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リーロン君がやってくる  作者: 黒夢
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リーロン君 パンとスープを頂く

 自分自身のコンディションをくまなくチェックしおえる。うむ、これは早急に体をつくらなければならない。そうしなければ死んでしまうだろう。っというよりも、よくこの体は生きていたものである。驚きのあまり意識の外に置いていたが、いざ冷静になると、猛烈な飢餓感と脱力感に襲われる。


「ふむ、面倒なものだ」


 我ほどにもなればコンディションなど意識さえすればそんなものに頼る必要などない。むしろただでさえ瀬戸際に立たされているこの体で、そのようなことに力を裂いている余裕はない。痛みや苦しみというものは、自分の身体が危ない状態にあるという脳が放つ危険信号のようなものだ。サウザ流理論【脳まで含めてが自己管理】を用いれば問題はないのである。意識を集中し、オートで行われていた自分自身の身体の管理を、マニュアルへと切り替えていく。


「ふぅ、こんなものか」


 飢餓や倦怠感が嘘のようになくなり、コキコキと首を鳴らす。あくまで感じないだけなので、時間稼ぎにしかならない。さて、まずは適切な食事を行う必要がある。お世話になった藁の寝床を後にし、子供達と合流することにした。


「働かざる者食うべからずって言葉を知ってるか?」


 食堂のようなところで、オドオドとした子供達が硬そうな黒パンと、色の薄いスープを食べている。遅れてやってきた我に向かって、先ほど殴りつけてきた男がニヤニヤしながらやってくる。わざわざ来るのを待っていたのだろうか。暇な男である。徐にパンを床に叩きつけ、踏み始めたと思えば、スープをその上にぶちまける始末だ。


「これがお前の食事だ。残念だったな!」


 ふむ、働かざる者が食べるなというのであれば、水汲みを子供にやらせていた方が働いていないのではないかと思うが、今それは置いておこう。出さないのではなく、いちいち目の前で食事を台無しにするとは、全く呆れてものがいえない。帝国にもこのようなものはたくさんいたがな。いざやられる側になると醜悪さが何倍にも感じるものだ。


「ふむ、これは我の食事でいいのか?」

「あ? 話を聞いてなかったのか?」

「聞いてはいたがな。ではこれはお前の食事か?」

「ふっざけんな! もうこんなもん食えるかよ!」

「では遠慮なく、いただきます」

「――な?」


 我は手を合わせたあと、片膝を立てる形で床にしゃがみこむ。衛生的とは言えない床で、スープをかけられてぐちゃぐちゃに踏みつぶされたパンを口に運ぶ。うむ、じゃりじゃりする。スープに浸され踏まれた割にもぼそぼそとしていて固い。スープも薄い塩味がするぐらいである。これでは到底栄養などとれない。しかし、穀物や水、調味料は自然の恵みであり、この形にするまで多大な民の苦労がある。それを浅はかな人間一人の勝手で無駄にすることなど、到底我にはできなかった。


「まずいな。だが、馳走になった」

「なんだ……てめぇ……」


 倒れるまで働いていたのは、この体であるのは間違いないだろう。手を合わせ、目をつむり大地の恵みと民の苦労、そして、ここまで働いたこの身体に敬意を称する。どこの国であったかは忘れたが、そういった所作があると聞いてから我はこうしている。まぁ、あまり見慣れないものではあるからか、このように周囲からはぽかんとした奇異の目で見られることが多いがな。


「これからまだ仕事はあるのか?」

「ね、ねぇよ。さっさと寝て明日も働くだけだ……」

「そうか、では失礼する」


 気持ち悪いような物を見るような目で、こちらを見る男に背を向け食堂を後にする。まぁ、そんな目で人を見る者ではないぞ。我からすれば貴様のほうが色々と気持ち悪い。


 さて、食堂を後にしたのはいいが、このままでは死んでしまう。あれっぽっちの食糧では、昨日の仕事と身体の維持にかかるエネルギーを捻出するのには足りない。ガリガリの身体がそれを物語っている。現に死にかけたというより、死んだようなものだったしな。

 行動や反応から思うに、ここの人間は我のような子供を下に見ているからか、脅威になるとは思っていないようだ。現にここにいる子供達は怯えながらも従順に従っている。ここから追い出されたら生きてはいけないと思っているのだろう。故に、脱走など危惧していないようだし、そもそも逃げても生きてはいけないような子供ばかりだ。ふむ、だがしかし一応言質はとっておこうか。思い出したように踵を返し、先ほどの男のところに行き声をかける。


「我は逃げも隠れもする気はない。少し建物の周囲に出る。今日の分も多く明日働くから了承しくてれ」


 戻ってくると思わなかったのか、ぎょっとした顔を男はしたあと、顔を顰めながら手でしっしっと追い払う仕草をした。ふむ、まぁ駄目だとは言わなかったしな。報告はした。後はやるべきことをやるだけだ。奇異の視線を受けながら食堂をまた後にする。


 「さて、楽しい食事の時間だ」

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