二話
「フーーーッ」
どれぐらい経った?赤と黒の絵の具を混ぜた挽肉みたいになった安井の上で五条は恍惚とした表情を浮かべていた。窓から射し込む朝日が五条の顔を照らす。あぁ、五条、神様みたいだね。
「キャーーーーーーーッ!!!!!」
クラスの女子の叫び声で止まっていた時が動き出した。泣き出す者、教室の端に避難する者、俺みたいに固まってる者。廊下にも人が集まって来ている。まだ、先生来ないでくれよ。
牛島は茫然としている。黒田は半泣きだ。
(おい、まだ残ってるだろ?)
声が聴こえる。こんな低い声のやつはウチのクラスにいないぞ?
「うぅ...」ゆっくりと腰を上げる五条。立ち上がった五条は長身の牛島を悠々と見下ろしていた。腕も太腿も丸太の様に隆起している。
「そうだ、まだ、終わってないィイッ!」ブンと音がする。雑に振った腕が黒田の顔を掠めた。殴るつもりだったんだろうが黒田が僅かに後ずさったから。ギュルギュルギュルと聞いた事が無い音が聞こえて黒田の頭は宙を舞った。目の前の現実を理解するのに脳が手間取っている。
「牛島...」牛島は漏らしてる。人って怖いと本当に漏らすんだ。五条?は牛島の方を向くとゆっくりと牛島の頭を掴み窓に放り投げた。ピピッと牛島の尿が顔に飛んできた。玩具みたいに投げられた牛島は窓ガラスを割りグラウンドに放り出された。ドシャっという音と共に外から微かに悲鳴が聞こえてきた。
「あっ」と声が出る。さっき黒田は五条の拳を避けたんじゃない。顔の前面を拳が僅かに当たってその衝撃を逃がすために頭が回転してそのまま......。黒田、だったものと目が合う。脳が初めて理解した。
この状況は、...非常に不味い。