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トレントとドワーフ

 パインとゼルコバの2人を表すのに、最も適切な言葉は『堅い』であろう。


 性格も堅物であるが、彼等の身体は他のトレントと比べても丈夫で堅いのだ。


 それは人化しても影響したのだが、少々捻じくれて影響してしまったらしい。


 武人らしい潔さと貫禄ある佇まいを持っていた2人は、多少融通が効かないが、落ち着いた武闘派といった立ち位置を確保していた。

 しかしそれが名を持ち人化した事により、心の奥底に眠っていた性質が表に出て来たのか、性格や姿形に変化として現れた。


 他の樹木人はエルフに似て容姿に優れ、身体付きもやや細いのだが、彼等2人はがっしりした体格に鬼の様な容姿を持ち、身長も2メートルを超えた。


 髪色こそ緑だが、エルフのように更々と流れるような艶のある髪質ではない。


 ゼルコバはゴワゴワとした癖毛の短髪。


 パインに至っては濃緑のモヒカンだったのだ。


 渋いエルフの武人を想像していた女王シャルルは、パインが人化した姿を見て、思わず呟いた。



『・・・何故こうなった。のじゃ?』



 しかし次にゼルコバが似た姿。というか輪をかけてゴツい姿になったのを見て、


『・・・樹の質が変化してしまったのかの?いや、これがこいつらの元々の樹質だったのじゃろうな』


 と自分を納得させて、考えるのを放棄した。


 どんな姿だとしても、彼等の真っ直ぐな性格は変わらなかったからだ。

 貫禄や落ち着きは、何処かへ行ってしまったみたいだが。



 褐色の肌に長い耳と濃緑のモヒカン。筋肉質な2メートル超の巨躯に四角くゴツい岩のような顔が、成人男性の太腿のような首の上に乗っているパイン。


 同じく褐色の肌に長い耳、深緑の短髪に癖毛が跳ね回っている。パインよりも筋肉量は多いが、身長は同じくらい。顔は面長で目元は優しいが、癖の強い眉毛が焔のように見えるゼルコバ。


 2人が並んで立つ姿は、それだけで気の弱い者なら気を失いかねない迫力がある。


(アマゾネスがバーバリアンを従えてる)


 とは、ウォルの感想である。



 そんな2人が、ドワーフ族への使者として旅立った。


「殴り込みじゃと間違われねば良いのじゃが・・・」


 自分が指名した癖に、女王シャルルはそう独り言ちた。


 ―――――――――――――――


「パイン!」

「どうしたゼルコバ!」


 2人は走っていた。

 ドワーフの集落は、火山地帯の鉱山にある。

 緑豊かな土地である魔樹の森からは、トレントの脚でも10日前後かかる。

 そこまで離れれば、移動くらいは元の姿に戻っても良いのではと思う物だが、2人にその発想は無かった。何故なら、


「エルフの身体と言うのは軽いな!」

「おお!身体に羽が生えたようだ!」

「走る速度が今までの何倍も早く感じるぞ!」

「魔力も充実して感じるぞ!」


「「うはははははははは!!」」


 名を与えられた事による能力アップは、彼等の筋力や身体能力をアップしていた。

 逆に知能は若干低下したようにも感じるが、彼等は元々こんな感じだった。


 その上がった能力に物を言わせ、彼等は激走を続けたのだ。


 岩山を飛び越え、河上を走り、睡眠も食事も取らず、ひたすら直線に走り続ける事に快感を覚えた頃、ドワーフ達の住む鉱山の入口に到着した。


 実に、森を出発してから3日目の真夜中の事であった。



「着いたぞ!」

「着いたな!」

「行くか!」

「待てゼルコバ!」

「パイン!何故止める!」

「今は深夜だ!」

「問題は無い!」

「我等はそうだがドワーフ共は寝ている時間だ!」

「それがどうした!」

「我等は女王陛下の使者だ!ドワーフ共に失礼があってはならん!」

「その通りだ!」

「明朝に出直すぞ!」

「なるほど!承知した!」


「「うはははははははははは!!」」



 2人が笑いながら話していると、非常に不機嫌そうなドワーフが数人、住処から出て来るのが見えた。


「おお!まだ起きていたか!」

「これは好都合!」

「もし、ドワーフの方々!」

「少し宜しいか!」


 これだけ騒いでいれば、誰でも起きる。


「よろしくなど無いわ!やかましい!お前ら今何時だと思っとるかぁ!!」


 不機嫌の極まったドワーフ達は、一斉に2人に襲いかかった。


 ―――――――――――――――


 人間の戦士、というより山賊に近い風貌の二人組が深夜に集落を襲った。


 寝ている所を起こされたドワーフ達はかなり腹を立て、ツルハシや斧を手に彼等に襲いかかったが、彼等の肉体に傷を付ける事が殆ど出来なかった。


 いや、攻撃は当っていたのだが、筋肉の壁に防がれてしまうのだ。


 それどころか奴等は、笑いながらドワーフ達を投げ飛ばした。

 彼等もやられっ放しでは収まらない。

 次々に仲間を呼び、大乱闘になった。


 死屍累々。

 気絶した彼等を見下ろしながら、奴等は言った。

 ドワーフの長に合わせろ。話し合いがしたい、と。


 今更話し合いも無いもんだが、武力で奴等を制圧するのは無理そうだ。

 そう判断した彼等は、親方の元に連れて行く事にした。

 暴れずに大人しく話しをするだけならばと、約束させて。


 その時、東の空から太陽が顔を出した。

 いつの間にか夜が開けていたらしい。

 彼等は登る朝日を見ながら、親方の無事を祈った。




 ドワーフの長は、種族の中で親方と呼ばれている。

 彼等種族の生活。炭鉱探索や鍛冶仕事がメインな事を考えると、一番知識と経験のある者を親方と呼ぶのだから、当然と言えば当然の呼び名である。


 彼はソレが少し不満だったが、言っても直らない。

 仕方ないかとは思いつつ、もう少し長を敬えとも思っていた。


 そんな彼だが、当然夜中からの騒ぎには気付いていて、外に出て状況を見守っていた。

 すると襲ってきた蛮族が、自分を指名してきたではないか。

 しかもいつの間にか、話をする流れになっている。


 彼はドワーフらしくたっぷりとしたビール腹と顔中を覆った髭を揺らし、渋顔を作りながら彼等の前に進み出た。


「儂がドワーフの長だ。手前ら何者だ?」


「長殿!我等2人、樹木人種の女王より使者として参りました!」

「ぜひ我等と和議を結び、共に同士として歩もうではありませんか!」


 暑苦しい物言いに、長はドスの聞いた声で答えた。


「帰れぇ!」


 ―――――――――――――――――


 結局、ドワーフとの同盟は成立しなかった。



 最初の印象が最悪だったのもあるが、パインとゼルコバの話を聞いても、ドワーフ達は興味を持たなかったのだ。


 彼等ドワーフにとって、他の種族がどうなろうと知った事では無い。

 事実エルフとはソリが合わないので交流など無いし、人間と共にあるのは自分達の技術を認めてくれるからだ。もし人間の多くがドワーフを蔑ろにしたり無礼を働けば、彼等はあっという間に人間を見限り炭鉱に引き籠るだろう。


 もちろん例外はあるが、基本的に独立独歩が彼等の信条なのだ。

 いくら訴えられても、答える事は無い。


 しかし樹木人種の使者を名乗る者達は、必要以上に暑苦しく、又しつこかった。

 何回断られても、何日も何日も交渉しようと長の元を尋ねる。


 そんな事をされれば、余計に嫌になる。


 そうした日々が10日も過ぎた頃には、一緒に酒を酌み交わすドワーフも現れはした。

 だが彼等の意見は変わらなかった。


 お互いの意見は平行線を辿り、結局、パイン達は一旦帰る事にした。


 酒場のドワーフ達に説得されたのもあるが、一度女王陛下に報告しようと思った為だった。


「ゼルコバよ!」

「何だパインよ!」

「また戻ってくるぞ!」

「勿論だとも!」


 2人は後ろ髪を惹かれる思いで、ドワーフの里を後にした。


 ―――――――――――――――――――――――


「御苦労。しばらく休むと良いのじゃ」


 魔樹の森に帰り、報告を行った2人は驚いた。

 成果を上げずに帰った自分達は、何らかの罰を受けると思っていたからだ。


「ドワーフ共の性格は理解しておる。同盟などダメで元々。要は樹木人種という存在がいるのじゃと認識させたかった、というのが今回の目的だったのじゃ。そういう意味で、お主等は良くやってくれたとワシは思っておるのじゃ」


 罰どころか褒め言葉を貰い、2人は複雑な気分だったが、女王陛下が言っているのだ。これで良かったのだろう。

 そう納得しようとした。


 しかし、


「パインよ!」

「何だ!ゼルコバ!」

「俺は思うのだ!女王陛下はあぁ言ったが、やはりドワーフ共との共存を望んでおられるのではないかと」

「うむ!儂もそう思っていた!でなければ我等を遣わしたりはしないとな!」

「おぉ!では!」

「行くか!また!」

「行くぞ!ドワーフの集落へ!」


「「うはははははははははは!!」」





 その後2人は、何回も魔樹の森とドワーフの集落を往復し続けた。

 その結果、ドワーフの中に樹木人という存在を認知させる事にだけは成功した。


 それが良い意味でなのか、悪い意味でなのか。

 それは解らない。


おかしい。

もっと落ち着いたキャラになるハズだったのに。


何故こうなった。


世紀末的モヒカンか?

それとも、兄貴的な筋肉か?


自分でも謎です。

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