不条理な意思
その夜だった。
私は、奇怪な現象に見舞われたのだ。
例の夢の見ていた。
声に誘われて私は、とうとう神殿の中へと入ってゆく。
豪華な、植物達と同じ色の白い大理石で造られた大きな建物。
一枚、また一枚と扉を開けてゆく。
遂に私は、その一番奥の扉を開ける。
すると、その更に奥には、目を奪うような豪奢な『祭壇』が祭られていた。
そして、その背後も周囲も、室全体が巨大なコンピューターに占められ、作動しているのだ。
それは、地球の科学力を遥かに越えるものであるようにみえた。
コンピューターを『神』として祭ってあるのだろうか。
しかし、そんな機械文明にしては、一転して外の自然はあまりにも見事で、優しかった。
『声』は、はっきりと私を呼んでいる。
薄紫色をした大気も、白い植物達も、惜しみない愛情を私に送っている。
早くおいでと私を招くのだ。
そして、祭壇の前に声の主は、いた。
足下までたなびくマントのようなものを身につけたその人は、両手を広げ、「アルティシア……!」と、私を呼ぶ。
大気の声がそれに共鳴している。
植物達の歌う歌声が、聴こえてくる。
荘厳な響きを呈していた。
その音色に包まれながら、私は吸い寄せられるように歩を進めようとした。
その瞬間──────
私の体は、寝ているベッドの真上へと浮かんだのだ!
私は無重力の状態に在るかのように、ふわふわと部屋の中に浮いていた。
恐怖を感じた。
アルティシアと呼ぶその声が、本当に私の体をその祭壇の前へと連れてゆきそうな感覚を覚えたのだ。
目を閉じると夢の情景が広がる。
私は扉の前で躊躇している。
そして一歩でも進むと、本当にそこまで飛んでしまいそうなのだ。
ビリビリと額が熱く反応している。
自分の体が自分のものではないようだ。
まるで、見えない意志の力が私を吸い寄せようとしているようだ。
そして、私もまた、不条理な特殊性を持った自分の「意志」で、今にも部屋の中から消えてゆきそうな体のバランスを必死で保っている。
一方、躊躇する私をその人は悲しげに見つめている。
どうして迷うことなくここまで来ないのかと言い たげに、私の名─────アルティシア────を呼ぶのだ。
それでも私は、精神がトリップしているような異妙な感覚と、そのあまりにも異常な状態から一刻も早く逃れたい。
元に戻ろうと私は更に強く念を飛ばす。
戻って……!!
必死で強く念を額に集中させたある瞬間。
私の体は元のベッドの上へと戻っていた。
なに……何だったの?!
今のは──────
ベッドの上にへたりこみながら呆然と、今、確かに自分が浮かんでいた空間を見つめる。
そんな馬鹿なことが……みんな悪い夢だったとでもいうの……。
しかし、私の額は今までになくビリビリと、熱くまだその余韻を残していた。