なにか猛ー烈に胸が痛む
荷馬車での道中は、昼に少しの休憩を挟み、夜は停車して、冒険者や傭兵達が交代で見張りをしながらの野営。
早朝、夜明けまでにはまた出発、という繰り返しだった。
途中の通過地点に村などがあれば、物資を受け取ったり交換したりするためには寄るが、宿泊のため等に寄る事はなかった。
「貴族が乗っているにしては、結構ハードなんだな」
休憩中、荷馬車を降りながらぽつりと漏らすと、近くに居た兵がこっちを向く。
「お嬢様は、なるべく早い到着をお望みだ。
迅速に行動しなければならない」
そう言うと、兵はすぐに作業に戻って行く。
「この前の村では急に、ここで朝食をとる! とか言い出してたのにな」
いつの間にか近くに来ていた冒険者が呟く。
「予定外の時間を取るのは、だいたいあのお嬢様なんだがな。
何を考えているのやら、よくわからん」
こちらを見ながら溜息をついている。
「荷馬車とはいえ、貴族が乗っているから、宿のある場所に寄ったりしながら進むのかと思ったら、ほとんど野営なんだな」
疑問に思っていた事を聞くと、冒険者が首を振る。
「俺達みたいな人間はともかく、お貴族様や商人なんかは、普通は多少なら迂回して、夜はなるべく宿に泊まれるようにしたりするもんだ。
あのお嬢様は特殊だ。まぁ移動が何日も長引くよりは良いが……」
やっぱり特殊らしい。
ワガママだワガママだと言うから、てっきり汚い所や野営は嫌だとか言うのかと思いきや、そんな事もないらしい。
「そんなに急ぎの積荷なのか?」
「お嬢様とやらの予定は知らないが、他の物資はともかく、食材なんかは日が経つと傷んじまうからな。
特に狩った獣や魔物の肉なんかは傷みやすいし、ある程度処理して冷やしてるとはいえ、冷やし直すにも氷魔法が使える人間が魔力を使うか、でなきゃ特殊な魔導具でも用意しないと、そんなに何日も保たねぇよ」
「魔法を使える人がいるのか?」
「数は少ないが、居るには居る。貴族には使える人間が多いな。
冒険者の中にも、そこそこ使えるやつもいるが、ろくに使えない人間の方が多いと思うぞ。
今回は貴族様が乗ってるし、少し遠出だからって事もあって、傷みやすい食材の保存も兼ねて、氷魔法が使える人間が配置されてるらしいがな」
都合よく氷魔法を使える人間が毎回居るとは限らないし、魔力も無限ではないので、節約しながらが基本らしい。
なるべく早く、というのも理解できる。
「あぁーあ、俺も嫁か恋人でも居れば、少しは帰るのが楽しくなるんだがなぁ!
早く帰っても、酒浴びるくらいしか楽しみがねぇよ」
そう言って冒険者が嘆きながら笑うと、なぜか急に胸が傷んだ。
嫁……
恋人……
何だろう?
その単語を聞くと、なにか……なにか猛ー烈に胸が痛む。
なんだ??
記憶がないから、孤独でも感じてるんだろうか???
なんとも言えないモヤモヤ感を感じながらも、再び荷馬車は動き出すのだった。