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トレントの敷地作成

 ズザザザザ!ドカ〜ン!

 ギュリリリリリー!


 グオォォォォォ!

 ギャギャギャギャ!


 けたたましい音がそこら中に鳴り響き、獣達の咆哮も響き渡る。


「うわー!待て待て!そっちは違うだろー!」


「あははははっ!」


「ぎゃー!噛まれた〜!助けて〜!」


「ヒャッハー!」


 悲鳴なのか遊んでいるのか、そんな声まで聞こえてくる。




 そこは、森の中心部に程近い魔力に満ちた空間。

 普段はそこにいる魔物達を、トレントの群れが追いかけ回している。


 走る巨樹の群れ。

 それだけでも立派な驚異だ。


 当然、獣達は逃げ惑い、恐れを知らない魔物達は攻められた事に腹を立てて反撃してくる。


 走り回る巨樹の群れは、魔物に襲われたり逆に追いたてたりしながら、森の中を縦横無尽に暴れ回る。



 トレント大暴走。

 通称スタンピートと呼ばれるこの行為は、満月の晩に興奮した複数のトレントが走り出した結果それが伝播したり、外敵に襲われた時の逃走などの時に行われる。


 しかし近年、敵がいるワケでも満月でも無いのに、時折小規模なスタンピートが発生するようになった。


 若いトレントにとって、普通の樹木から意識を持ち「動ける」ようになるのは、長い時をかけての悲願であり、喜びだ。

 そんな感じなので、走ったりしようものならスグにハイになる程に高揚する。


 若かった私も、そのハイな気分のまま一緒に走る仲間を集め、毎晩のように暴走行為を繰り返していた。


 そして、毎日同じようなメンバーで走っていると当然、誰が早いだの、誰の走りが美しいだのと言い争いが発生するようになる。


 じゃあ競争しようってなったのだが、それぞれ得意なルートが違う。

 荒れ地に強い奴もいれば、山下り最速を自負する奴もいる。

 なので公平になるように皆でコースを作った。

 最高速を競うコースや岩や砂漠があるコースなど複数のサーキットが完成した。


 その時、中心になってコース設計をしていたのが私。


 その時のサーキットが、この森のトレント中に広まり、今では定期的に小規模スタンピートと呼べるようなレースが繰り返されている。



 そして今、私の目の前で獣達と追いかけっこをしているのが、その頃一緒にレース場を作っていた仲間達。


 別に新しいコースを作ろうとしているワケではない。


 会議の最後に、エントが言った提案。





「村を、作ろうと思うのじゃが、どう思う?」





 どういう事かと言えば、人間が我々を襲うのは、我々の事を獣と同じに考えているのではないか、と。


 その証拠にエルフ達などは襲われないどころか、人間と交流まである。

 もちろん彼等の場合、姿形がお互い似ているというのも大きい。

 言葉が通じ、意志の疎通が可能な我々を、亜人ではなく魔物と見る人間共は確かに浅はかで愚かだ。

 現にエルフやドワーフは我々と小さいながらも交流があり、彼等の集落に行っていた者達も非道な目にはあっていない。

 姿形が大きく違う事は、交流不可能と同じでは無いのだ。

 しかし我々もまた、野生動物のような生活をしているのも事実。

 それならば生活様式を少しだけ変化させ、人間が言う「文明化」という形を取れば、一方的な伐採から逃れ、争わずに共存出来るのではないか。



 争いではなく共存。

 その為の可能な範囲での譲歩。

 その為の村作り。



 エントの言った事は、そういう事だった。




 トレントというのは、本来争いを好まず呑気な種族である。


 争わず、逃げる事もなく、この森で暮らせるならば・・・



 最高だ!




 私達はエントの提案に賛成し、何処に村を作るか、どのようにしていくのかを活発に話し合った。


 そして今。

 ドライアドの案内により、森の中心部にて候補地を確保している、というワケだ。



 どうやらエントとドライアド達は、しばらく前からトレント村構想を練っていたらしく、候補地もすんなり出てきた。


 しかし示された候補地は魔力に溢れ、強力な魔物も住み着いている上に、我々のテリトリーからも外れていた。


 まずは獣や魔物の放逐。

 やってる事は、縄張りの確保。

 ある意味、人間ぽい行動とも言えるが、強い者が一番良い場所に住むのは自然な事。

 今までは魔力よりも綺麗な水や日光を求めていたので手を出さなかったが、拠点を作り守りを固めるならば、魔力が豊富で肥沃な土地の方が都合が良い。


 という事で過去、荒れ地をサーキットに変えた実績(?)を買われ、私と仲の良い仲間達が領地確保のスタンピートを大規模に実施中なのだ。



 なにせトレントというのはデカい奴が多い。

 木だから仕方がないのだが、その分、土地も広く必要になる。


 一部才能のある奴や、樹齢が500年を超えた奴なんかは変化の魔法も使えるので、ある程度は小さくなれるのだが、それだって限界はある。

 下手くそな奴なんか、姿形は人間なのに身長が10メートル超え!なんてのもいる。

 そうなってくると、もはや別の生き物だ。


 昔、人間に変化しても2メートル以内に収めることが出来る魔法の得意な奴が「ウサギのサイズに挑戦!」と言って変化した事がある。

 結果、人間サイズのウサギが現れた。


 ちなみにそいつは、今まさにスタンピートでヒートアップの真っ最中。


 まぁ何が言いたいかと言えば、つまりはそれくらい小さくなるのが大変だということだ。


 なのでスタンピートの範囲も自然と広くなる。


 いくらトレントの数が減っているとはいえ、まだ1000体からの数がいる。

 そのうち変化出来ない奴が八割以上。


 その数が入る範囲を確保しなければならない。



 ・・・いや、少し違うな。


 トレントの数は確かにまだまだ多い。

 しかし中には、今いる場所から動きたくない。又は動きたくても自然と一体化し過ぎて動けない者もいるのだ。

 実質、村にいる数はおよそ半数ってトコか?

 変化出来る奴なんて数えるほどしかいない。

 そうなると、20メートル級の木が100〜500。そいつらが自由に動き回れるだけの場所を確保しなければならない。


 そこを走り抜けるのは、10体足らずの暴走トレント。

 いくらコチラに実績(笑)があり、トレントの総数が少ないとはいえ、流石に疲れてくる。精神的に。


 途中休憩を挟んでいる時、思わずでた溜息に気付いたのか、ドライアドが近付いてきた。


「・・・大丈夫」

「・・・もうすぐ」

「・・・終わり」

「・・・上出来」


 髪の色が、白と黒の2色に別れた双子のような幼女が、交互に話しかけてきた。

 顔は双子のようだが、彼女達にも違いはある。

 片方は髪の右半分が黒く、もう片方は左半分が黒いのだ。


 しかし彼女達は、いつもこういう話し方をするので、どちらがどちらなのか区別が付きにくい。


 きっと2人で1人なんだろうな。双子ってそういう思いが強いって聞くし。


 相変わらず、どこで聞いたのか思い出せない知識を思い出し、自嘲しながら2人に問いかける。


「もうすぐ終わり?多分まだまだ拡げないと狭いと思うんだがなぁ?」


「・・・大丈夫」

「・・・秘策有り」

「・・・今日の分」

「・・・早く」

「・・・終わらす」

「・・・終われ」


 相変わらずよく判らない。

 エントがよく喋る方だから、これでバランスが取れてるのかな?

 後で秘策も合わせてエントに聞いてみよう。


 私はそんな事を思いながら仲間に向かい、作業再開の声をかけていった。


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