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トレントの王

「なんじゃ?今頃気づきおったのか?」


 エントは私の話を聞くなり、そう言った。


「え?」





 私は人間地域からの定期報告のため、トレントの森に帰還していた。


 定期報告は毎回満月の夜に行われる。


 魔力が高まり、移動や会話がいつもよりスムーズに進行出来るからだ。


 ただでさえ、トレントはのんびり屋が多い。


 自分に危機が迫った時や若木なら別だが、樹齢1000年近い年寄りなど、朝の挨拶をしただけで昼になるなんて事が時々ある。


 しかし満月の夜だけは気力、魔力ともに充実し、まるで若木のように振る舞う者も出てくる。


 逆に若木などは普段から元気いっぱいなため、満月の夜は溢れ出る活力が抑えきれず、ありえない急成長をしたり、突然走り出して一晩中暴走行為を繰り返したあげく、手当たりしだいの破壊工作をする奴までいたりする。


 かく言う私も、少し前まではその暴走行為を繰り返していたのだが。


 とはいえ元気なのは良い事なので、大事な会議などは必ず満月に行われている。

 葬式のような会議よりも、活発な意見交換を。というワケだ。


 そこに集まったのは、エルフ、ドワーフ、人間の各集落に偵察に出ていた数体の精鋭トレント達と、エントの他2体のドライアド。


 樹妖精であるドライアドは、エントとともに森を守っている。


 いわばこの森の首脳陣にあたる。


 見た目は幼い少女達だが、魔力、年齢ともにエントに次ぐ実力者であり、我々トレントは全て、エントとドライアドの元に平等な扱いという事になっている。



 なぁんて言っているが、基本のんびり種族なトレントは逆らおう等とは思わないし、逆らった所で一方的にやられるのはコチラなのは目に見えている。


 そして平等とは言うがトレント同士も、年寄りや力の強い者は偉そうだし、決して完全な平等ではないのはどこの社会でも同じだ。



 そんな森の最も深い北の奥地。

 そこがエントの聖地であり、我々が今報告を行っている場所。


 各々が持ち寄った報告をエントが聞き、判断を下すのだ。



 何体かの報告の後、最重要情報元として最後に私が報告する。


 危険度が最も高い人間地区で活動しているのは、今では私1体だけ。


 当初3体いた仲間のうち、1体は狩られ、もう1体は・・・逃げた。


 野郎、逃げ足早かったなぁ〜。

 今では良い思い出だ。

 何しろ奴は逃亡した事で狩られずに済んだのだから。



 そして私は今回、普段通りの報告の途中、何故か人間の動きがよく理解出来るようになった事を告げた。


 まさか元人間です。なんて、馬鹿正直に言ったところで信じては貰えないだろうし、それどころか怒られて薪にでもされてしまうかも知れない。


 しかし、自分の身に何が起こっているのか気になるし、樹齢を重ねトレントから進化したエントという存在ならば何か判るかも知れない。


 そう思い、若干誤魔化しつつ告げた言葉だったのだが、エントの言葉を聞いて空いた口(虚?)がふさがらなくなるところだった。


「お前さんの魂は、元々人間のソレじゃよ。本当に今まで気づかなかったのかの?だからワシは人間の集落にお前さんを向かわせたのじゃ。」


 当然のような顔をしてそんな事をカミングアウトされた。


 私は周りの者達が、どう反応するのか少し警戒しつつ次の言葉を待つ。


「元人間なのだから、そりゃあ理解も出来るじゃろ。だから一番生き残る確率が高いとも思ってはおった。」


 当然のようにドヤ顔で語るエントに対し、動揺を隠せない。



 ・・・何故バレたし。

 いや、エントだから当然?


 ってか、周りの奴らの反応が薄いのも怖いよ。


 もしかして皆すでに知ってて、私をはめた?

 え?今夜って報告会議じゃなく公開裁判?


 いやいや、自分から言ったんだしソレは無いと思いたい。


 ってかコレが裁判だったら即処刑の流れじゃない?

 殺処分ですか?

 薪にされちゃう!?



 私がオロオロしていると、隣にいたトレントが教えてくれた。


「お前昔から、動きや考えが時々森にくる人間に近いんだよ。皆そう思ってた。当然お前の事を怖がる奴もいた。それでエントに相談したんだ。こいつは我々の仲間か。それとも敵か?って」


 ・・・知らなかった。

 皆私の事、そんな風に見てたんだ。


「で、エントが言われた。お前に害は無い。今まで通りに付き合ってやれってね」



 エント!ナイス!

 即処刑は無いかも知れない!



「だから俺たちは、皆お前の前世が何だったか知ってる。エントの言う事が絶対ってのもあるが、知っていて、こうやって話をしてるんだ。そんな顔すんな」


 別の奴が続けて、


「確かに以前は怖がってる者もいたが、今じゃそんな奴いない。お前の気性が皆に受け入れられたんだ。人徳(樹徳?)だよ」


「ってか、その様子だと、本当に自分の事を今まで知らなかったんだな?トレントらしくて呑気な奴だよ」


 思いっきり笑われた。


 何だ。

 ドキドキしていたのは私だけか。

 良かった。


 しかしエントは何故、私が無害だと信じてくれたんだろう?

 正直、自分の事ながら他人が人間かも知れないなんて知ったら、私なら疑ってしまう。


 あ、だから皆エントに相談したのか、納得。


 でも、いつ頃から疑われたんだろ?


「俺が気づいたのは100年近く前かな?トレントの癖に飯が食いたいとか昼寝したいとか、走る姿も人間に近かったし、変な奴だとは思ってたよ」



 100年って、意識芽生えてスグじゃん!



「そうそう!せっかくだからレースしようなんて言い出してコースを整備したりもしたよな!まるで人間が通り道を作るみたいに!」


「我々は樹木人だから枝ぶりは気にしてたが髪型?を気にして散髪だ!と言いながら剪定したりはしなかった。あれはお前が流行らせたんだよな」


「レースも今では若い奴らだけでなく、トレント全体の娯楽だし、それの順位を賭けてギャンブル始めたのもお前だ。まぁ、俺は気に入ってるけどな」



 いや、飯にしてもレースにしても、その方が楽しいよな〜って思いつきで言ってみたら、皆ノリノリだったし。

 髪型は昔から皆も気にしてたよね?


 そんなに変だったのかな?


 でも、同じ思いつきでもギャンブルはやり過ぎだったかな?ハマりすぎてる奴もいるみたいだし。ほどほどにしないとね〜。



「そんなワケでお前がやってきた事は人間臭いんだ。でも嫌ってワケじゃなく皆お前の事は好きなんだ。エントの言葉は安心の裏付けみたいなものだよ」


 その言葉に安心して、つられて笑ってしまった。

 だって本当にビビったし。


「ワシはトレント達に相談される前から、お前さんの事は気にかけておった。精霊が教えてくれていたからの。人の魂を持った者が産まれる、と」


 エントが語りだす。


「しばらくドライアドにも頼んで観察させて貰うていた。確かに変な奴だと思いはしたが、悪意は感じられなかった」


 エントは隣にいるドライアドに頷きつつ、


「ならば、多少変わった樹木人だと思えば良いだけじゃ。仲間である事に変わりは無い」


 言い切って胸をはりドヤ顔をした。



 エントは普段から人間の女みたいな姿をしている。癖の強い黒髪に吊り目とニヤニヤ笑い。口元からは牙も見えるので、樹木人というより肉食獣のようだ。例えるなら女戦士?。そんな姿に好んで変身している癖に、やはり王は偉大だなと改めて思う。


 何者であろうと仲間ならば受け入れるという姿勢。



「さて、報告は以上かの?なればワシから提案があるのじゃが」



 私の事など些細な事とでも言うように一同を見回しながら、我等が偉大な王は場の雰囲気に区切りをつけるように一際大きな声をだした。


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