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リーロン君がやってくる  作者: 黒夢
3/9

リーロン君 現状を把握する

 急遽襲われためまいにより倒れた我が目を覚ますと、粗末な藁が敷き詰められた床に寝転がされていた。決して衛生状態もいいと言えず、思わず顔を顰めてしまう。


「ふぅむ。我が理論は完璧だったはずだが……」


 思わずボソリと疑問を口にしてしまうほどにショックであった。痛みのある後頭部をさすると、小さなこぶのような物がある。なるほど、難解な事件などで驚異的な致死率を誇る、無造作に転がる路傍の石であったか。普段何も役に立たぬ上に、その存在感を押し殺し、なんでこんなところに? と思うタイミングで牙をむく生粋の暗殺者である。なんというサイレントキラーか。我でなかったら命を落としていたであろう。後で回収しておく必要があるな。


 しかし、こんなことで、皇帝としての覇道を進むべく構築した、我がサウザ流理論が覆されるとは思えん。しばらく考え込んでいると、小汚い格好で、ボサボサの髪をした子供が恐る恐るといった様子で近づいてくることに気付く。


「あの……、大丈夫?」

「無論だ。この程度のことで我がどうにかなるわけがあるまい」

「えっと……、本当に大丈夫? 頭打って変になっちゃったんじゃ」


 失礼なことを言う子供ではあるが、本気で心配しているように見えたため、今の事情を把握するため話を合わせることとしよう。


「少し頭を打ったが問題はない。して、我は何故ここにおり、こんなことになっているのだっけか?」

「大丈夫じゃないじゃん……えっとね……」


 ぽつりぽつりと現在の状況を目の前の子供が語り始める。なるほどなるほど、我らは口減らしの為に村などから捨てられ売られた子供らしい。現在いるのは孤児院ではあるが、話を聞くに奴隷になるまでの間の待機所のような役割を担うところであろうことが窺える。現状を説明する子供は、現実を直視することになったのか、言葉が少しづつ尻つぼみになっていく。


「だから、ちゃんとしないとご飯ももらえないし、ひどいことされるよ……?」

「ふむふむご苦労であった。現状のことは理解した」

「だったら、早く起きて戻らないと怒られるよ? 僕は様子を見て来いって言われたから来ただけだし……。もう少しかかりそうって言ってくるから早くきてね?」


 怒られるのか怖いのか、子供はすぐに引き返していった。話から現状を整理すると、我はどうやら孤児の子供となってしまったようだ。しかも奴隷候補というあまり現状好ましくない状況である。何故なったかなど今考えてもしょうがない。我はいちいち顧みないのである。そんなことをしている暇があるのならやるべきことをやるべきであろう。


 ぺたぺたと身体中を触り自身の現状を把握する。髪はボサボサで伸び放題、ガリガリの身体は肋骨が浮き出ている。唇はひび割れ栄養状態は良くない。齢は10を超えているだろうが、状態が悪すぎて断定に至らぬ。なるほど、理解した。サウザ流理論の綻びではないようだ。我がこの身体の状態を把握していなかったことが原因である。


 極度の疲労に加え、栄養不足状態により、サウザ流【後ろに飛び退いて威力を殺したか!】を用いた時点で身体のほうが耐え切れなかったのである。加えて路傍の石というサイレントキラーに襲われ、気を失うという失態を見せてしまった。


「うむ、まずは栄養状態の改善が必要だな」


 絶望などする暇があるのであれば、やるべきことへ向かいやるべきことをやるのだ。何故こうなったかなどということは今はいい。原因を知ったところでどうにもならないのである。今は生きなければならない。

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