たしかに不審者に見えなくもない
村は家も人も少なく、閑散としていた。
田畑らしきものもあまりない。
時々、簡素な服を着た村人が、遠巻きにチラチラとこっちを見てくる。
完全に不審者を見る目だ。
「そこの方、この村に何かご用ですか?」
振り向くと、少し離れた場所に、やせ細った老婆がいた。
「えぇ…っと……」
山で遭難……は出来ない。近くにあるのは森だし。
ちょっと買い物に……行くには金がない。
狩りに来た……にしては武器もない。
たしかに不審者に見えなくもないよなぁ、と今更ながらに思う。
「いつの間にか気を失っていたようで、付いたらあの森にいて……俺にも何が何やら……。
とりあえず近くにこの村が見えたから、こっちに来てみたんですが……」
ここで叩き出されても困るので、とりあえず丁寧に答えることにする。
「何かに襲われたかなにかして、気を失ったといったところでしょうか」
「おそらくは……」
体に痛みなどはないが、そう思われるのが自然といえば自然かもしれない。
それで記憶障害でも起こしたとか。
「どこか行くあてはあるのですか」
「いえ……実はどこから来たのかも、定かではなくて」
「それは大変でしょう……ですが見ての通り、この村も裕福ではありません。
人は数える程しか居ない上、土は痩せていて、田畑はほんの僅か。店らしい店もなく、食うにも困る有様です」
それはこの村に入ってすぐ気付いた事だった。
土地はみるからに痩せていて、僅かな田畑にさえ、作物がほとんど実っていない。
「何人かが草原や森に入って、小さな動物がとれるかどうか。
それを分け合ってなんとか食いつないでいるのです。
売れるほどの動物や魔物が狩れる事も、ほとんどありません」
どこか人の居る場所が見つかれば、何とかなるかもしれないと思っていたが、思った以上に厳しい環境らしい。
「多少はましな村もあるとは聞きますが、今はゆとりがないのはどこも同じでしょう。
ちょうど明日か明後日には、町に向かう荷馬車が来るので、それに乗って町へ向かうと良いでしょう。
少なくとも、この村よりは仕事もあるはずです」
とりあえず今日のところは納屋を借りられる事になったが、食事は自力で調達しなければならないらしい。
草原や森に出て動物を探すか、野草などを採るか。
これはここの村人も条件は変わらない。
なにも意地悪をされているわけではない。
皆食べ物を調達するのにも困っているのだ。
こんな不審者に寝床を貸してくれるだけでも、ありがたい。
俺は老婆にお礼を言って、早速草原に出た。