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7/13

再び

「リズは本当に不器用だね」


 私は頭を撫でられる。


(こういう時は何をすれば正解なのかな)


 私は公爵の服をきゅっと握って丸くなる。


(だめだ、この人の熱からは逃れられない)


「リズは小さくて、こうしてると癒されるよ」

「そんな事言うと、別途アニマルセラピー料を頂きますよ」

「はは。僕はちゃんと君のことをいつも女の子だと思ってしているよ」

「それって……?」


 どういう意味?今も私のこと女の子だと思って抱きしめてくれてるの?


 真意を聞こうと思った時、公爵は私を離した。


「さて、授業の準備をしないと」


 体を離すことに寂しさを感じるなんてどうかしている。


「次の授業はリズのクラスだよね?訓練塔まで一緒に行く?」

「いえ、一度お手洗いに行ってから向かいます」

「そう?じゃあ、僕は先に行ってるね」


(はぁー。何あの人。なんであんなに人タラシなの)


 ずっと、学園にいてくれれば良いのに。後、数週間で彼は手の届かない所へ行く。私は先程まで彼の手が乗っていた自分の頭をおさえた。



「寂しいなぁ」


 こんな胸の痛み知りたくなかったな。


 私は近場のトイレに行く。用を済まし最後に手を洗っていると、隣にきた女生徒にいきなり大量の水を頭からかけられた。


 魔法で作られた水だ。魔法は授業以外で使うことを禁止されているはず。


「何をするんですか、ミュレーゼ様」


 赤毛の髪が特徴の彼女はスペンサリア公爵を熱心に追いかけている生徒だ。その取り巻きの女の子が2人、ニヤニヤと私を見ていた。


「あなた、自分の立場をわかっていて?」

「立場?」

「そうよ、この平民が。スペンサリア公爵様に馴れ馴れしいのよ。色仕掛けでもしたのかしら、おぞましい」

「先生が色仕掛けになんて興味ないことくらいわかるでしょう?」

「はぁ?公爵様のことは、私の方がわかってますアピールですか?」


 取り巻きの女の子たちがくすくす笑う。


「あなた、次また公爵様と話しているのを見たら、今度こそタダじゃおかないわ。魔女だかなんだか知らないけれど、わたくしはそんなのちっとも信じていないわ。それとちゃんと乾かしてから次の授業に来なさいよね。そんなみっともない格好でうろつかないで頂戴」


 そう言って彼女は去って行った。先日の教科書もきっと彼女達の仕業だろう。それにしても困った。替えの服もないし、風魔法でも使わない限り次の授業までに乾かすのは不可能だ。それに時間もない。だが、このまま次の授業が欠席扱いになるのも納得いかない。


 仕方がないので、私は制服の裾を絞って最低限の水気を切り、そのまま訓練塔に向かった。


 本鈴と共に私が訓練塔に入ると、皆ギョッとして私を見る。


「リズ!?どうしたの?」


 公爵は直ぐに気づいて私に風魔法をかける。


「ありがとうございます」

 

 体が冷えてきていたので本当に助かった。


「なんで、こんなに濡れて……」

「噴水に落ちました」

「そんな、バカな」


 スペンサリア公爵は珍しく怒っている。彼が怒っている姿は初めてみたかもしれない。それでも、あの人達がやりました。なんて格好悪くて言えない。


 自分に売られた喧嘩を人に押し付ける気はない。


「本当に落ちたんです。先生、どうぞ授業を続けて下さい」


 取り巻き達は多少不安そうに私達のやりとりを見ていたがミュレーゼは勝ち誇った顔をしていた。


 私が公爵に泣きつくような女なら本をボロボロにした段階で泣きついていたはずだろう。ミュレーゼは私の性格をよく理解していたようだ。


「……わかった。その話は後で聞こう」


 公爵は何か言いたそうにしていたが、グッと飲みこみ授業を開始した。


「じゃあ、今日は中級魔法を練習していくよ」


 公爵は得意属性ごとに生徒を並べ精度を見ていく。


 勿論、私は見学だ。


 生徒は皆意気揚々と魔法を放つ。ところが、数人真っ青な顔をして呪文をひたすらに連呼している生徒がいた。


 問題の生徒の近くにいる者から徐々にその異常事態に気づき、手を止め始めた。


「《水蓮》!《水織》!《水泡》!どうして!?なんで何一つ使えないのよ!!」


 それはミュレーゼ一派だった。ミュレーゼは自身の得意呪文を次々に叫ぶ。


「どうした!?」


 公爵が声をかけるが、ミュレーゼの取り巻きの女の子達はわなわな震えて泣き出してしまった。


「あの子が……。さっきまで使えたはずなのに」


「先生、魔女がっ!魔女が私たちの魔法を奪ったんです」

 ミュレーゼは真っ青な顔して私を指差した。


(あぁ、またこの光景)


 10年ぶりに起こったこの現象。同級生達の怯える瞳も異様な雰囲気も、あの時と何一つとして変わっていなかった。

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