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ミストン家②

時系列的には8話の続きとなります。

 私は、訓練塔から飛び出した。


 この髪はなんなんだろう。

 

(私、人間じゃなかったのかな)


 頭に浮かんだのは、以前教科書で見た精霊の姿絵だ。


 精霊……。


 私は建物の影に入り高ぶった感情を抑える。このままでは帰れない。


「大丈夫、落ち着いて。落ち着いて。きっと元に戻る」


 その場で、深呼吸をする。


(先生、傷ついたかな)


 そう思ったのは一瞬だった。以前、私を研究したいと追い回した公爵の姿が頭をよぎったからだ。


「うわぁ。絶対研究したいって追い回してきそう……」


(折角、関係を絶ったのに厄介な人だよなぁ)


 明日は休日だからいいとして、来週からどうやって追っぱらおうかな。


 私は男爵の屋敷に戻る。

 特に何事も無く過ごした翌日の朝、男爵に呼び出された。


 ただでさえ、憂鬱だったのに。今度は一体何の用かしら。


「男爵様、お待たせいたしました」

「おお、来たか!我が娘よ」


(我が娘?)


 そう呼ばれたのは私がこの屋敷にきた当初だけだ。魔法が使えないと分かってからは、居ないものとして扱われてきた。


「如何致しましたか?」

「昨日の夜会で聞いたぞ。スペンサリア公爵と随分親しくなったようではないか」


(ああ、それで)


 それにしても貴族というのは随分耳が早い。まぁ、そうでなければこの競争社会では直ぐに蹴落とされてしまうのだろう


「昨夜は色んな方々に話しかけて頂いたよ。お前がもっと早く報告してくれれば、詳しくお話して差し上げることも出来たはずだが残念だ」

「申し訳ありません」


 男爵は猫なで声で「いいんだ。お前には期待している」と言って私を解放した。


 なんだあれは。私が公爵と、本気でどうかなるとでも思っているのだろうか。

 


 自分の部屋に帰る途中、階段の踊り場で声をかけられた。


「あらやだ。なんでまたあなたが本館にきてるのかしら」


 ダリア姉様だ。また待ち伏せしていたのか。なにもこんな所でしなくても。


「もう部屋に戻ります。」

「あなた、随分余裕がありそうね?」

「何のことでしょう?」

「スペンサリア公爵様に気に入られていると聞いたわ。わたくしなど、あなたのせいでなかなか良い縁談が来ないというのに」


 男爵は私のことを朝食の時にでも話したのだろうか。男爵にとって嬉しいニュースでもそれが娘にとって嬉しいニュースとは限らない。


 お姉様が言ったことは、3割くらいは事実だ。

 やはり、厄介者のいる家族と縁を結びたいというものは希少である。お姉様の縁談がなかなか進まないことには私も多少罪悪感を持っている。


 何も言わずに立ち去ろうとしたその時、背後から私の首にむけてヌッと手が伸びてきた。


「なっ……!」

「あなただけ、幸せになるなんて絶対許さないからっ……!!」


 お姉様は両手で私の首を締めた後、そのまま階段から突き落とした。


 一瞬の浮遊感の後、身体中を打ち付ける。私はただ頭を守りその衝撃に耐えた。


 一番下まで転がり落ち、私はその場を全く動けずにいた。どくどくと早鐘のように鳴る心臓の音だけが聞こえ、生きているということだけははっきりわかった。


 頭が真っ白だ。まさか、ここまでされるとは思っていなかった。


 余りにも大きな音が鳴ったため、男爵や家のメイド達が様子を見に来た。

 

「これは、一体……?」


 青ざめる男爵に、夫人が優雅に近づいた。


「あの娘が足を滑らして勝手に落ちたのですよ。ねぇ?ダリア?」

「……はい、お母様」


 夫人は扇子で口元を隠しながらも、私に憎しみの目を向けた。


 男爵は私と夫人を交互に見て大きな溜息を吐いた。

 

「顔は無事だな。今がチャンスなんだぞ。さっさと治せ」


 そして、ミストン家の者は去っていった。男爵は夫人に弱い。状況から見て、ダリア姉様が怪しいと思っている筈だが、夫人が違うと言えば違うのだ。


 おそらく、ダリア姉様を焚きつけたのも夫人だろう。





 しかし、頭が冴えてくると起き上がるのが困難な程痛い。幸い骨折は無いように思えるがあちらこちら打撲している。


「これで先生としばらく顔を合わせなくて済むわね」


 涙がぽろぽろと溢れる。


 怪我の痛みからか、家族に冷遇されているからか、公爵に会いたいからか……。


 それすらも、もうわからなかった。


次は男爵視点となります。

この話と一つにまとめる予定だったのですが、分かり辛いので分けます。(1話がずつが短くなりすみません)

本日もう1回更新します。

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