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トレントの建国

「・・・お主の名は、メドゥラー。今よりそう名乗るが良いのじゃ」



 15体目の名付けが、無事終わった。


 まばゆい光が収まると同時、全員が一斉に歓声が上げた。

 エントも満足そうな顔で、ウムウムと頷いている。


 そこかしこで、お互いの名前や容姿をネタに笑い合う光景が広がっている。


 不思議な事に、全員エルフに似た姿になり名付けは終了した。


 エルフの特徴は、長い耳と絹のように滑らかな白い肌、くすみの無い美しい金髪か銀髪。

 彼等との違いは、我々は全員褐色の肌をしている事か?

 髪色は私以外全員、赤髪か緑髪。そこも違うか。

 何故私だけ白いんだろう?

 そう言えばエントは黒髪だし、ドライアドは白黒のツートンだ。

 何か意味があるのかな?


「ウォル!」


 そんな風に考えていたら名前を呼ばれた。振り向くと、そこには小柄な少女が立っていた。


「今、振り向くのに間があったよ?自分の名前にまだ慣れないのかな〜?」


 彼女はからかうように、笑って話し掛けてきた。


「考え事してたダケだよ。お前こそまだ慣れないだろう?アゼリア」


 褐色の肌に、鮮やかな紅の髪。ボーイッシュな短髪は、小柄であどけない容姿と相まって、パッと見ると少年のようにも思える。しかし、思春期の少女特有の瑞々しい雰囲気が、彼女が女であると強く印象付けていた。

 その見た目通りの元気な声を出す。


「僕の名前覚えてくれたんだね!嬉しいよ!」


 弾ける笑顔ってのは、こういうんだろうなぁ〜。

 どっかのアマゾネスの怖い笑顔とは全然違うな〜。


「のじゃ?」


 そんな事を考えてたら、エントが不思議そうな顔で振り向いた。



 怖い怖い!

 アンタ、エスバーか!

 心を読むなよ!



 目を合わせないように必死に逸らしながら、アゼリアに話しかける。


「それにしても、お前がメスになるとは思わなかったよ」

「えへへ〜♪何を隠そう僕は元々雌株だったのだ。どうだ可愛いだろ〜?」


 彼女も満更ではないらしく、両手を腰にあてて胸を張って自慢する。胸は無いが。


 ヒーローの登場シーンみたいだ。色気も何もないが、こいつらしくて好感が持てる。胸は無いが。


 それにしても元々雌だったとは知らなかった。胸は無いが。

 大事なので3回言ってみた。


 でもまぁトレントは実を付ける時以外、性別なんて特に気にしないんだけど。

 人化したから、少しは気になるようになるのかな?


「でも、何で皆、人化しちゃったんだろうね?それに雌雄も。僕達ってハッキリ別れてないのも沢山いるのにね」


 そのままのポーズで小首を傾げ、疑問を口にする姿はまるで小学生男子だ。

 でも、その疑問はわかる。

 俺も人化なんてする気は無かった。

 ってか、出来るなんて夢にも思って無かった。


 考えられるとしたら、エントが何かしたって事かな?



「のじゃ」



 返事されたよ!?

 また考えを読まれた!?

 ってか、ホントに何かしたって事!?

 いやいや、ただの偶然かもだし。

 エント今こっち見て無いし!



「そ、そうだなぁ。なんで人化したかは判らんけど、雌雄は人化した時に勝手に振り分けられたんじゃないか?」

「そうかな〜?僕、エントが何かしたんだと思うんだけど、どう思う?」


 見た目、陸上部の女子高生みたいなのに中々鋭いな。

 いや、女子高生みたいだから鋭いのか?わからん。


「気になるなら、俺じゃなくエントに聞けよ」


 あのエスパー・アマゾネスに聞け。

 きっと、ボストンバッグの中に身体全部を突込みながら答えてくれるハズだ。



「・・・のじゃ?」



 怖っ!

 今度は殺気が飛んで来たよ!

 っか、やっぱり心読んでるよね!?

 何?混ざりたいの?会話に混じりたいの?ぼっちエスパーなの!?



「え〜?そんなに気楽に聞けないよ」


 アゼリアは少し頬を膨らませる。


「だいたいエントに気楽に話し掛けてるのなんて、ウォルだけだよ?僕達なんて畏れ多くて無理だもん」


 え?そうなの?

 思わずキョトンとしてしまった。


「あ〜。やっぱり気付いてなかったかぁ」


 しょうがないなぁという雰囲気を隠しもせず、呆れた顔をされた。



「のじゃ♪」


 何故かご機嫌な声を出す、ぼっちエスパー。

 腹立つな!



「いや、お前だってこの間エントのトコにイタズラしに行ったじゃん」


 そうなのだ。このアゼリア。

 今は少女の姿だが、実はいつも一緒に遊んでいた仲間の1人で、通称、巨大ウサギ。

 ついこの間、イタズラ失敗のお仕置きに石版持って立たされていた奴の1人だ。


「そんなの、ウォルに乗っかっただけだよ。フィルにも聴いてみなよ。同じ事言うから」


 また呆れた顔された。


 そう・・・なのか?


 ちなみにフィルってのはもう1人のお仕置きされた奴で、人間領域から逃亡した奴。

 アイツはいい気味だ。ざまぁ。


 でもこいつもノリノリで襲撃に行ったと思ってたのに、悪い事したかな?



「のじゃ」

「・・・」


 ちらりと窺うと、やっと気付いたかみたいに満足そうな顔でニヤニヤしながら頷いてる、ぼっちアマゾネスが目に入った。




 カチーン。




「のじゃのじゃヤカマシイわ!ボケー!!」

「のじゃーーー!!!」



 自分でも惚れ惚れするほど美しいジャンピングラリアットが炸裂した。



 ―――――――――――――――



「あ〜。少し説明するのじゃ」



 気になるのか首の辺りを擦りながら、皆に向かってエントが話し出した。

 その横には正座させられてる俺。


 納得いかん。



「まず、皆をエルフにしたのはワシじゃ。まぁ人化の魔法が使えるならスグに元に戻れるから安心するとよいのじゃ」


「・・・解らない樹」

「・・・手、上げる」

「・・・教える」

「・・・安心」


 ドライアド達が私の周りを、ふよふよ飛び回りながら請け負う。


 頭を交互にペチペチ叩くのは止めて下さい。俺の頭は餅じゃありません。地味にキます。



「肌や髪の色は樹じゃから仕方ないのじゃ。しかしこれでエルフと樹木人の区別が付くので、わかり易くて良いとも言えるの」


「・・・髪色」

「・・・今、赤と緑」

「・・・樹の種類で」

「・・・色、増える」

「・・・魔力や環境で」

「・・・色、変わる」

「・・・私達」

「・・・元、薄紅色」


 なるほど。

 見た目がわかり易いのは歓迎だ。仲間の見分けが楽になる。

 髪色も色々あるなら見てみたいカモ。

 葉や実の色で変わるなら、黄色や紫もあるって事だよね?この森にはいないけど葡萄の樹とか。

 色は紫で、髪型は大仏みたいな・・・。


 見てぇー!

 めちゃくちゃ見てみたい!

 そんなの絶対笑えるだろ!

 想像しただけで笑えてくる。


 思わず吹き出したら、またドライアド達にペチペチ叩かれた。

 しかも無表情で。

 幼女にこんな目で見られたら心折れるわ。


「全員を人化させたのは他でもない。樹木人種として他種族に使者を送る為じゃ。まずはエルフ族とドワーフ族に対して友誼を結ぶのじゃ」


 エルフは森の民とも言われ、トレントとも比較的に仲が良い。

 問題なく進められるだろう。

 同じ山の中でも、岩山や鉱山に住むドワーフとは微妙な関係だが、人間ほど敵対してないし、エルフよりも人工が多い。味方に出来れば心強い。

 まぁ敵対してないだけで友好的でも無いのだが。


「エルフ族には、ポプラとユーカリの2名が行くのじゃ」

「は〜い」

「わかりました」


 エルフで情報収集していた連中だ。妥当だね。

 って事は、


「ドワーフ族にはパインとゼルコバ」

「了解!」

「了解です」


 だよね。あの2人も前からドワーフ族を見張ってたし。


「うむ。多少の条件は出されるやも知れんが、我等の未来のため、必ずや同盟を結んでくるのじゃ」


 エントが告げる。

 王命である、と。


「他の者達は、まずは村作りじゃ。とは言え既にウォルの指導の元に柵は完成しつつあり、後は小屋などを整えるだけじゃが、トレントの大きさでは無く人の大きさの小屋を建てる。他種族の使者を受け入れる為じゃ」


 なるなる。だから人化したのか。

 柵なんて完全にトレントサイズで造ったもんな。デカ過ぎたかな?


「使者として赴く際、気をつけねばならん事がある。我等はあくまで樹木人と名乗るのじゃ。トレントから進化した個体で亜人であり、魔物や魔人では無いと強調せよ。特に人族には絶対にトレントと名乗ってはならん」


 さらに強調してエントは説明する。


「それからエントと言う名もじゃ。人族どもはエントという種を危険な森の番人じゃと認識しておる。今よりワシの事は樹木人種の王。シャルル女王と呼ぶのじゃ」



 エント改めシャルル女王は宣言する。



「そしてワシはここに、樹木人種の国の建国を宣言する!」


 威風堂々と、

「国の名は『ツリーズ王国』お主らはツリーズの国民であり代表じゃ!」


 ひと呼吸起き、

「まだ、何もない、名ばかりの国じゃが・・・この情けない王に、着いてきて欲しい!」



「・・・・・・」

 一瞬の静寂。そして、


「「うおぉぉぉぉぉぉ!」」



 割れんばかりの歓声。


 たった15人の咆哮だが、それはツリーズ王国として、初めての国民の声だった。



 パインなんて感動で泣いてやがる。

 かく言う俺も感動しているのだが、いかんせん正座させられ過ぎて、足がそろそろ限界なのだ。

 素直に流れに乗れない。


 何という事でしょう!



 ―――――――――――――――



「して、ウォルよ」


 場の興奮が落ち着いてきた頃を見計らい、シャルル陛下が話しかけてきた。


「お主には人族領に行って貰いたい」


 は?何ですと?


「以前からの約束通り、人族の建物や文化を学び、我等の存在を認めさせる特使となるのじゃ」


「え〜!!」


 嫌そうなのが顔と言葉に出る。

 だって怖いもん!


「もちろん1人とは言わぬ。今回はフィルの他に、アゼリアも一緒に行くが良いのじゃ」


「嫌だ!」

「嫌です!」

「やった!」


 最初のは俺とフィル。

 アゼリアは何で喜んでるの?

 死にたいの?


「いや、また死ぬ目に合いたくないってのは凄〜く!ありますけど、流れ的に仕方ないかな〜ってのも理解出来ますよ?けど、フィルは無いでしょう!こいつ逃亡の前科があるんですよ!?」

「そうです!俺は逃げます!」


 うぉい!逃亡する気満々かよ!


「大丈夫じゃろ?今度はエルフの姿をしておる。闇雲に狙われたりはせんはず・・・」

「嫌です!」


 こいつ女王がまだ喋ってるのに食い気味で拒否しやがった!

 そんな奴、俺だって嫌だよ!

 アゼリアは何で笑い転げてるの?ねぇ、何で!?



「あ〜。俺が行ってもイイっすか〜?」



 2人して断固拒否のオーラを出してたら、手をあげて進み出た奴がいた。


「ソートゥースか。何故じゃ?」


 フムと頷いて、陛下が問いかける。


「ん〜俺ぁ、ハッキリ言って村作りとか興味ないんすよ。それより外でウォルナットの兄貴と遊びたいと思いましてね。ダメっすか?」


 ソートゥース。

 俺の造ったサーキットの1つ。名称C1で現役最速の奴だ。

『悪魔の櫟』の異名を持つ暴れん坊でもある。

 人化して今は緑の髪に蒼い瞳を持ち、気の強さが判る釣り目で、樹木人というより、陛下と同じく肉食獣の雰囲気を漂わせている。

 確かにこいつに村作りは無理だ。


「面白い事を言いよる。ワシの方針にケチを付けよるか。良い度胸じゃ、小僧」


 うぉぉぉ。こっちのアマゾネスも牙を剥き出して威嚇し始めたぞ。



「別にシャルル様にケチ付けてる訳じゃないっすよ。俺には無理だってだけっすから。それに・・・」


 ソートゥースはガシガシ頭をかきながらそっぽを向いた後、頭を下げた。


「怒らせちまったなら謝ります。スンマセンした」


 それで納得したのか、フンスッと鼻を鳴らし、最凶アマゾネスの怒りは治まったようだった。


「フン、まぁ良いわ。それにしても遊びに行きたい、か。死ぬかも知れぬぞ?」

「上等っす」


 ニヤリ。

 頭を下げたまま上目遣いのソートゥースと、上から目線で見下ろす女王陛下の2人。目線を合わせながら唇の端を歪ませて笑い合う。


 うん。何だか知らないけど通じ合ってるね。

 仲が良いのはいい事だよ。

 2人の威圧感にビビって目を逸らせなかったけど、ふと隣にいるフィルに目をやれば、ガクブルもんで震え上がっていた。


 こいつ、チビって無いだろうな?


「というワケじゃが、ウォル。依存は無いかの?」


 そんなの決まってる。


「はい。依存はありません。承知しました」


 その言葉により、場の緊張が和らいでいく。


 だいたい今この場で『承知しました』以外の言葉を言ったら、人間に殺されるより先に、2人に殺されちゃうじゃん。そのくらいの空気は読めますよ。


「良かったね〜♪ソーはウォルの事、大好きだもんね!」


 アゼリアがやたら明るい声で喜んでいる。


 いたよ。空気読めない奴がココに。


「・・・ちょっと漏れた」


 あ嗚呼ああ!フィルの奴やっぱりしてやがった!最低だよ!



「では改めて伝えるのじゃ」


 俺達3人は、女王陛下の前に立つ。


「ウォルナット。アゼリア。ソートゥース。3名は人族領域に赴き、文化を学んでくるのじゃ!」


「「「はい!」」」


 俺達3人の返事が重なる。

 すでに気持ちはひとつだ。

 でも少しだけ、怖いかも?


「・・・死ぬなよ」


 ほら。

 そんな優しい言葉かけられたら、女王陛下の為に頑張らなくちゃいけないじやないですか。


 まったくもう。


 俺はニッコリと微笑んだ。


櫟=クヌギ


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