第3の目
「…なんか、でっかくなってきたなあ。」
風呂に入るたびに、気になっていたのだが。
右わき腹の背中側のあたり、ちょうど俺の死角になる部分にだな、おかしなできものができているのだ。
最初は豆粒くらいの大きさだったんだけど、最近どんどん大きくなってきてさ。
今じゃ小さな卵くらいあるんだ。
痛くもかゆくもないから、気にしてなかったんだけど、どうも昨日一昨日あたりから違和感がするというかなんというか。
できものの表面に、ひび割れ?ができてきてさあ。
直接見えない位置だから、スマホで写真撮ってみたんだけど、できものの上に、一直線の筋が入っているんだ。
今にもこう、割れそう?なんていうか、瞼っぽいとでもいうのかな。
いっそパカッと割れて中身が出てくれたらさ、できものもなくなるんじゃないの。
…そんなことを思っていた時がありました。
・・・なんじゃあ!?こりゃああああ!!!
俺の、俺の背中とも横っ腹とも言えない微妙な位置に!!
め、め、めだま、目玉がああああああああ!!!!
できものと思っていたのは、なんと、目玉だった。
いわゆる、第三の目の様だ。
この目が開くようになって、やけに頭がすっきりとしている。
この目が開くようになって、やけに物事がすんなり解決している。
この目が開くようになって、やけに人当たりが良くなったと言われている。
この目が開くようになって、やけに目が良くなっちまった…普通の人に見えないもんまで見えるようになっちまったんだ。
うんうん唸らなくても答えが出せるようになった。
えんえん悩み続けることがなくなった。
どんどん知人が増えていった。
もろもろの存在を知ることとなってしまった…いわゆる幽霊、その他支配者的なやつだの神的なやつだの。
…これはいいものを授かった、そんなことを思っていた時がありました。
俺の第三の目は、開いている時だけ作用するらしい。
目を閉じていては、能力が発揮されないのだ。
目を開けていても、何かに阻まれていれば、能力は発揮されないのだ。
普段は、服の下で隠れる位置だからさ。
服の下で第三の目を開けていてもだな。
服の生地しか見えないんだよ。
目が開いたのはさ、真夏のクソ暑い時期でさ。
薄手のTシャツなんか着てたもんだからさ、うっすらと透けて見えてたんだな、多分。
肌寒くなって二枚三枚と重ねて着こむこの時期じゃ、何も見えないのさ。
物事ってのはさ、見通しが立つとかいうだろ?
よくわかんないけどさ、この目が物事を見据えた状態でこそ…並行思考や英知とのつながり、霊的な世界との接点なんかを探れるようになっているらしい。
つまり、俺はこのおかしな目玉をだな、堂々とだな。
このおかしな位置で開いている目玉を…さらけ出さなければいけないのだ。
服をめくりあげ、この世界を第三の目を通して直接見なきゃなんないんだ。
非常に、ひっじょ―――に、使い勝手が、悪い。
俺はこの目玉と、どう付き合っていったらいいのか、考えあぐねているのだ。
部屋で一人、第三の目を開いて考えるが。
…どう考えても、俺はヒーローにはなれない。
いくら予知を得たとしても、それを伝える手法がない。
いくら悟りを得たとしても、それを伝授する手法がない。
いくら英知を得たとしても、それを生かせる手法がない。
いくら霊能力を得たとしても、それを駆使する手法がない。
ごく普通の一般人として完成されてしまっている俺にはだな、第三の目なんてもんは…偉大過ぎるんだよ。
ツイッターでつぶやいたところでいいねすらつかない。
…俺はフォロワー数二桁だからな。
HPだって作れない。
…俺はパソコン持ってないからな。
ブログくらいなら書けるか?
…俺は最近老眼が始まってだな、スマホ画面を見るのもしんどいんだ。
完全に宝の持ち腐れだ。
なんで俺の体に生えてきた、第三の目よ。
もっとさあ、人を選んで生えたらどうなのさ。
著名人とかさ、金持ちとかさ、若い人とかさ!!
そしたらきっと、世界をひっくり返すような出来事が起きたはずなんだ。
人の生きる意味を、人だけが理解できていない現状を変えることができたはずなんだ。
今後発見される未知の物質の存在、驚くような宇宙現象、命の仕組み、次元の真実、魂の物語…。
…俺には荷が重すぎるよ。
第三の目がもたらしたものは、俺の中で燻り続けるのだ、おそらく。
下手に知ってしまったせいで、微妙に気が重いんだよなあ…。
俺はため息を一つついて、服を着こんだ。
今日は寒くなるらしいからな、上着は少し分厚いものを選ぶかな。
第三の目の前に、暗い空間が映る。
俺はただのおっさんになって…平平凡々とした毎日を送るために、家を出た。