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公爵の思い

スペンサリア公爵視点です

「精霊なんて本当にいるのでしょうか」


 僕はこの言葉を何度投げかけられたことだろう。精霊は確かにいる。と思う。見たことは無いけれど、伝承に残り、いないと説明の付かない魔法もある。信じていないと言う者も、精霊の祠や像を壊すことは決してやらない。


 どこかで、彼らを信じ呪いを恐れているのだ。


 しかし、実際に見たものはいない。


 ところが、どうだろう。先程、目の前にいた彼女の姿は確かに伝承にあった精霊そのものだった。


 内部で複雑に反射し宝石の様に輝く髪、瞳。おとぎ話の様に羽こそ生えては居なかったが彼女が纏う異質な魔力が、人間ではあり得ないことを物語っている。


 今まで彼女のことを調べてきた。どれも不思議で、不可解な現象だったが、彼女が精霊だったということで、全てが繋がった。


 精霊は人間の魔法を使えない。魔力の塊とも言える彼らの力は主に祝福を授けることに使われる。また、水晶が水属性だけだったり、暴走したときに水魔法が発動するのは彼女が水の精霊だったからだ。


 精霊に悪さをすれば、祝福を貰えない。魔法は使えなくなる。


 国民の誰もが知っていることだ。なんで、こんな単純なことが直ぐに思いつかなかったのだろう。


 彼女はあまりにも人間らし過ぎた。


 元々の魔法学講師であるキャスターは僕に代理を頼む際、不思議な女生徒がいる。君も絶対興味が湧くはずだ、と言った。確かに変わった髪色に直ぐに目がいった。でもそれだけだ。彼女がそうか、と思っただけだ。


 それがどうだろう、実際の彼女は不思議で一杯だった。僕の好奇心が尽きることはなかったし、どうアプローチすれば彼女に関われるのかと、そればかり考えた。


 それに、観察という名目で彼女の側に居たが、こんなに他人に対して心が踊ったのは初めての経験だった。


 リズは、言葉にいつも棘があるのに、優しく接してあげると直ぐに照れて顔に出てしまう。どこかいつも寂しそうで、本当は甘えたいのに我慢している。大食堂のご飯なんかを幸せそうに食べる。


 どれも全部可愛らしくて、初めて自分の時間を研究以外に使っても良いと思った。


 リズは、いつも一人で無理をして、自分一人で解決しようとする。誰か守ってあげないと。


 そう思っていたのに。


 僕は全然彼女を守れてなんていなかった。見えないところであんなに傷ついていたなんて知らなかった。


 彼女が最後に言ったあの言葉は、本当なのだろうか。


ーー迷惑です!ーー


 その言葉が胸に突き刺さる。

 最初こそ迷惑そうにしていたものの、そんな気配は微塵も感じなかった。


(人の目を気にして、僕に気を使ったのか?)


 〝公爵〟に投げつけるにしては手酷い言葉だが、彼女らしいといえば彼女らしい。


 抱きしめた時の、細い肩。小さい体。強情な彼女が泣いていた。


「リズ……」


 今からでもいい、迷惑がられてもいい、あの子を守りたい。彼女を傷つけるもの全てをこの力を持って排除しよう。


(その為には……)


 自分の取るべき行動を瞬時に脳内で展開させ、僕は辺りを見回す。


 リズの姿を見た訓練塔にいる生徒達は騒がしい程動揺していた。絵本や初等部の教科書で散々見た姿だ。彼女が何者だったのか、皆が気付いたのだ。


「僕は学園長報告に行く。君たちは教室に速やかに移動し待機すること。さっき見たことは学園長の指示があるまで口外禁止とする」



「先生、待ってください。わたくしを助けてくださいませ!」


 出入り口へ向かう僕を呼び止めたのは、ミュレーゼ嬢だ。


「君が何故、魔法を失ったかわかったよ」


 ミュレーゼ嬢は真っ青になる。自分でも恐ろしく冷たい表情になっていることがわかる。


「君も、原因についてもう理解しているのだろう?僕は卑怯な人間が嫌いだし、興味もない。君の犯した愚行を僕が助けてやる義理もない」



 令嬢は泣き崩れるが、彼女に構っている暇は無い。


 僕は学園長室に行くと、ことのあらましを学園長に話し、王族にこの件を報告することを告げた。


 内容が内容なだけに、学園長はこの案件を僕に一任してくれた。


 まぁ、王族と僕の名、精霊がいたという事実を述べれば、誰でも関わりたくないと思うだろう。ことが終わるまでこの件は口外禁止として処理された。



 そして、僕は一連のことをしたため、陛下に書簡を送った。当然、彼女を保護する内容を書き記した。


 この書簡が読まれ、精査されるまでは時間がかかるが、確実に彼女の身の安全を約束できるだろう。


 はやく、リズに会って安心させてあげたい。彼女は何も悪くないが、今回のことは気に病んでいるだろう。


 しかし、週明けになっても彼女は学園に姿を現さなかった。病欠とのことだった。


(まさか、力が出現したせいで体に負担が?いや、あれが彼女の本来の姿のはず。体にそこまで負荷がかかるとは思えない)


 僕が学園にいる間は顔を合わせないつもりなのだろうか。


(そんな訳はない)


 リズは真面目な性格だ。何もないのに学校をサボるなんて有り得ない。


(精霊の姿から戻れなくなったのか)


 それから数日経ってもリズは登校してこない。不安に駆られた僕は、学園長に男爵家を訪問させた。

 あくまで、見舞い、という程での訪問だが男爵が対応に現れただけで、リズは具合が悪いため姿を見せられないという。


 まさか、男爵に捕らえられているのでは。


 しかし、精霊に不利益をもたらせばその分、祝福は呪いに変化する。魔法を使えないというリスクまで犯してやるだろうか?


(…….。やるかもしれない。)


 ミストン男爵は貴族の端くれだ。魔法を殆ど使えないと言っていい。リズに今更何をしたところで、影響力もないだろう。私は追加でミストン家の調査をすることにした。


 学園での授業を終え、僕は自宅に帰り、助手に手紙がきていないか確認する。


 助手はにっこりして、僕の待ちわびていた手紙を取り出した。金の封蝋には王家の紋章である精霊と鷲のマークが描かれている。


 それは、城への召集状だった。


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