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トレントの目指す物

 見渡す限りの大森林。

 多くの動植物が生活し、子を産み、育て、生を謳歌する場所。

 時折、魔力を持った特別な生き物や凶悪な植物もいるが、それらも森の一部として平和に暮らしている。


 そんな森の、やや南寄りの中心部に広大な空き地が広がっていた。


 地面は掘り起こされ、そこら中ボコボコ。弱い木々は薙ぎ倒され倒木と化している。

 当然、獣や魔物の姿は無く、周辺には気配すらない。



 先日から繰り返されたスタンピートにより確保された、樹木人村(候補地)だ。


 今は、スタンピートに参加した者達が倒木を引き摺り、地ならしの真っ最中である。



「お〜い!あんまり綺麗に均すなよ〜?サーキットじゃなく、我々が根を下ろす場所なんだからな〜?」


「いや、なるべく均等にならすのじゃ」



 広場の端から仲間に声をかける私に、後ろから話しかける者がいた。エントだ。


 いつの間に現れたんだろう?全く気づかなかった。



「エント・・・。いつからソコに?」

「ほんの少し前じゃ。ドライアドから連絡が来ての。場所の確保はスムーズにいっているから、そろそろ一度見に来いとな。まぁ見なくても森の事なので大体は判っておったが、自身の目で見るというのは大事じゃからのぅ」



 そう言って口の端を歪ませて、ニヤリと笑う。



 その笑顔、怖いんだよ。まんま肉食獣なんだって。見た目女戦士だから、刈られそうで余計に怖い。わざとやってて面白がってるんだろうけど。



「前もって言ってくれれば良いのに、本当にイタズラ好きですね。―――というか、均等にならせってどうしてです?根を伸ばしにくくなりますよ?」



 私はこの広げた土地にトレント達を集めるんだと思っていた。村や町っていうのは、結局は同じ種族の寄り集まりである。人間やエルフはソレにプラスして身を守る為や境界線の柵を作り、屋根のある小屋などを建てて安眠を確保する。

 しかし我々の場合、根を生やし立ったまま眠る。食事も基本的に光や水だし、生き物を取り込むヤツも時折いるが、やはり立ったままだ。家も柵も、あると逆に邪魔になるので移動に便利なように、ある程度地面が平らなら十分なのである。


 元来トレントは他の仲間と獲物や魔力の取り合いをしないように単体、もしくは気の合う者同士で多くても2〜3体で生活している。それが40体も50体も密集してワイワイガヤガヤしている姿は絵面的に怖い気もするが、集落ってそういう物でしょ?



「ふむ。やはりそう思っておったか」



 エントは人間の女性のような大きな胸の前で腕を組みながら私の言葉を聞き、苦笑いしたような表情を浮かべた。



「村を作ると言った時に伝えたではないか。文明化すると」

「そう言えば確かに言ってましたね、そんな事。すっかり忘れてましたよ」



 うん。忘れてた。

 だって敷地確保で頭がいっぱいだったんだもの。決してスタンピートに夢中になってたからでは無い。久々に走って楽しかったケドね!



「でも文明化、ですか?具体的にはどのように?」

「そこでお主の出番よ」

「はっ?」



 訳が判らない。

 質問してるのは私なのに、出番と言われても・・・。



「ワシが考えたのは、まず村を囲う柵と砦の建設じゃ。それがあれば人間の襲撃に備える事が出来る」

「それはまぁ、納得です。でも柵で囲ったら余計密集しますよ?まして砦なんてどこまで巨大化するか」

「その通りじゃ。なのでまずは密集しないように家を持たせ、各々そこで暮らさせる」

「いやいや!我々が入る大きさの家なんて、どれだけ巨大住宅なんですか!トレントの数だけ城が建ちますよ!まさかソレを砦化するとか!?」



 物理的に無理だ。

 そんな事したら、どれだけの樹木を伐採し、石を削り出せばいいのか判らない。そうなったら文明化どころか自然破壊だ。当然、今の敷地面積では足りるハズもない。



「うむ。そこでワシは考えた。そしてある策を思いついたのじゃ」



 秘策ってドライアドが言ってたやつかな?

 私の慌てようを面白がるように、エントはその策とやらを披露した。




「全員、人化すれば良い」



「はぁ!?」



 何言っちゃってんの!?

 変化出来る奴だって全員いないのに、人化しろって!ソレこそ無理だ!何が秘策だ。無策に近いじゃん!


 エントは私の呆れ顔を見て、少し怒った顔になりながら、



「話は最後まで聞かぬか。その秘策とは簡単に言えば、トレント達の魔力アップの方法じゃ。むろん修練は必要じゃが、ほぼ確実に全員人化が可能になり、力が上がるので自衛能力も上がるというワケじゃ」


「・・・そんな簡単に力なんて付かないですよ。それが出来ないからココまで数を減らす事になったんじゃないですか」



 人間に抵抗した者もたくさんいた。しかし負けた。負けたから数が減り、今の境遇がある。我々が力を付けるには年単位の時間が必要だし、もしそんな事が可能なら、何故もっと早くしなかったのか。



「この方法には、それなりのリスクも伴う。簡単には選択出来ないものじゃ。しかしここまで数を減らし、絶滅目前ともなれば手段は選べん」



 先程までの表情豊かなエントではなく、王として強い決意の籠った瞳で私を見ながら、言葉を区切る。そして、



「じゃが、仲間を見殺しにしたと言われれば何も言えん。ワシの決断の甘さが招いた事。その責めは、一生背負う・・・。そしてリスクを取ってでも、今以上仲間を減らさぬよう、ワシは決断したのじゃ・・・。無謀と言われようとやり遂げる。とな」



 悔しさと決意を言葉にのせ、静かに、しかし力強くエントは言った。


 私はその重い言葉に、今いる者を守るという決意を強く感じて頷いた。



「判りました。そこまで言われるのであれば何も言いません。―――それで私は何をすれば良いんですか?自慢じゃないが魔法は苦手なんです」



 エントの気持ちは判った。けれど私の出番が判らない。いったい何をやらされるのか。



「何もお主に魔力指導しろとは言わん。それはワシの仕事じゃ」



 今までの気迫は薄れ、いつも通りな雰囲気に戻ったエントが、溜息を吐きつつ答える。



「お主に頼みたいのは、人化した者達を住まわせる家や砦の設計じゃ」

「設計って、私は素人ですよ?」

「しかし、過去に住んでいた記憶くらいはあろう?ワシにはそれすら無いので、我々の中で最も建築物に詳しいのはお主なんじゃ」

「・・・」



 確かに記憶はある。しかしそれは本当に『住んだ記憶』であって『建てた記憶』では無い。



「多少巧く行かなくても、樹木人特有の建築様式とでも言えば良い。要はこの場に集落があり、獣では無く『文化的な生活を営む亜人がいる』と他者に認識させられれば良いのじゃ」

「・・・」

「だいたい、本当の意味での文明化など急には無理じゃ。まずは模倣からで、そこから少しずつ、といったところかの」

「模倣、ですか?」

「そうじゃ。まずはそれを目指す。そしていつの日か本当の意味での森の文化が花開けば、我等と我等の子孫は安泰。という事じゃ」



 そこまで言われれば、断る事は出来ない。暮らしの安全を願っているのは私も同じなのだから。




 それにしても家か。

 はっきり言って自信がない。

 しかも私の知識はこの世界とは違う別の世界のものだ。

 1年近く人間の集落の近くで情報収集したとはいえ遠くから見ていただけだし、一度で良いからこの世界の建物を間近で見たい。


 無理かな?


 そんな不安な気持ちを素直に打ち明ける。

 するとエントは事も無げに、



「ではお主、一足先に人化して人間の集落の中で情報収集してくるのじゃ。方法は授けると言ったであろう?なぁに、今までの仕事とたいした違いは無かろう」



 唖然とする私を余所に、実に楽しそうに語られたのであった。


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