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リーロン君がやってくる  作者: 黒夢
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リーロン君 食事事情を改善? する

 建物の外には拍子抜けするほど簡単に出ることが出来た。見張りらしい見張りもいない。あたりを見渡すと簡素なぼろ小屋が至る所に建っており、見上げるほどの塀が遠目に見えた。城壁のようである。


「なるほど、スラムか」


 思わず納得が行き声に出してしまった。自分が生きる事に必死である者しかいないようなところだ。子供が逃げ出して助けを求めたりしたところで、一蹴されてしまうだろう。スラム街の人間をあの塀のある街へ門番が通してくれるはずもない。だからといってスラム街から離れれば、魔物に襲われてしまい死ぬだけだ。魔物が我の前世と同じでいればの話だがな。


「さて、今は食事が先決だ」


 あれこれ考える前に、今は目先の問題から片付けなければならない。近場に転がる石を裏返したり、文字通り草の根を分け土を掘り起こす。木の皮を手頃な石で剥いでいきよく観察する。傍から見れば子供が土や木で遊んでいるようにしか見えないだろう。


「くはは、こうしてみるとなかなかに壮観ではないか」


 あれよあれよという間に、貴重なタンパク源が我の前に集まっていく。そう、虫である。甲殻のあるものから、芋虫のようなもの、多足のものとバラエティー豊かだ。生前でも好き好んで食べたりはしなかったが、今の状況ではご馳走に見える。サウザ流理論【虫は貴重なタンパク源です】である。


「ただでさえ抵抗力が弱まっているからな。生で食べるのは危険か」


 寄生虫などの懸念もあるし、何より腹を下してなどしまったらこの身体がもつかわからない。魔法を使えるとわかれば警戒させてしまう可能性もあるため、ばれないようにしなくてはならないだろう。


「まぁ、この程度造作もない」


 我は芋虫をつまんだ指に魔力を集中させる。チリチリと指先に熱気を感じると、見事に火で燻された芋虫が出来上がった。火を極小規模で指先にのみ発生させたのだ。その要領で次々と虫をつまむと、火を通しつつひょいひょいと口に運んでいく。クリーミーだったり、苦かったり甘かったりと味も多彩だ。そのおかげか飽きることもない。


「おいっ、何美味そうに食べて……げぇっ!?」

「んっ? 食べるか?」

「い、いらねぇよ!」


 途中興味深そうに飯をたかろうとする輩もいたが、その正体を知るとまるで得体の知れないような物を見るような目で離れていく。解せん。見た目はともかくうまいのだがな。栄養も抜群だぞ。栄養は確保できた。そして肝要なのはこの後のことだ。


「すぅ……はぁ……」


 目を閉じ、体内に力が循環するようにイメージしていく。食事は、摂取し、消化、吸収、排泄のサイクルを持って身体をつくっていく。吸収した後身体が再構築されるのには時間がかかるし、不要なもの、主に害になるものなどは排泄にて除去しなければならない。それを待っていてはこの環境では死を待つのみだ。故に裏技を使用させてもらう。活性化させるのだ。寿命が縮むという副作用があるが、今死んでしまっては元も子もないので仕方がないであろう。このサイクルを身体を活性化させることで短縮する。サウザ流理論【食べれば育つ】である。


「うむ、馳走であった」


 我が血肉となった虫達に敬意を表し、両手を合わせる。その後も虫達を探し回っては食べ、活性化を繰り返す。排泄のためにトイレに行くのが面倒だ。全くといって腹を壊してはいないのだが、循環に排泄は必須なのだ。あくまでサイクルを短縮しているに過ぎない。


「そろそろ趣向を変えるか」


 虫達でタンパク源を確保したあとは、近場で食べられる野草を集め、運よく蛇や蛙を捕まえることに成功する。生成の魔法で指先に小さなナイフを作成し捌き、手のひらで包むようにして加熱してから食した。無論ばれぬようにうずくまるようにしており、視界を遮ることも忘れてはいない。


「蛙と蛇の香草手の平包み焼き……くはは、上手いではないか。贅沢を言えば調味料が欲しいところだな」


 順調に食事の確保を行えていることに思わずほくそ笑んでしまう。ふと、様子を見に来ていた様子のあの男と目が合うが、すぐに踵を返して戻っていった。おっと、さすがに遅くなってきたので一度戻ろう。


 この時我は知らなかった。密かに<ゲテモノ喰い>というあだ名で呼ばれるようになっていたことに。

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