学園等からの要件
コツコツコツ…。
長い廊下に足音だけが反響して響いている。
俺はこの巨大な学園の最高責任者が待つであろう部屋に続く廊下を歩いていた。
正直言って俺を呼び出した理由は…何となくわかる。
恐らく家のことが関係しているだろう。
はっきり言ってあの家にかかわることにはかかわりを持ちたくない気持ちが大きい。
しかし学園長から直接呼出しを受けてしまえば断れるはずもない。
「正直言って心が重いな」
自分の実家を言う言葉ではないがはっきり言ってあそこはおぞましい。
おぞましいほどに醜悪で嫌悪感すら抱く。
だが"奴ら"に逆らうことは今の俺の力ではだめだ。
あらゆる力が足りていない。
だから今は耐えよう。
そう思い出来れば今から行く場所で起きることが悪いことではないようにと祈った。
「天河才華です」
「お!来たね!入って入って!」
大きな扉の向こう側から返事が返ってくる。
そしてそのまま指示にしたがって"学園長室"と書かれた無駄に重厚な扉を開ける。
「いやぁー、わざわざごめんねー!」
入って最初に目の前に飛び込んできたのは――――大量の書類でできた山々だった。
「こ、これは…」
目の前に広がるのは大量の紙。
声の主がどこにいるのか全く確認できない。
「あ、ここだよ!ここここ!」
入って来た大きな扉から真正面の部屋の奥から声が聞こえる。
手前の書類で見えなかったが奥にはデスクがあるようだ。
デスクの下には学園長と書かれた札が転がり落ちている。
書類の山を崩さないように体を曲げながらそこまでたどり着くとひょこっ!と先ほども見た蒼髪が顔をのぞかせる。
「君を呼出した理由は…まぁ、その顔からするにおおよその予測はできているようだね」
「はい」
「君が考えているように昨日君のご実家から連絡があった」
やはり向こうから手を回してきたようだ。
「けれど私としてはそれをうまく利用してやるつもりだ」
「え?」
あまりに予想していなかった返答に素っ頓狂な反応をしてしまう。
「私は生徒が自由にやりたいことを学べるようにしたいと考えている。そして君のご実家からの指示は君を主席で卒業させて私が各界に手を回して君の実家の方々が望むポストにつけさせろというものだった」
「すみません…俺の実家の問題に巻き込んでしまって」
「私は君がそうしたいと望むならその通りに行くようにできるだけサポートしたいと思っている。それは君だけじゃなくてこの学園に在籍している生徒たちみんなにもだ。私は別に君が卒業後旅芸人にでもなりたいといえば芸ぐらい仕込んであげるよ?」
にひひっ、とほほ笑んで冗談交じりにしゃべっているが、その瞳には確かに信念があった。
複雑そうな表情をしている俺を見て、学園長が少しまじめな表情に戻りまた語り始める。
「君は君がしたいようにすればいいさ」




