:999(MAX)
この時点でこの世界のステータスとやらの基準を知らなくても分かるほどに突っ込みどころは満載なのだけど、めちゃくちゃなステータスはそれに留まらない。
あらゆる数値がカンストしきっているのを流し見していくと『スキル』という欄にたどり着いた。
女神様によるとこの世界では生まれたときに例外なく【役割】というものが与えられるらしい。そして、レベルを含めたあらゆる成長によって【役割】に伴った『スキル』を習得できるのだとか。
ちなみに僕の【役割】は【異世界人】でこの世界に存在するスキルから女神様が作り出したスキルまでありとあらゆるスキルが既に解放された状態になっている。
「自重……しないと……」
僕だってバカじゃない。
これが異常なことくらいこの世界のことがよく分かってなくても察しがつく。
何より女神様が『アハハ。これだけ強かったら邪神くらい秒で殺せるよ! やったね!』って言ってたから間違いない。
でもね、これ全てその女神様に貰った能力なんだよ。
貰い物の力でしかないんだよ。
こんなので調子にのったことをしたらどうなるだろうか。
女神様は思うんじゃないだろうか。「なんだこいつ。きも。殺そ」とか。僕なら絶対思う。なんなら、ハーレム築いて自分の能力に酔いしれて調子にのりながら闘ってる最中に全部の能力使えないようにして絶望させてから殺すまである。能力失った途端にヒロイン全員から見捨てられればなお良しだよね。
そうなりたくないならどうすればいいか。
答えは簡単。
自分を戒め、自分を律する。これを忘れないようにすればいい。
言うは易し行うは難しではあるだろうけれど、頑張ろう。
僕は大した人間じゃない。
特に取り柄があるわけでもないし、普通に生きてきただけ。
ただ、目の前の子供を助けたら代わりに自転車に轢き殺されただけだ。
絶対に忘れない。
……せめてトラックとかが良かった。
◇◆◇◆◇
「へっへへ。良い靴はやっぱり舐め心地が違うなぁ」
そういうわけで、やっぱり僕は靴を舐める。
こちらのステータス偽装を把握しているのなら、それはそれで全然いい。誰にも言わないのであれば、特に問題というほどの問題もない。
むしろ、問題なのはこの邪神様がこの世界を滅ぼすつもりでいることだ。
世界が滅びれば、その世界に生きる命も同じく滅びるだろう。僕だって例外ではない。死にたくない。もうあんな痛くて怖い思いなんて絶対にしたくない。
だから、帰って。ねぇ、帰って!できるだけ傲慢に見逃してやるって感じを醸し出しながら帰って!!
「ひっ、ひぃぃ。わ、分かった。帰るから。帰るから殺さないでくれ……っ」
言いながら、邪神様は空高く飛び上がる。
そして、いかにも悪役といったような笑い声をあげて、それから見逃してやるという趣旨のことを言ってどこかに帰っていった。
……ふぅ。なんとか丸く収まった。
間接的に女神様から貸して貰ってる力で帰って貰うような形にはなってしまったけど、これならさすがに女神様も調子のってるとは思わない……よね?
◇◆◇◆◇
三日後。僕は担ぎ上げられていた。
「世界を救った英雄だ!」
「あのプライドを捨てた土下座のおかげで世界は救われたんだ!」
「いやいや! 決め手は人間の尊厳すら捨てた靴ペロに決まってる! あれのおかげで邪神も見逃してくれる気になったんだ!」
違うんです!そんな大層なことじゃないんです!
だから下ろして!僕を祀り上げないで!そんな大した奴じゃないから!全部女神様の力のおかげですから!
もっと……もっと、自重しないと……っ。
今度こそ調子にのってるって思われちゃうかも知れないからー!




