トレントのイタズラ
最初の勉強会から数日が立ち、エントほどではないが少しだけ身体の中心に魔力?を集める感覚が判ってきたような気がした。
実際、自分の真ん中に集めているこの感覚が、魔力なのか気のせいなのか自分でも良く判らない。
何となく『そこにある』ような気のする『何か』を集めている感じなので、もしかしたら変に力が入ってるだけなのかも知れない。
光ったりもしないし。
不安になったので近くにいたドライアドに聞いてみたら、
「・・・大丈夫」
「・・・問題無い」
と言われたので、多分この何かが魔力なんだろうなぁ。
そして今日も、エント先生の講義は続いている。
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「・・・トレントというのが『TREE』と『GIANT』のくっついた造語から産まれた呼び名じゃと言うのは、前にも言ったの?ではエントとは何か・・・」
今日は朝から、言葉の意味や名詞に関する講義が続いている。
言葉や名前には力があり、正しく発音しなければ力が暴走する。
すなわち正しい手順で使用された言葉は、通常よりも術者に力を与えてくれる。言わばアンプのようなものだという。
ただし、強い力を使うには暴走以外にも、それなりにリスクが発生するので注意が必要という話だ。
エントは自分の後ろにある大きな石版に、炭で『トレント』『木』『巨人』と書いて合体させ、その上に『エント』と書いて行く。
わかり易い例を上げ、トレントとエントの意味や関係性も再確認させているらしい。
エントは王ではあるが、その存在の意味は『森の守人』であり、他の森には他のエントがいる。
エントの力は森の規模に左右されるが、それと同時に森を守る為、そこに発生したトレント達を使役する。
その為に進化した存在であるエントをトレントは敬い、エントはトレントを守る義務を追う。
私達にとっては当たり前の話だが、それらを次々と石版に書き込んで行く。
まるで、頭に叩き込め!
とでも言っているかのように・・・
そしてエントがさっきからずっと使っている石版は、今日から使い始めた物で、結構な大きさと重量があるように見える。
いったい、ドコで見つけてきたのだろう?
謎だ。
それでも、講義に使うにはかなり有用なのが理解出来る。
板書があると、口で言うだけよりも非常にわかり易く頭に入ってくるのだ。
さすがエント。
だが、それよりも・・・
それを2体のトレントが持ったまま、エントの後ろに立たされている姿には、正直ドン引きである。
石版を持った2体は、重くて辛そうにハァハァしながら、汗を滴らせて立っているのだから。
あまりの重さに石版が下にズレると、すかさずエントが『ギロッ!』と睨み付け、慌てて石版を支え直す。
怖えぇぇぇぇぇ!!
ってか、マジひでぇ!!
いや、スマン。
あれも多分、私のせいだ。
私は油汗を流しながら、昨夜の事を思い出していた。
・・・昨日。
また皆の前で笑われた私はエントに対し、イタズラという名の復讐を実行すべく2体の仲間に声をかけた。
1体は巨大ウサギのあいつ。
そしてもぅ1体は、私を見捨てて人間領域から逃亡した奴だ。
2体は計画の内容を聞き、悪い笑いを浮かべながら賛同してくれた。
作戦はこうだ。
2体がエントの寝所に忍び込み縛り上げ、その隙に私が実行する。
完璧だ。
名付けて『エントが寝てる間にモヒカンにしちゃうぜ!ヒャッハー!』作戦。
あの女戦士のようなエントがモヒカン。。。
さながら産まれた時よりそぅであったかのように、さぞかし似合う事だろぅ。
私は遠い目をしながら、作戦が成功する期待に胸を踊らせた。
夜。
2体は先行して、バレないように忍び足でエントの寝所へ潜入し・・・
・・・帰って来なかった。
いくら待っても2体から連絡が来ないのを不思議に思い、嫌な予感がしつつエントの寝所をコッソリ覗き込んだ時、私は見た。
逆にふん縛られて転がされている2体のトレントと、その前で修羅の如く仁王立ちしているエントの姿を。
極めつけは、その周りをケラケラと笑いながら、楽しげに飛び回るドライアドという、魔女集会もビックリな光景だった。
・・・・・・。
私はそのまま足音がしないよう慎重に後退り、脇目も振らず、逃亡した。
ちなみに、今日の勉強会は『何故か突然お腹が痛くなった』ので休む気だったのだが、普段以上に笑顔が眩しいエントに拉致されココに来ている。
なお、エントは笑顔だったが、終始無言だった事を、ここに記しておく。
暴力で全て解決する人(樹?)って嫌よね〜。
いったい私が何をしたと言うんでしょ?
病欠で寝ていただけなのに。
解せぬ。
そして『謎の腹痛』が、何故か突然治った私は講義に出て話を聞いている。
能面のような顔をしながら。
講義に出てる他の連中は、ハァハァ言う2体が気になるようで、青い顔をしている。
何故か私の方をチラチラ見ながら。
ヤメテ、クダサイ。
ワタシはカンケイ、アリマセン。
そこの2体!
重くて辛い癖に、こっちを恨めしそうに睨むのを止めなさい!
そして、講義は続く。
「・・・つまりトレントにとって、エントは特別な存在じゃという事が判ったであろ?」
エントが私を見つつ、全員に微笑みかける。
私達はコクコクと、ただ黙って頷いた。
「・・・」
「おぉそうじゃ。実は本日の勉強会の後、ちとお主に頼みたい事があるのじゃが、少し残ってはくれまいか?」
私に語りかけるエントに対し、ブンブンと首を激しく左右に降って否定する。しかし、
「おぉそうか。聞いてくれるか?ありがたい。では、ちと早いが本日はコレで解散じゃ。明日は今日の続きをやるので、皆早く帰るのじゃぞ?」
皆が蜘蛛の子を散らすように、我先にと解散していく。
私を残して。
・・・。
「さて。お主にやって貰いたい事なんじゃが・・・」
エントが近づいてくる。
物凄い笑顔で。
そして・・・。
大地を切り裂くような悲鳴が、森中に響き渡った。