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リーロン君がやってくる  作者: 黒夢
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リーロン君 今度こそ食事事情を改善する

 あれから早くも数日たった。初日から我のことを目の敵にしていた男がいたが、何故か遠巻きに見ているのみで最初のようなことをしてくることはなくなった。時々怯えたような視線を向けてくる。ふと、前世でも良く向けられていた視線であったことを思い出す。全く、失礼な奴が多いものだ。


「どれ、もってやろう」

「えぇっ! あ、ありがとう……」


 重そうに桶を持ち倒れそうだった者から、半ば強引に桶を受け取る。サウザ流による完全な自己管理と、豪華な食事(リーロン視点)により身体つきがしっかりしてきた。すでに我の両手でほぼ全員の水桶を持っている。オドオドとした子供達は見ているのみで、うるさく言ってきていた孤児院の男も、今は諦めたような表情で虚空を眺めている。


「気にするな。我もトレーニングになるのでな。くははは」


 食べて消化するだけでは身体づくりは出来ない。きちんと動かすことで身体づくりというのは行われるのである。薪割、掃除、水汲み、芋の皮むきなど日課らしい日課はほとんど我が超ペースで終わらせていく。一日かけて行っていたことが午前中には終わってしまうほどだ。終わってないならいざ知らず、全てを終わらせている以上何も言えないらしく、男は頭をかきむしると、すごすごと自分の部屋へと戻っていく。禿げなければいいが、無粋な心配であろうか。


「ねぇ、今日もどこかいってくるの?」

「ちゃ、ちゃんと帰ってきてくれるよね?」

「置いてかないで……」


 ぼさぼさの髪に、ボロボロの服を着た子供達が話しかけてくる。寝食をともにする孤児仲間である。始めこそ怯えた目で見ていたものの、今ではそれなりに話もできるようになった。重畳である。


「くははは、大丈夫だ。必ず戻ってくると約束しよう。仲間であろう?」


 我の言葉で曇っていた目を輝かせる子供達。可愛いものだ。その期待に応えられるよう今日も頑張ろうではないか。まずは挨拶からである。


「少し今日も出てくる。夕飯までには戻るのでな」

「……もう勝手にしてくれ」

「うむ。では行ってくる」


 挨拶は大事だ。勝手に出ていくというのも失礼にあたる。最初こそ色々言われたが、最近は特に言われることもなくなった。サウザ流理論【一挨一拶】のおかげであろう。言われる前に先に挨拶することが大切なのだ。向かうのは城壁のほうではなく、外周の森だ。軽く屈伸を行った後森の中へと駆けていく。むっ、発見した。


「ふっ」

「ピギャ!」


 茂みの中に手頃な石を投げつけると、何かが倒れた音がする。油断せず近づいて確認すると、角の生えた兎だ。幸先がいい。この世界にも魔物が存在しているのは確認済みだ。普通に食用として流通しているらしい。拝借してきた切れ味の悪いナイフですぐに血抜きを行う。すると、匂いに誘われて狼のような魔物が現れる。拾った木の棒の先をちょいちょいと動かすと、目を血走らせて飛び掛かってくる。ここだ。サウザ流理論【ボディがお留守だぜ】。


「ギャイン!」


 飛び掛かって来た際に、潜り込むようにして腹部を木の棒で強打する。狼は情けない声を上げて倒れたので、すぐに首を掻っ切る。ドバドバと血が出るので血抜きにもなって丁度いい。この日は角の生えた兎、狼のような動物、羽の綺麗な鳥を仕留めたので帰ることにした。


「ただいまもどったぞ。台所を借りるぞ」

「……あぁ」


 何故か額を抑えて天を仰ぐ男。この世界の挨拶なのだろうか? まぁいい、いつも通り台所に向かうと、子供達がやってきた。


「お、おかえり!」

「今日もすごいね……」

「良かった……」


 それぞれ目を輝かせたり、安堵の表情を浮かべている。うむうむ、あの男にも見習って欲しいものだ。


「くはは、さて、働かざる者?」

「「「食うべからず!」」」

「そうだ、手伝ってもらえるか?」

「「「うん!」」」


 拙い手付きではあるが、我が教えながら解体や調理を手伝ってもらう。人は弱い生き物だ。無償で得られることは何よりも毒となろう。少なくとも、この経験は彼ら? の今後生き抜く上での宝になるはずだ。鳥の骨で出汁をとったスープには、つくねが入っている。近場に生えていた香草を練り込んだ。狼のような魔物の肉は干し肉にする。癖が強いのでそのまま食べるのはお勧めできない。兎の肉は柔らかく臭みが少ない為焼くだけでも美味い。調味料が欲しいところではあるが、それは贅沢であろう。


「「「いっただきまーす!」」」

「うむ、いただきます」

「……いただきます」


 初日と比べると豪勢すぎる食事を前に、子供達は笑顔だ。くはは、そうだ、子供は笑顔でなくてはな。


「うめぇな……ちくしょぉ……」


 ぼそっとではあるが聞こえた男の声に、我は満足しながら食事を味わうのであった。

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