不思議な転校生
「加川ルカ君、だ。彼は先月まで北欧にいたということだが、非常に優秀な成績で、我が校我がA室に編入してきた。皆も彼に負けないよう頑張ること」
朝のホームルームで担任の小池は、その季節外れの転校生を、そう紹介した。
教室の空気は少なからずざわめいている。
理由は明快だ。
何故なら、彼の顔立ちは極めて端正で整っている。その上、とても品がいい。
何より瞳の色が違う。深いエメラルドグリーン、いやむしろパープルに近いようなそんな……神秘的な色を呈していた。
そして髪の色。
何故だろう前髪だけが透けるような銀白色なのだ。
メッシュというには、あまりにもその色は瞳同様、神秘的すぎる。
更にその肌!
それはまるで陽の光に晒したことなどないかのように、限りなく乳白色に透き通っている。
しかし、不思議と病弱な印象などを与えることもなく、彼の持つ雰囲気とよくマッチしていた。
流行の顔というのではなく、異国風のエキゾチックさを湛え、そして、どことなく陰がある。
また、同じ紺色のブレザーを着ているのに彼は、至極大人びていて、同じ高校生のようには思えない。
これでは、女生徒達が色めき立つのも無理はない。
入り口付近に佇んでいたその彼を、教師が教壇の上から手招いた。
ふらりと動いた身のこなしは風のようで、その間中も教室の全生徒の視線は彼に注がれている。
ことり、と音がして彼が教壇の中央に立つと、それまでざわめいていた教室は、みるまにシンと静まりかえった。
窓から差し込んでくる朝の光を反射して、彼の柔らかな前髪は、きらきらとプラチナのように透けて一層その輝きを増している。
まるで一枚の絵を前にしているかのような錯覚を、見る者全てに起こさせるほど、彼の存在そのものが美であった。
そしてそれにもまして、この存在感はどうだろう。
それはまさに選ばれた者だけが有する、王者の風格だ。
皆を無言の内に圧倒していた彼が、改めて前を見据え、そして柔らかに微笑むと彼は、初めてその口を開いた。
「加川、ルカです。ご覧の通り、生粋の日本人ではありません。多少皆さんと違う点もあるかと思いますがどうぞ、よろしく」
淀みのない、予想に難くなかった理性的な声。
誰からともなく小さな拍手が湧き起こる中、私一人だけが、ただ愕然と前をみつめていた。
まさか……そんな!?
我が耳を疑っている。
疑っていた。
あの声、なのだ。
あの声だったのだ!
彼の声音は、夢の中のあの呼び声と全く同じ色をしている。
そんなことってあるだろうか……!?
戸惑いに呆然となりながら私は、その風変わりな転校生をいつまでも見つめていた。