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トレントと草小人

 魔樹の森の外縁部には、森をぐるりと迂回するように大きな街道が存在する。


 トレントが発生する程魔力に満ちた土地の割に危険な魔物が少ないというのもあるが、様々な種族にとってもこの森で採れる草花は質の良い薬草になったり、丈夫な木材であったりと恩恵に与る事が多い。


 それでも、ここまで立派な街道は本来ならば必要が無い。

 走りやすく道幅の広い道があれば、森から氾濫した獣達が道に沿って人里に向かってしまうし、作るのも手間だからだ。


 では何故それがあるのか。

 それは、元から道があったのだ。


 つまりこの道は、魔樹の森の名付けの由来にもなったトレントによる、スタンピートの通り道なのだ。

 街道として使われているのは、そのうちの一部でしかなく、上空から見れば判るが、それは森の外縁を一周するように続いている。


 人はそれを利用しているに過ぎない。


 もっとも、人間がこの通り道に沿って森を一周しようとしても、途中は川あり山ありの過酷な土地なので、トレントでも無ければ踏破は出来ないだろう。


 スタンピートにより作られた道を通り、トレントを狩る為のハンター達が大挙したのだから、皮肉としか言いようがないだろう。


 その道を、旅装姿のエルフが3人、人の街を目指して歩いて行く。


 一人は鮮やかな薄紅色の髪に明るい笑顔の小柄な少女。ボーイッシュな短髪に活動的なパンツ姿が、彼女の性格を良く表している。名をアゼリアという。


 もう一人は淡緑の髪に鋭い目付きを持ち、街のチンピラか素行の悪い兵士のような雰囲気を持った若者。腰に刺した木刀が修行中の刀士のようにも見える。彼の名はソートゥース。


 そして最後は、白銀の長髪に整った顔立ちの美丈夫。手に持った杖も黄紅褐色で美しく、年頃の娘なら目が合っただけで頬を染めるだろう。名前をウォルナットという。


「この別れ道を右に行けば街の方角だ」


 最後尾を歩いていたウォルナットが、前を行く2人に声をかける。

 その声も風が吹き抜けたかのように爽やかに響く。


「普段ここは真っ直ぐ突っ切る事しかしないから、変な感じだね〜」


 紅髪の少女アゼリアが、コロコロと笑いながら答える。


「時々間違ってコースアウトするバカもぉ、見た事ぁるっすけどねぇ」


 緑髪の若者ソートゥースが、少しやさぐれた様な雰囲気で返事をするが、彼自身は普通に話をしているつもりで、怒ってもいなければ不貞腐れてもいない。

 他の2人もそれが良く解っているので、顔を顰めたりという事もなく、普段通りに話を続ける。


「お前が煽るからだろ?ソートゥース」

「遅ぇのが悪ぃんすよ。こんなコーナー、ぶつけてナンボっしょ?」


 呆れたようにウォルナットが肩を竦め、ソートゥースと呼ばれた若者は悪びれる様子も無い。


「でも、当分走れなくなるから、ちょっと寂しいかもね」


 アゼリアの言葉に、ソートゥースは黙り込む。

 彼もそれを感じているのだ。


「また直ぐに戻ってくるさ。この森が。いや、この国が俺達の故郷なんだから」


 ウォルナットの言葉に、2人は顔を見合わせて微笑んだ。

 彼等の頭上には、どこまでも続く青空が広がっていた。



 ―――――――――――――――


「金が無い」


 森のそばの街道を外れて暫く歩いた所で、日が暮れた。

 夜通し歩いても良かったが、無理に移動しなければならない程、遠い距離じゃない。

 とりあえず3人で野宿する事にしたのだ。


 人間の街に着く前に少し相談したかったし、初めて街に行く2人に色々教える必要があると思ったってのもある。

 と言っても、野営の準備なんか元からしてないし、焚き火なんて怖いので、何か用意するワケじゃない。


 腹は減ったが、飯が無くても水筒には水がある。

 ゴロゴロしながら休憩して、話をしながら水を飲む。トレントなんてこれで充分だ。


 で、2人に人間の事を教える為に話を始めたんだが、重大な事に気が付いた。


 人間は、宿に泊まるにも飯を食うにも金がいる。

 そしてこれから行く街は、街の人間や身分の証明出来る者は門番が無料で通してくれるが、そうで無い者は金を払わないと街に入れない。

 自分の身分を保証出来るだけの金を、自分で払える奴だけが入れるのだ。

 そんな事したら街に誰も近づかなくなり、街が廃れるんじゃないかと思うのだが、この街は俺達の住んでいた森やエルフの集落にも近いので、交易を求めて人が集まる。その中には泥棒目当ての奴もいるらしく、そんな奴は大抵、街の入口で金を取られる事を知ると入るのを止めたり、金が払えなくて入れなかったりするので、泥棒避けと街の収入源として、結構な額を要求されるらしい。


 街の外で情報収集していた時、そんな会話を商人達がしているのを聞いた事がある事を思い出した。


 これは事件だ。


 俺達3人は、勿論金なんて持ってない。

 金を得る為には仕事をしなくちゃいけない。

 俺が頭を抱えて2人に打ち明けると、


「何とかなるんじゃない?」


 アゼリアが、全く何も考えていませ〜ん的な適当な返事をしやがった。


 こいつ、どうしてくれようか。


「金ってぇのが何なのか、良くわかんねぇっすけど、何か仕事すりゃいぃって事っすよね?」


 おぉ。

 もっと細かく説明する必要があるかと思ったが、ソートゥースは何となく理解してるっぽい。

 理解が早い。すげぇな。


 するとアゼリアがアゴに指をあて、何やら考えている風な格好をしながら質問してきた。


「ん〜。仕事したら、そのお金ってのが貰えるの?」

「簡単に言うとそうだ」


 頷きながら答える。


「どんな仕事すれば良いの?」

「相手が金を払っても良いって思ってるような仕事だな」

「それじゃ良く解んないよ」


 う〜ん。何て言ったら良いんだろう?


「例えば、そいつが持ちきれないような荷物を代わりに運んだり、危険な獣を退治したりとかだな」

「そしたら貰える?」

「必ず貰えるワケじゃ無い。相手が『金を出すから代わりにやってくれ』と言った時に仕事をしたら貰えるってダケだ」

「そんな都合良く貰えるの?」


 中々鋭い事を聞いてくるな。

 でもココでキチンと説明してやらないと、後で困るのはコイツだ。もちろん俺も困るけど。


「簡単には貰えないな。こっちのやった仕事が適当だとダメだ。真面目に働いて得るもんだ」

「面倒だね」


 ちょっと嫌そうな顔しながら唇を尖らせる。

 その気持ちは解る。出来れば俺もこんな事で悩みたくない。


「思ったんすけどぉ。人間は皆、金持ってるんすよね?」


 お?ソートゥースが何か思いついたかな?


「皆じゃないが、大抵持ってるな」

「そぅしたらソレを、お願いして分けて貰うとかぁ、出来ないっすかねぇ?」


 ・・・ソートゥースが『お願い』したら、分けてくれるかもと少し思った。



 カツアゲ、ダメ、絶対。



「それ良い考えだね!分けて貰えなかったら、ボコボコにしちゃえば良いんだよ!」

「アホか!ダメに決まってるだろ!」



 強盗、ダメ、絶対!!



 アホと言われたのが気に入らないのか、拗ねたように頬を膨らますアゼリア。


 ダメなものはダメです。


「じゃあ、どうするのさ?」


 それを今、考えてるんですよ。


 でも、本当にどうしようかな?


 アゼリアが言うように、そうそう都合よく仕事なんて無いだろう。いきなり見知らぬ他人に畑を手伝いますとか、荷物運びますとか言われても、俺だったら疑う。こいつ怪しいって。

 かと言って売り物になるような物なんて持ってない。



『〜〜〜♪』



 そんな風に悩んでいたら、どこからともなく音のような物が聞こえてきた。

 咄嗟に身構えるが、どうやら何かの音楽のようだ。

 2人も怪訝な顔をしている。


 何だろ?この音。


 弦楽器みたいだけど、聞いた事ないような感じの音だ。


 2人も気付いたようで、耳をピクピクさせている。


 さっきまで騒いでいたアゼリアが囁く。


「・・・音楽に聴こえる」

「俺にも聴こえた」

「・・・」


 3人して、音の方に行ってみる。

 音は、思ったより遠くから響いてきていたみたいで、しばらく歩く事になった。


 そうして辿り着いた場所は、街道から大分外れた草原だった。

 その端に誰かがいて、何かを鳴らしている。


 ここまで近づくと音楽もハッキリ聴こえるが、それにしてもコレは・・・。



『〜〜〜♪』



 心の底に響くような美しい旋律に、思わず聴き入ってしまう。


『〜〜〜・・・』


 突然、音が止んだ。

 あれ?と思っていたら、子供のような声が響いた。


「うにゅっ。隠れてないで出て来て下さい。誰かいるんですよね?」


 別に隠れていたワケじゃないが、音楽の邪魔をしないように、そ〜っと近づいていたのは確かだ。

 音楽じゃなく、俺達の知らない獣の鳴き声って可能性もあったしね。


 ちょっとバツが悪い気がしたが、俺も声をかける事にした。


「嫌、済まない。邪魔するつもりは無かったんだ。素晴らしい音に引き寄せられてきてしまった」


 そう言って、まず謝罪した。

 危険は無さそうだ。


「俺達は旅の者だが、君は?」


 すると謝罪を聞き入れてくれたのか、こちらに振り向きニコリと笑ってくれた。

 その顔や姿形は、まるで子供。

 10歳くらいの女の子に見えた。


「うにゅっ。エルフさんですか。私は草小人の吟遊詩人です。音を褒めてくれて、ありがとうです」


 草小人。

 通称グラスランナーと言われる種族は、成人しても人間の子供くらいの大きさしかない。

 手先は器用だが非力な為、細工職人や吟遊詩人になる者が多いと聞く。


 なるほど。それなら彼女も見た目通りの歳ではないのだろう。


「ねぇねぇ!今の音、素晴らしかった!良かったら、もっと聴かせてくれない!?」


 目をキラキラさせて彼女に駆け寄るアゼリア。

 気持ちは解るけど、初対面なのに馴れ馴れしくないか?

 でもソートゥースも、声には出さないが満更でもないみたいだ。


「うにゅっ。いいですよ。では聴いて下さい」


 そう言って楽器を構える彼女は堂々としていて、やはりプロは違うなぁと感じる。


 そして、ふと気付く。

 あった。

 元手が無くても出来る商売が。


 俺達も、音楽をやればいいんだ。

 歌うくらいなら、出来るんじゃないか?


 そんな事を考えながら、彼女の演奏を聴き続けた。


一人称視点の話って、個人的には読んでいてあまり好きじゃないんです。実は。

でも、書いていて筆が進むのはこっちなんですよね。

ノリだけで書いてるのは反省してます。

見捨てないで下さい(笑

これからもよろしくお願いします。

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