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桃園日記  作者: 田辺左衛門次郎
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上京

 アズサが帰ってきた後、両親祖父母をはじめとする家族は驚いた。娘が暗くなってから泥だらけになって帰ってきたからだけではない。中等部に上がってからというもの全く無気力になり、3年の1月になっても進路を決めかねていた娘が急に遠く離れた連邦首都の学校に進学すると言い出したからである。

 同居する母方の祖父母は断固反対であった。祖父はなぜ()()()にそのような考えに至ったのか問いただしたいままで手塩にかけてかわいがってきたのにどうしてそんなことを言うのかと祖母は泣き出した。

 

 ところが父母はまだ15の娘を遠くにやることを幾日も悩んだ末に賛成した。娘がどうなっても良いと思ったわけではない。むしろ世の親と同じかそれ以上に心配していた。娘の行く末を(おもんばか)っての苦渋の決断である。

 母は最近何に対しても意欲を見せず、日に日にやつれていく娘を(いた)く気にかけていて、どうしたらよいのかと苦悩していた。

 それが首都に行きたいと言い出してからは、細くなる一方だった食が戻り表情も豊かになっていて何か娘に良い変化が起こったのだと信じていた。

 進学に首都の学校を選ぶこと自体は何の問題もないと考えていたこともその理由の1つである。彼らの住む東部の辺境が連邦に併合されてから200年余りが過ぎ、異民族の彼らもおおよそ連邦本国の習俗に慣れ親しみつつあった。母の世代からは高等教育を受けるために本国に移住する若者も当たり前になっていた。

 父もまた娘に起こった変化を好ましく感じていた。彼は娘の目に自身の若いころの目を重ねていた。彼は進学を言い出した頃から娘の目に不屈の熱情と溢れんばかりの希望が灯ったのに気づいた。それはかつて父が大志を抱いて故郷を出た時の目と同じであった。彼にはアズサを加えて3女と2男があったが、かつての熱情の目を2男のそれよりもアズサのそれに感じ取った。昔の自分と同じ夢を持つ娘の希望をどうしても叶えてやりたかった。

 父は、うちは小さいながらも地主であるから進学の費用はどうにでもなると言いアズサに賛成した。

 父母が賛意を示した後でも祖父母は未だに反対の立場を崩していなかったが、これに20になる長女と17になる次女の賛成が加わり渋々アズサの進学を認めた。

 

  その後は中等部の進路希望の教員に話を通したり出立のための荷物をまとめたりで月日は過ぎ去り連邦暦1307年2月8日、アズサ ヨウミョウは故郷から汽車で3日掛かる連邦首都へと発った。

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