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リーロン君がやってくる  作者: 黒夢
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リーロン君 送り出す

 死んだと思い身体が入れ替わってから一週間程立った。始めこそ一悶着あったものの、我の真摯な態度によって最近はいざこざもなく過ごしていた。そこに、初めての訪問者が現れた。


「へい、いらっしゃいやせ。本日はどのような子をお求めで?」


 無精ひげの男は、いつもの偉そうな態度は鳴りを潜め、スラムには似つかわしくない馬車から降りて来た小太りの男にへーこらと頭を下げている。


「とりあえず全員見せてもらおうか」

「へい、おいおまえら! 全員こっちへこい!」


 そろそろ狩りにいこうと思っていたのだが、ここで世話になっている以上は仕方あるまい。食堂に我と、最近はめっきり親睦を深めた孤児達と並ぶ。いい加減呼び方を覚えたほうがいいかと思い立ち呼称で呼び合うぐらいには仲良くなったのだ。


「は、はい……」


 赤い髪の一番背の低いショートカットの孤児。アーと呼んでおる。口数が少なくびくびくしている印象があるが、我の後ろに隠れぐいぐいと前に押してくるところなど強かである。


「な、なんでしょうか……?」

 

 ボサボサの茶色い髪を肩口まで伸ばした孤児。呼称をベー。オドオドとしているが言いたいことは意外としっかり行ってくるあたりは芯が強いところであろう。倒れた我の様子を見に来たのもベーだ。


「お、おまたせしました」


 青い髪を腰ほどまで伸ばしている一番長身の孤児。呼称はツェー。一番年長でありしっかりしている印象がある。


 ちなみに呼称なのは何度名前を聞いても覚えられないからである。昔からだったか状況が変わったからかはわからんが、どうしても覚えられなかったため呼称で適当に呼んだらそれで馴染んだ。しっかりとした栄養を取り、生きる気力が違う成長期の子供は、数日前とは違ってはきはきしているように見える。うむ、いいことである。


「うむ、なにようである?」

「あっ、このてめえ! すいません。しつけがなってなくって……」


 呼ばれたからきたのに関わらず、無精髭の男は我の頭をぐいぐいと下に押し込んでくる。無論解せぬので抵抗して下げないでいる。あまり強く引っ張られると毛根が心配なのでやめて欲しいのだが。今はこの要因となった小太りの男の事を観察させてもらおう。


「今回のはずいぶんと恰幅がいいのが揃っているな。これのしつけはさすがにどうかと思うが」

「へ、へぇ、今回はちょっと栄養状態に気を使ってみたんでさぁ」

「ふん、それがこうゆう増長を引き起こすんだ」


 うーむ。あの目は完全に見下しておるな。あちらから見れば子汚い子供でしかないのであろうが、あまり気持ちのいい視線ではない。小太りの男は話をしながらもじろじろと若干後ろに引いている孤児のほうを観察している様子だ。


「あれをもらおう。すぐ死んでもつまらんのは確かだったからな。少しは色をつけてやろう」

「あ、ありがとうございます! 今用意させますんで!」


 しばらく話をしていたようだが、商談が成立したようだ。不穏な言葉が聞こえたような気がするが、所詮その程度の存在としか思っていないからだろう。剛腹だが今どうかできるわけではない。ちろりと視線を送るだけに努める。


「おいっ! お前の主人が決まったぞ。身体を拭いて綺麗にしてくるんだ! ……お前が手伝ってこい」


 どうやらベーの身請けが決まったらしい。理解していないのだろう。ベーは呆然とし、アーとツェーは別れを察して悲し気な表情をしている。我の杞憂ということであればいいのだが、ただもらわれる先が決まったという事実だけではなんともいえん。指示通りにするしかあるまい。少しとはいえ一緒に過ごした仲だ。出来る限りのことはしてやろう。


 井戸の水を汲み、魔法でぬるま湯へと変化させる。子汚い布しかないので、浄化の魔法をかけつつ丹念に体を拭いてやった。何故か顔を真っ赤にして身体を隠してしまうので、背中と手と顔を拭いたらアーとツェーに任せる。一緒にいる期間の差だろうか、解せぬ。髪の毛も浄化したお湯で濯いだ後に、手慰みでつくった櫛で丹念に梳いていく。身請けの日はいつかくるだろうと思っていたので、狩りで狩った魔物の皮をなめしてつくった貫頭衣を送り花を飾ってやる。ベーは涙ぐみ、アーとツェーは物欲しそうな目で見ていたが知らぬ。いちいち言わぬが別にちゃんと用意してあるから安心せい。


 しかしこうして身だしなみを揃えるだけで大分変るものだ。サウザ流理論【馬子にも衣裳】とはよく言ったものだ。髪はツヤツヤとなり、泥や垢で汚れていた身体は浄化を付与した布でしみひとつなく玉のような肌となった。些か物足りぬが、現状ではこれが限界であろう。我が送りだすのであればこれぐらいでなくはならぬ。


 再度食堂に連れていった際、無精髭の男がぽかんとしていたが、サムズアップする我の方を見て大きくため息をつくと、諦めたかのように外へと送りだしていった。

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