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記念日

 それから程なく、十七回目の誕生日を私は、颯一郎の部屋で迎えた。


 苺で飾られたシンプルな生クリームの小さなホールケーキを目の前に、颯一郎がクラッカーを派手に鳴らした。


「ハッピーバースデイ! 柊美」

「きゃあ!ありがと」


 クラッカーの連続音に私は思わず悲鳴を上げる。

 二人で顔を寄せ合い笑いあった後


「柊美、これ」


 颯一郎は急に照れくさそうに、小さな紙バッグを私の前に差し出した。


「誕生日プレゼント……?」 

「早く開けて見ろよ」


 颯一郎はそう答えたが、視線を外している。

 確かに毎年、お互いの誕生日にはプレゼントを交換しているけれども、今年はなんとなく雰囲気が違う。

 バッグの中には、紫紺のリボンで飾られた長方形の小箱が入っていた。

 とりあえず慎重にそのリボンをとき、純白の包装紙を剥がすと、中から濃い紫色したビロード張りの入れ物が出てきた。

 どう見ても貴金属の入っている小箱だった。


 ゆっくりとその蓋を開けると


「うわあ。可愛い!」


 思わず声をあげていた。


「こんなのすごく欲しかったんだあ」

 それは、最近、女子の間で流行っているシルバーネックレスで雫型のモチーフペンダントだった。


「あ、これ”CROSS・HART”のだ!……高かったでしょ?」

「柊美の気に入ったんならいいさ」


 颯一郎はまんざらでもない顔をしている。

 私は何も言えない。


「後ろ向けよ、柊美。つけてやるから」


 颯一郎の口調は優しい。

 うなじを見せることになるのを一瞬ためらったが、私は黙って俯き、髪の毛を掻き上げた。

 妙にどきどきしている。

 颯一郎の指先が素肌に触れるたび、心臓の音が聞こえないだろうか、そんな心配をしている。

 やっぱり、男の子にうなじを見せるなんて。

 大胆なことしてる。私。

 それも、颯一郎に……。


「ほら、できた」

 そんな心配をよそに、チェーンはようやく私の首元へとかかったらしい。

 胸元のはあとを左手でそっと握ってみた。

 見なくても、それはきらきらと輝きを放っているのがわかる。


「颯一郎、ありが……」


 そこまで言いかけて私は、絶句した。 

 颯一郎が中腰のまま、そっと私を背後から抱き締めている。


「そ、そう…颯一、郎……」

「何も言わないでくれ。もう少しこのままでいさせて、くれ……」


 颯一郎の息遣いが耳元で聴こえる。

 私は体が硬直したまま動けずにいる。


 こんな……。

 こんなことは初めてだった。

 この十七年間の間で。

 颯一郎はいつも、ごく自然に私の隣にいてくれたから……


「ごめん。柊美」


 どれほどの時が経ったのかわからないまま、颯一郎は両腕を離し、ぽつりと呟いた。


「俺は……」


 言いながら、くるりと私に背を向ける。


 沈黙。

 私は──────


「柊美……?」

「何も言わないで……」


 私はその広い背中にもたれかかっていた。

 右の頬を押しあて、左手を肩にかけて。

 颯一郎もまた、私の左手の上に左手を重ねた。

 無言のまま優しい時間(とき)が流れてゆく。

 私達は充たされていた。


 私の十七回目の誕生日は、奇しくも私と颯一郎が、幼馴染みのやさしい関係から、特別な存在へと脱皮し始める記念日となった。



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