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トレントと幻惑の森

少しだけグロ&Hな表現があります。気になる方は読まなくても問題ありません。

 斥候を兼ね、草木を狩り分けつつ先頭を歩いていたマークは違和感を覚えて足を止めた。


「どうした?何か見つけたか?」


 すぐにリーダーのハンスから警戒の声が上がる。


「少し前から獣の気配が消えてる。強力な魔物が近くにいるかも」


 マークの台詞でパーティーに緊張が走る。

 斧を担ぎ巨漢でもある戦士のボンドも、ゆっくりと辺りを見回した。


「虫の声、遠く、聞こえる。変」


 ボンドは、言葉が苦手な為いつも区切った話し方をするが、決して鈍いワケではない。それどころかマークと同じくらいに獣の気配を察知する能力に優れている、生粋のハンターであり、その能力はパーティーの全員が認めていた。

 その彼も、おかしいと感じていたのだ。夜とはいえ、静かすぎると。


 ハンスはそれを聞き、リーダーらしく努めて明るい声を出した。


「いい事じゃねぇか。俺達ぁ魔物を狩りに来てるんだ。気配が無いのは大物の気配ってね。気合が入るってもんよ」


 パーティーを鼓舞する力強い言葉に、マークもボンドも黙って頷き、いつでも戦闘に入れるように身構える。


 仲間のそんな姿を頼もしく感じたハンスは、唯一の魔法使いであるコニーが無言のままなのに気がついた。

 よく見ると、その肩が小さく震えている。


「おぅおぅコニー。相変わらず肝が小せぇなぁ。お前ぇが切り札なんだから、しっかりしろよ」

「だって・・・」


 幼さの残る顔に自信の無い声を出しながら、コニーは震える声を絞り出した。


「コニーはトレント相手は初めてだったな。何、大丈夫さ。ハンスとボンドがいれば問題無い。2人が手間取った時にだけコニーの炎魔法で威嚇してくれればいいんだ」


 マークは肩越しにコニーへ話かける。彼はこの気の弱い魔法使いを弟分のように可愛がっていて、少しでも勇気付けようとしていた。


「うぅ・・・」


 コニーはマークの気持ちが嬉しく、何とか声をだして返事したつもりだったが、呻き声にしかならなかった。



 ――――――――



「ハンターが中央区の近くまで来たよ〜!」

「バカ!声が大きい!」

「バカじゃないし。お前より魔法得意だし」

「魔法が上手くなっても間抜けは治らないね〜」

「何だと!」

「だから声が大きいって。気付かれたら狩られちゃうよ?」

「そうだよ。落ち着けよ。まずは迷わせるんだろ?」

「そうだった。まずは普通の木や草を操って同じトコを歩かせる作戦開始〜」


 ハンター達の動きは、既にトレント達に把握されていた。


 そしてトレントによる、ハンター追い返し作戦が始る。



 ――――――――



「・・・マーク、止まる」


 周囲を警戒しながら、ゆっくりと進み始めてスグ、今度はボンドが立ち止まり、先頭のマークに声をかけた。


「ボンド、何か気づいたか?」


 マークもボンドの感覚が優れている事を知っているので、すぐに立ち止まる。


「ココ、さっき、同じ場所、通った」

「え?」


 マークは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに周囲を見渡した。

 しかし、迷ったような感覚が無い。はっきりと中央部に向かっているハズだ。


「・・・本当か?」


 半信半疑でボンドに語りかける。

 ボンドはゆっくり頷き、すぐ近くの木を指差した。


「コレ、マーク、付けた印。俺、見てた」


 そこには確かに、先程マークが付けた目印があった。

 森の中では方向感覚が狂い易い。ましてや今は夜な為、余計に迷う可能性があった。その為マークは帰り道が判るように、木や岩に印を付けていたのだ。


「あれ?おかしいな?でもありがとよ。その印なら覚えがある。こっちに行こう」


 訝しみながら歩き出したマークに、3人は付いて行く。


 そして今度は、マーク自身が別の印を見つける。


「おぃおぃマーク。どうなってやがる。お前ぇらしくもない」


 ハンスは肩に担いだ大剣を地面に突き刺しながら、呆れたような声を出した。


「悪いハンス。それに皆も。今日は調子が悪いみたいだ。少しの間、先頭をボンドに変わって貰えないか?」


 少し疑問には思ったが、間違いは誰にでもある。こんな所で意地をはり、全員が遭難するよりはマシだ。マークはそれを伝え、先頭をボンドに譲った。

 彼の仕事は斥候役だけではない。弓を使っての遠距離攻撃こそ、彼の本来得意とするスタイルなのだ。


「!!」


 とその時、突如木々の隙間から強烈な獣の気配を感じたと同時、多数の森狼が現れた。


「うらぁっ!」


 とっさにハンスが大剣で防ぐが、数が多い。

 横目でボンズも斧で打ちかかっているのが見える。


「こいつっ!」


 コニーに襲いかかろうとした森狼をマークが蹴り飛ばそうとするが、素早く躱されてしまう。

 その隙に別の森狼がマークに迫る。

 それをコニーが、咄嗟に突き出した杖を振り回し遠ざける。

 コニーは気弱であるし魔法使いでもあるので、前に出て戦う事は出来ない。しかし彼とてハンターだ。戦う事に躊躇は無い。

 ただし。近接戦闘はからっきしではあるのだが。


「コニー下がれ!炎で威嚇するんだ」

「わかった!」


 マークに返事しつつ後方に下がり、魔法の準備に入る。


 ハンスとボンドが盾になるべく立ち塞がり、森狼達は彼等を取り囲むように唸り声を上げる。


 その姿を見たマークは恐怖を押さえ込み、炎のイメージを固めていく。


 やがて杖の先から松明よりも遥かに大きな炎が吹き出し、夜の森を明るく照らし出した。

 それを仲間に当たらぬよう、付近にいた森狼に向ける。

 炎を向けられた森狼は怒ったように牙を剥き威嚇するが、熱気にやれ近づく事が出来ない。


 それを好機としてハンスが群れに飛び込んだ!

 大剣が横一閃、森狼に振るわれる。

 だが、確実に首を跳ね飛ばしたかに見えた一撃は空を切り、狙われた森狼は素早く身を翻してソレを躱す。


 炎の威力に、森狼達が撤退を始めたのだ。


 追撃のためハンスは真っ暗な森に飛び込んで行き、ボンドも他の狼の後を追う。


 マークはコニーと共に他の狼がいないか警戒しながら、その場に留まる事にした。



 ――――――――



「火が出たよ!火!」

「ありゃ。狼、逃げちゃった」

「仕方ないよ。僕達が追いかけ回してハンターのトコに誘導しただけだもん」

「狼達、元々逃げてただけだしね」

「火、怖い」

「可哀想」

「少しだけでもハンターに怪我して貰いたかったんだけど、あいつ等強いね」

「ねぇ火だよ!大変だよ!」

「火は判ったから落ち着け」

「ハンター達が別々に別れたのはラッキー♪」

「私達も別れる?」

「そうだね。でもとりあえず次の作戦かな?」

「僕の出番だね!ガンバる!」

「頑張れ」

「頑張れ」



―――――――――



 森狼を追ったハンスは困惑していた。

 森に飛び込んで直ぐに追いついた森狼を一匹仕留め、さて次と思った時には既に獲物の姿は闇の中に消えていた。

 緊張の息を吐き出し、さて仲間の所に戻ろうと思ったのだが、自分がどちらから来たのか判らなくなっていたのだ。

 ほんの僅かしか仲間と離れていないハズなのに、これはいったい?


「・・・何だぁ?」


 長いハンター生活の中でも、こんな事は初めてだった。

 新人じゃあるまいし、それほど深追いしたワケではない。

 それなのに判らない。

 まるで自分が来た道を、突然忘れてしまったような感覚だ。


「おーい!お前らドコだぁ!」


 まだ近くに森狼がいるかも知れなかったが、仲間と合流する方が大事だ。ハンスは大声を上げる。

 魔物のいる森で1人でいる事がどれほど危険か。それは良く解っていた。一刻も早く合流しなければ。

 ハンスは焦りながら、更に森の奥深くへ入り込んでいった。






 ハンスの仲間を呼ぶ声が聞こえる。あっちは片付いたらしい。

 声を聞いたのか、マークが返事する声も聞こえる。

 追っていた森狼に逃げられたボンドは、どちらに行くか一瞬考えた。

 すると茂みを掻き分け、ハンスが突然姿を表した。

 声はもぅ少し遠くに聞こえた気がしていたが、聞き間違いだったか?

 そう思いボンドは、何の警戒も無くハンスに近づこうとし・・・咄嗟に身を引いた。

 そこには、抱えた大剣を振り下ろしたハンスの姿。

 身を引いていなければ、大剣はボンドを捉えていただろう。


「どういう、つもりだ?」


 ボンドは目の前のハンスに警戒しながら声をかけた。

 しかしハンスの方は何も語らない。

 普段よく喋るハンスとは思えないその姿に、ボンドは一層警戒し斧を構える。

 ゆっくりと大剣を構え直すハンス。

 そして2人の武器が、真正面からぶつかり合った。






 森狼の襲撃と自身の放った炎の魔法による効果が薄れた時、コニーは周囲に霧が出ている事に気が付いた。

 よく見れば辺りの木々も靄に包まれ、近くにいたハズのマークの姿さえもよく見えなくなっている。


「これは・・・」


 マズい。このまま仲間からはぐれてしまったら、非力な自分などあっという間に魔物の餌だ。

 魔法だって万能じゃない。意識を集中する間、盾となってくれる存在がいてこそ威力を発揮出来るのだ。

 単独で魔物と遣り合うなんて出来っこない。


「ねぇ。マークいる?」


 コニーは震える声で、近くにいるハズの兄貴分に話しかけた。

 マークは厳しいけれど、気の弱い自分の事を心配し、常に気を使ってくれていた。

 そんなマークをコニーは頼もしく感じ、今まで一緒にやってきた。


「・・・コニー?」


 マークの声が近くで聞こえる。


 良かった!1人じゃない!


 コニーは濃くなった霧の中、声のする方へ歩き出す。

 すると、こちらに背を向けているマークらしき影を直ぐに見つける事が出来た。


「コニー、こっちだ」


 コニーは何の警戒もせず、呼び掛けるマークに近づこうとするが、マークは先に進んで行き、中々距離が縮まらない。


「マーク!待って!」


 霧で見え隠れするその後ろ姿に不安になり、コニーは堪らず声を上げた。

 立ち止まるマーク。

 ホッと息を吐き、彼の横に並ぶ。

 そして、コニーは、見た。


 無残に噛み砕かれた腕や腹から血を流し、目も虚ろなマークの姿を。


「〜〜〜!!」


 元マークだった物は、声にならない叫びを上げたコニーに向き直り、牙の生えた口を大きく開く。

 開きすぎた口は更に大きく広がり横に裂け、泡や血を吹き出す。

 恐怖で固まるコニーの肩を、片腕とは思えない力で押さえつけ、そして・・・。

 コニーは、自分が齧られる音を・・・聞いた気がした。






 コニーの放った炎の魔法が効いたのか、森狼達は逃げ出した。

 すかさず後を追うハンス達の後ろ姿を見ながら、マークは直ぐ後ろにいるコニーを気にしつつ、周囲を見回していた。


「おーい!お前らドコだぁ?」


 しばらくした後、遠くでハンスの声が聞こえた。

 やれやれ。深追いし過ぎて自分の場所が判らなくなったのか。

 マークは呆れながら返事を返す。


「こっちだハンス!判るかぁ?」


 しかしそれに返事は無い。

 マークは訝しみながら、もぅ一度声をかけようとしたが、後ろにいるコニーが話かけてきた。


「ねぇ、マークいる?」


 まるで自分の事が見えていないような言い方に不安を覚え、急いで後ろを振り返るが、そこには確かに気弱な弟分がいた。


「・・・コニー?」


 確認するように語りかける。

 するといつの間にか近くに来ていた弟分が、怪しい雰囲気でしなだれ掛かってきた。


「ねぇマーク。僕、前から君の事が好きだったんだ。マークも僕の事、好き、だよね?」

「お前・・・こんな時に冗談言うなよ?第一お前、男じゃないか」


 マークはふざけるなと呆れた声を出した。

 幼さの残るコニーの顔は中性的であり、マークは過去何度か、コニーの事を可愛いと感じた事は確かに合った。

 しかしコニーは間違いなく男であり、そこに恋愛感情など皆無である。お互いに気の合う仲間同士でしかない。マークはソレを冗談だと流す事にした。しかし、


「ふふっ。今は二人きりで誰もいないし、僕の秘密を教えてあげる」


 そう言って怪しく微笑むコニーが、見せ付けるようにローブの前を開き、自身の身体を晒した。

 その胸には、間違いなく女性としての象徴があり、顔に似合わず大きく張りがあった。

 マークは驚きに目を見張り、コニーは更に一歩近づく。


「僕、本当は女なんだ。ハンターとして生きていくために今まで隠してたけど、マークの事が好きって気持ちが抑えられなくて・・・ねぇマーク、僕の事、受け入れて?」


 マークは頭がクラクラしてきた。コニーは確かに男だったハズだ。

 ふざけてじゃれ合った時もあるし、一緒に風呂に入った事もある。それでも今、目の前にいるコニーは間違いなく女性だ。それもとびきり魅力的な。


 おかしい。

 何か変だ。


 頭の中で警鐘を鳴らすが、コニーの色香に惑わされ、正常な判断力が失われていく。


「マーク。僕、恥ずかしいよ。そこの茂みでお話したいな。いい?ね?」


 コニーの押しの強い誘惑に、マークの最後の理性が崩壊した。


「コニー、こっちだ」


 声を震わせながらコニーの手を引き、茂みに誘う。万が一、誰か戻って来ても見つからない場所へと。


 いつの間にか周囲には霧が立ち込めている。

 鼻腔をくすぐる甘い香りは、周囲に咲く花の香りか、それともコニーの息遣いか。


 秘め事をする状況は整っていき、期待なのか緊張なのか、心臓が早鐘のように脈打つ。

 どんどん茂みの奥へ分け入っていき、


「マーク!待って!」


 焦るような声を聞き、自分が余裕を無くしていた事に気付く。コニーは秘密を打ち明け不安だったろうに、グイグイと引っ張ったりして可哀想な事をしてしまった。

 己の事ばかり考えていた自分に苦笑する。いい歳をして情けない。

 マークは振り返り、コニーの目を見つめる。


「すまん、痛かったか?」


 そこで一旦言葉を区切り、真面目な気持ちで語りかける。


「コニーの気持ちは嬉しい。正直照れくさいが、俺も・・・お前の事が好きだ」


 コニーは驚いた顔をした後、嬉しそうに顔を歪めた。

 そして2人は暗い森の茂みの中、どちらからともなく抱きしめ合い、唇を重ねた。



 ―――――――――



「キャー!えっちぃ!」

「成功?ねぇ成功?」

「怖いわ!」

「失敗じゃね?」

「幻惑魔法は成功だね」

「迷路」

「バトル」

「ホラー」

「ウ=ス=異本?」

「そこは純愛と言ってやれ」

「心の奥の恐怖が現れる、だっけ?」

「ちょっと違う」

「恐怖でも欲望でも、強い気持ちには変わらないからね。『心の奥の願望』が現れてるんだよ」

「そうなの?」

「よくわからん」

「お?大剣男、泣いて座り込んじゃった」

「斧男は相打ちらしい。気絶してる」

「魔法使いは自分が死んだと思ってるから安心。アイツが一番危なかった。火怖い」

「最後の奴はまだ終わらないね。朝まで起きてるんじゃない?」

「それは困る」

「テキトーなトコで起きてる奴は眠らせて、森の外まで運ぼう」

「眠りの魔法使える奴いたっけ?」

「は〜い」

「決まりだね」

「皆で運ぶ?」

「皆で運ぶ?」



 ―――――――――



 木こり達は、先日森に入っていったハンターとの約束通り、魔樹の森までやって来ていた。

 ハンター達の仕事が首尾良く行けば、大量のトレントを運ぶのに枝落しをして、木材専用の台車乗せる仕事を請け負う。

 もし失敗しても、怪我した彼等をその台車で運ぶ必要がある。

 しかし森に到着した彼等が見つけたのは、そのどちらでも無かった。



 森の入り口付近。

 全身鎧に大剣を持った男が、恥も外聞も無く大声で泣き喚き、斧を持った巨漢に必死に縋り付いている。

 縋りつかれた方は、泣き喚く相手を本気で殺そうとしているのか、殺気を隠す事も無く斧を振り回している。

 近くには、気絶しているローブの少年を抱きしめて、愛おしそうに撫で回しながら、顔中にキスの雨を振らせている半裸の男が微笑んでいる。



 いったい何が起こったら、こんな事になるのか。


 彼等は間違い無く、数日前に自分達に依頼してきたハンター達だった。


 木こり達は、どう見ても気が触れたとしか思えない姿を晒すハンター達に、どうやって声をかけようか、お互いの顔を見回してしばらく途方にくれるのであった。


赤ずきんは狼が退治される話。

白雪姫は王子様のキスで目覚める話。

口裂け女や赤マントは小学生の都市伝説。

全年齢とR15の境ってドコなんでしょうね?

それと、毎日更新はやはり無理でした。

すいません。

週刊連載してる作家さん達って尊敬します。


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